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心臓が、ドクドクと早打ちしてきてるのが自分でわかった。


銀行強盗で3億円を独り占めしたと思っていた仲間の強盗犯が帰ってきたんだ。

最初に見た時と服が違うからわからなかったな。



てっきり人質の私を押し付けて、お金だけ持って逃げたのだと私も強盗さんも思っていた。


だけど、そうじゃなかったんだ…!



「そうそう、コイツが戦利品だ」



そう言って、ドサッと床に何かを置いた音が聞こえた。


背中に大きなリュックをしょっていたから、多分それだ。



私…警察かと思ってた。


警察と思って、声をかけようかとしてた。


もしあの時、声をかけていたら…私どうなってたかな…。


頭の中で想像して、思わずゾクゾクっと身震いした。




「当初の予定の半分しか盗れなかったな。
まぁ折半しても1億5千万円か。悪くはねぇけど、まあまあだな」


当初の予定の半分で3億…。

て事は、本当なら6億も強盗する気だったんだ。!

銀行って、そんなにお金を持ってるの!?


折半して1億5千万円…。


これを手に入れちゃった強盗さんは…これで本当に強盗になってしまったんだ。


お金さえ得ていなければ、それほど罪にも問われないと思っていたのに…。



「そういやお前、あの人質はどうしたんだ?」



ドキッ


あの人質って…私の事だ…!!


唯一強盗さんの素顔を見た、事件の有力な証人…!



「俺は顔は割れてねぇが、お前は見られたんだろ?
どこにやったんだ?」



南が強盗さんに私の事を訊いている。


私は強盗さんに逃がされたんだ。

…結局戻ってきちゃったんだけどさ。



そんな自分の首を絞めかねない私を逃がしたなんて言ったら、南は強盗さんを許さない筈…!



「まさか…お前殺ったのか?」



「あぁ…、ヤっちまったかな…」



そう返した強盗さん。

…そっか。
強盗さんは私を殺した事に、したんだ…。



「そう…か。
まぁ、仕方ないよな。顔見られちゃ死んでもらうしかないんだし」



「……………」



死んでもらうしかない筈の人質を…どうして生かしてくれたんだろう。


私が警察に言ってしまうかもしれない。

それで自分の首を絞めてしまうだけなのは分かり切ってる事なのに…!



「それで…殺った後の死体は、どうしたんだよ」



「…さぁ、よく覚えてねぇな。
今ちょっと頭も痛いんだ…」



「そう…か。
人を殺っちまったんだもんな、気もおかしくなるさ。
でもまぁ、そりゃお前のミスのせいだもんな。
俺は関係ねぇがな」



…何、今の言葉。

南って奴、強盗さんの殺人罪には一切関わってないみたいな言い方じゃない。


何か…スゴい腹が立つ。

強盗さんだって、腹立ってるよねっ。



「ま、いいや。
何にしても、まずは飯だ。
色々逃げ回ってたせいで、ロクに食ってないからな」



私の話はとりあえず終わったみたいで、南は小屋の中にある食料を物色し始めたようだ。


何だろう。
こんなムカつく奴が仲間だなんて、私だったらスゴくイヤ。


犯罪自体もちろんダメな事なんだけど、でも私だったらもっと相手を思いやれるような人と組みたいわ。


いいとこだけ当たり前な顔で取って、イヤなとこはさり気なく避けるだなんて!


あの南って奴、大っ嫌い。
あいつだけは帰ったらすぐに警察に言ってやる!


…て、そんな事したら強盗さんも困るのかな。


これからどうしたら…いいんだろう。


今、南に見つかったら私はまた捕まっちゃう。


ううん、殺したって言ってたのに生かして逃がしたってのがバレちゃって、強盗さんの立場さえ悪くしちゃうかもしれない。


折角私を逃がしてくれた強盗さんの為にも、私は…家に帰らなきゃ…。

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