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「なん…だと…?」



意外にも、強盗さんは南の言葉に反応を返した。


「何だ、怒ったのか?
だったら教えてやろうか。
この女の乱れた瞬間の顔…」



でたらめよ!
第一さっきのアレは全然未遂で済んだじゃない!

…もちろん、十分不快な思いはしたけどもっ。



それに、南は強盗さんを挑発する為に言っただけなのよ。


こんなでたらめ強盗さんが本気にする筈がない。



…そう思っていた瞬間。

南が最後まで言う前に、強盗さんは南に殴りかかっていた。



「ご、強盗さん!?」



殴りつけた勢いで、南は1メートル先にまで吹っ飛んていった。


身体を床に叩きつけられ、ドンと大きな音が小屋に響いた。



「…金なんかみんなくれてやる。
俺はお前みたいな奴とは、もう二度と手を組まねぇ!!」



「…痛っつつ、クソっ!
それはこっちのセリフだ!!
テメェなんか、どこないと行ってとっととケーサツに捕まっちまえ!!」

床に転がった南が強盗さんに怒鳴った。



私はオロオロしてしまい、2人の顔を交互に見る事しかできなかった。



「ひゃっ!」



強盗さんは尻餅をついている私をヒョイと肩に担ぐと、小屋を出ようとした。


身体をロープでグルグル巻きにした南とお金を置いて。


え、行っちゃうんだ!
いいの!?



南がどこないと行ってって、本当に行っちゃうって事?。



「あ、私のバッグ…!」



だからって私だって南と一緒にこれ以上こんな所になんか居たくない。


まだ強盗さんにさらわれてた方がマシよ!


…だけど、とりあえず荷物だけは置いて行きたくないよね。



肩に担がれたまま壁際に置いたショルダーバッグの事を言うと、強盗さんは一旦踵を返して私のバッグを拾ってくれた。


その際、床に落ちたままになっていたナイフを見つけた強盗さんは、バッグと一緒にそれも拾った。



「これは返してもらうからな」



そう南に言った強盗さんは、今度こそ小屋を出た。

…私を連れて。











強盗さんの肩に担がれたまま、しばらく山道を進んだ。


と言っても、私は強盗さんの背中側に頭が来てるので前が見えず、どこに向かっているのかとかさっぱりわからない。


まぁどうせこの山道、見えた所でみな同じように見えるだけなんだろうけど。



「……………」



強盗さんは私を担いで歩いている間、何も喋らなかった。


えっと、なんて声かけたらいいんだろう。


そして今度は、私はどこに連れて行かれるんだろう。


もしかして、これからは野宿…なんて、まさかね。




しばらく山道を歩いた辺りで、ようやく強盗さんはその歩みを止めた。


一度振り返り、来た道を見たようだった。



「…さすがにここまで来れば、あの体ですぐには追い付いて来ないだろうな」



そう言った強盗さんは、ようやく私の身体をおろした。



私を地面に下ろした強盗さんは、持っていたナイフで私の身体と脚を縛っているロープを切ってくれた。


半日振りに、ようやく私の身体は自由を取り戻したのだ!


縛られて圧迫された所に、血が通った感覚がして熱くなる。


でも熱くなったのは、そこだけじゃない。



「強盗さん…!」



私は縛られたロープを切ってくれた強盗さんにいきなり抱き付き、自由になったこの両手でギュウっと背中にしがみついた。



心が熱くなり、そしてしがみついた両手、それから全身。

とにかく、私のありとあらゆる所が強盗さんによって熱くなったの…!



「…どうしたんだよ。
怖かったってとこか?」



いつまでも黙ってしがみつく私に、強盗さんは勝手に察してそう言った。


怖かった、それもある。


こんな慣れない環境に放り込まれて、身体の自由は奪われ、いつ殺されるかもわからない、どこの誰ともわからない赤の他人との生活。


凶器を見せびらかされ、挙げ句に襲われかけ。


強盗さんが助けてくれるのがあと一歩遅れていたら、今頃私は…。


思い出しただけでもゾッとする。


だけど怖かったってのもあるけど、なんていうかそれよりも強盗さんが無事で良かったってのもあった。




警察に捕まっちゃったらどうしようとか、

あのまま南に刺されちゃったらどうしようとか、

もしかしたらむしろ私の心配より強盗さんの心配ばかりしちゃってたのかもしれない。


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