上 下
3 / 62

しおりを挟む
午後。

春とは言え、まだちょっぴり肌寒い。

ワンピースにカーディガンを羽織った私は、歩いて例の銀行まで向かった。



歩いて10分の間に見る町並みは、都会とは程遠いけど田舎という田舎ってほどでもない。


高いマンションやビルもないような町だけど、普通にコンビニやパチンコ店、ゲーセンだって一応ある。


治安が良いとか悪いとかはまだ今の私にはわからないけど、普通に生活していく分には問題ないだろうと思っている。





平坦な道をまっすぐ歩くと、交差点の向こうにデッカい『本』という字が見えた。

あれが明日から通う私の職場だ。


たいして大きな本屋さんじゃないけど、駐車場が隣の銀行と併設されてるから車が停めやすく利用されやすいみたい。


そんな駐車場を跨いで、私はその隣の銀行へ歩いた。




ケータイを見ると、閉店間際の14時50分。


空は青くていい天気。


でもこれが、私の最後に見た平和な光景だった。









銀行には、窓口用の入り口とATM用の入り口がある。

別にどっちから入ってもどっちにも行けるんだけど、特に考えもなしに私は先に目の前にあった方の入り口から入った。



車椅子用のスロープの横の小さな階段を上がり、開いた自動ドアを通る。

こっちはATM用のドアだ。


4台あるATMに、更に2~3人が並んでいたので、私もその後ろに並んだ。



たいして時間もかからず私の順番が回り、早速記帳作業を行う。


画面に従って操作をすると、残高の欄に20万1千円の文字が。



お母さん、20万円も振り込んでくれたんだ!


しばらくその事実に浸っていると、後ろに並ぶおじさんに咳払いされハッとした。


いけないいけない。
早くしなきゃ。


すぐに記帳を済ませると、ペコッと頭を下げながらATMから離れた。


すると、その時にはさっきのおじさんはとっくに他のATMについていて、私は違う人におじぎをしてしまっていた…。





「お客様、恐れ入ります。
閉店の時間になりましたので、あちらのドアからお帰り下さい」



私がATM用の自動ドアから出ようとすると、銀行員のお姉さんにそう声をかけられた。


銀行って言うのは15時に一旦締め切って、中にいるお客さんだけ対応して後に閉店させるのだ。


もちろん銀行員はこの後も仕事がある。


むしろそっちの方が大変かも。



「あ、はい…」



本当だったら、私も明日からこの銀行員のお姉さんになってたかもしれないかと思うと…また泣けてくる。


いいもんいいもん。
まずは本屋さんで頑張るもんね。



心の中でそう言いながら、私は銀行員のお姉さんが指示するよう一旦窓口の方へ向かった。




ATMと窓口を繋ぐ自動ドアを通った瞬間。




「お前ら全員手を上げろ!!」



室内に響き渡る罵声に驚いて、歩いていた足がピタッと止まった。



「動くな!!
ちょっとでも動いてみろ!撃ち殺すぞ!!」



…え、何が起こったのか、私にはすぐに理解が出来なかったのだけど…。

しおりを挟む

処理中です...