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私はまた首もとに腕を回され、茶髪の強盗犯と共に車から下ろされた。



周りを見ても木ばっかりの山道。

どっちから来たのかとか、どこが帰り道だとか全然わかんない。

たとえ今この茶髪の強盗犯がいなくても、私1人じゃこの山を無事に下りられる自信だってない。

きっと迷子になって夜も更けて、凶暴な野良犬に食べられちゃって…

そんなの絶対やだぁ!!



さっきの会話からして、この強盗犯はこの辺りの事は知ってる筈。

だったら、警察が来るまで大人しくしとこう…。

もちろん、殺されそうになるってわかったら…逃げ出さなきゃいけないけど。



白い軽のワゴン車は私たちを残して山道の向こうを走って行った。


あれだけ今まで長い時間を車で走ってここまで来たんだ。

道がわかったとしても、歩きだけじゃ陽が暮れるまでには帰れないよ…。



「よし、行くぞ。
しっかり歩けよ」

「うぅ…」



グイッと首もとを引っ張られ、私は茶髪の強盗犯と道から外れた所を歩かされ行く事になった。








険しい山道を、強盗犯に掴まれながら歩く。


今何時なんだろう…。


肩にかけた小さなバッグの中にケータイが入っているんだけど、強盗犯の前では取り出せない。

ううん、まだ気付かれてないからいいんだけど、連絡手段を持ってる事がバレちゃったらきっと取られちゃうよ。


今だけは誰からも電話やメールが着ませんように…!






お日様がずいぶん傾いてきて、空が赤く染まりかかっている。


記帳に行ったのが15時頃だったから、あれからずっと車に乗せられてずっと歩かされて…


もしかしたら17時近くにはなってるかもしれない。


今日中に家に帰る事はもう無理かも…


何だかグスッと泣けてきた。


こんな事になるくらいなら、素直に就職失敗した事を言って、実家に帰ればよかったよ。

お母さぁん…。







更にしばらく歩くと外は殆ど陽が落ちて、すっかり夕方になってきた。


長い間ずっと掴まえられて歩かされて、いい加減精神も身体も限界だった。

何より、もう1つ限界な事が…。



「確かこの辺に………あった、あれだ」



視界まではっきりしなくなった私は、急に足取りが早くなった茶髪の強盗犯に半ば引きずられるように歩いた。



するとその先には、木々に囲まれたまるで山小屋のようなものが見えた。


私…あそこに連れて行かれるのか…。


歩いてばかりだったので、休めるのだったらこの際どこでもいいとさえ思えてきた。


それに、あそこまで行けばやっと出来るかもしれない。


………トイレ。





目の前までたどり着くと、古臭い感じが漂ってくるのがわかった。


そんなに大きくもないけど、何より…トイレの空間があるようには一見わからなかった。


まさか…ね。

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