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まずは、自由を奪う足首のロープに手をかけた。

まともに歩けないんじゃあ、逃げたってすぐに捕まるだけだもんね。


ギュッと縛られたロープを逆向きに引っ張ろうとするが…なかなか固くて動かない。

上手い具合にロープとロープが摩擦して、結び目が外れないのだ。


足だからどうしても力が入ってしまい、余計に結び目も固くなったと思う。



「私の力じゃビクともしない…」



何かロープを切るものはないのかな。

ハサミとかナイフとか…。



ゆっくり立ち上がって、小屋の箱の中を覗いてみた。



「…うわぁ」



すると、箱の中にはたくさんの食べ物が無造作に詰められていた。



パンもあるし、レトルト食品や乾物。缶詰めとかも…。

他の箱にも、食べ物やペットボトルの飲料水も入っていた。


まるで全部非常食。


…そうか。
銀行強盗でお金を得たら、ずっとここでほとぼりが冷めるのを待つつもりだったんだ。

だから多分、銀行強盗当日までに、パンとかも用意していたんだわ。



でもそのほとぼりが覚めた所で…私は解放してもらえるかしら。



……………期待しない方がいいよね。



足首のロープを外す事も切る事も出来ない。

だけど、少しずつだけど前に進む事は出来るわ。


やっぱりこのまま逃げる事にしよう。

幸い手は自由なわけだし、それだけでもラッキーなのかもしれない。



ゆっくり身をかがめて再び四つん這いになる。



両手

両膝


両手

両膝


ズリズリ這っても、ちまちまとしか前に進めない。


足首を縛られる事で、こんなにも動き辛いなんて思わなかったよぉ…。






ようやくドアの所までたどり着くと、膝で立ち上がり簡単なカギを外してドアを押した。



ギギィ…



古びた木の擦れるような音がした。


すぐに振り返って強盗さんの方を見たけど、まだ眠っている。


…よかった。
まだ目を覚ましてない。





朝陽が壁の木の間を縫って私の顔に当たった。



…眩しい。


だけど、これこそが生きてる証って気がする。


さぁ、このお日様が登っているうちに一歩でも前に進まなきゃ!



そう思って四つん這いの手を前に出した時だった。



…♪♪♪ ♪♪…


「!!」


私の小さなショルダーバッグから、聞き慣れたメロディーと振動が響いた。


私のケータイだ!

ケータイに、誰か電話をかけてきた!


あたふたとショルダーバッグを開けて中のケータイを手に取る。


その瞬間、



「オイ!」




後ろから放たれた声。


ゆっくり振り向くと、銃口を私に向けた強盗さんの姿が目に入った。



「…逃げられるとでも思ったのか?」


…見つかっちゃった。
どうしよう、どうしよう…!!



強盗さんは銃口を私に向けたまま、ゆっくり立ち上がり近付いてきた。



「待って!殺さないで!
違うの、あの…っ
ト トイレに行きたくなって、それで…!」



一か八かの大ウソだった。

どうせ殺されるなら、まだ騙されてくれるかもしれないウソをついた方がマシ。


お願い、上手く騙されて…!




「…その電話、誰からなんだ?」



「えっ」



「今誰からかかってきてんのかって訊いてんだ!」



私の手に持つケータイは、今尚鳴り続けている。


私は着信にチカチカ光るケータイを見て確認した。


そこに書いてあった名前は…



「店長さん…!」



「店長?」



ケータイ画面の隅を見ると、時計の表示が8時半を過ぎていた。


本来なら、今日から本屋さんに出勤する筈だった。
その時間が、8時半なのだ。
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