拝啓、死んだ方がましだと思っていた私へ。信じられないでしょうけど、今幸せよ。

遥彼方

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拝啓、死んだ方がましだと思っていた私へ。信じられないでしょうけど、今幸せよ。

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「国王陛下。王妃殿下。我が国は精霊の加護をうけて成り立つ。国王の資格は聖女、もしくは精霊に認められること。それなのに魔物呼ばわりとはどういうことか」
「それは」
「前王妃……俺の母は精霊に認められた聖女だった。母が亡くなっても国王と仮契約は保たれていた。だが六年前、一時的に契約が切れて精霊が離れ、俺の元へ来た。それが何を指すのか。分かるだろう」

 この場にいる者たち全員に見えるよう、バジーレは大きく手を振った。

「精霊との契約が切れるのは、契約が成就されたか、契約者が死した時。つまりそこにいる国王陛下は、影。本物は王妃、六年前あなたに暗殺された。この俺もまた、生死の境をさまよったが、精霊とジュッジョレ公爵に助けられたのだ」
「違う、でたらめよ!」
「証拠でしたら、ここに」

 ジュッジョレ公爵が手をあげると、二人の男が騎士に連行されてきた。一人は知らないが、一人はゼゾッラの伯父だった。
 二人の後ろにはぞろぞろと、見覚えのある人相の悪い男たちが並べられた。ゼゾッラを襲った盗賊たちだ。

「チェネレ伯爵家、ペンタメローネ子爵家。両家と王妃との密書です」
「暗殺者と影の手配、謝礼についての証言・文書を押さえている。チェネレ伯爵家については、他にゼゾッラ伯爵令嬢襲撃の容疑もかかっている」
「あぁああぁぁぁ」

 王妃がその場に崩れ落ちた。

「この件に関わった全ての者に、相応の刑を科す。連れて行け!」
「は!」

 騎士たちが王妃たちを引っ立てる。

「おのれ、あの時殺し損ねたからっ」
「私はただ、命令通りにしただけだ!」
「嘘だろ、おい! 私は第二王子だぞ」
「ゼゾッラ、助けてくれ!」
「うそ、うそでしょ!!」
「ねえ、謝るからなんとかして」

 騒ぐ王妃たちだったが、有無を言わさず引きずり出されていった。

「……六年前、王妃に殺されかけた俺は強く願った。王族である俺の願いにこたえて、精霊が現れた」

 ゼゾッラを抱きしめるバジーレを見上げた。

 王妃は息子である第二王子を次期国王にしようとしていた。前王妃の子であり、王位継承権一位のバジーレは、王妃にとって邪魔者だった。バジーレを後継者に考えていた国王さえも。

 バジーレの復讐は終わった。願いがなくなってしまったら空っぽにならないだろうか。
 きゅっと背中に回した手に力をこめると、小さく笑う。

「心配するな。俺の願いはゼゾッラの思っていることじゃない」

 穏やかな顔つきで、優しくゼゾッラの頬を撫でる。ひげがなくなって髪を上げているから、前より表情がよく見えた。

「復讐は願いを叶えるための通過点なだけだ。俺の願いはその先」

『「幸せになりたい」だな!』
『しあわせ』

 バジーレが続きを言うより早く、ヴェントが元気よく割りこみ、アルベロが木の幹にできた口のような穴から低い声を出した。
 はじめてアルベロの声を聞いたゼゾッラは、びっくりだ。

「お前たちが言うか」
『おうよ! 俺たちとお前の契約だからな』

 白鳩が胸を張った。反り返りすぎて後ろに倒れそうで、少し心配になった。

「聞いた通り、俺の願いは幸せになること。ゼゾッラといると俺は幸せだから」

 ゼゾッラの手をとり、バジーレが微笑んだ。はじめて見る、とろけるような笑みだった。バジーレといると、たくさんのはじめてがあって楽しい。

「さあ、仕切り直しだ。音楽を」

 バジーレが手を振ると、演奏が始まった。

「ゼゾッラ。俺と踊っていただけませんか」

 練習の時と同じように恭しく差し出された手を取る。すっかり体が覚えたステップを踏んだ。

「じゃあ私たち一緒ですね」

 くるくると回りながら、ふふっと笑うと、彼の瞳の中の自分が幸せそうに笑った。

「私ずっと、死んだ方がましって思って生きていました。でもバジーレ様に助けて頂いてから、毎日楽しくて楽しくてたまらないです」

 舞踏会の会場をグルグルと鳴きながら白鳩が飛び、揺れる木の枝にナツメの実がぽんぽんとなる。

「バジーレ様といると、幸せです。ずっとずっと一緒にいて下さい」
「もちろんだ。離れてくれと言われても離さない」

 舞踏会の後日。
 新国王バジーレと聖女ゼゾッラの戴冠と結婚式が盛大に行われた。


****

 拝啓、死んだ方がましだと思っていた私へ。信じられないでしょうけど、今幸せよ。
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