琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~

遥彼方

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依頼2ー無気力の蔓延る科学国家マギリウヌ国

シオリの恋愛相談

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 他愛のない時間を過ごし、皆で食事をとってから青年を休ませる為にコハクは自分の部屋へと戻った。

「うふふ。それで、私との話の続きはいつするの? コハク」
 部屋へ戻るなり、シオリがうきうきとコハクへ尋ねる。

「今よ。あのね、貴女が言うような感情はないの」
 勘違いをしている、というよりもやたらと恋愛とやらに結び付けて面白がるシオリを、コハクは軽く睨む。

 シオリは胸の前で両手を軽く合わせ、小首を傾げて可愛らしく問いかけた。
「じゃあ、どんな感情?」
「それは……」
 シオリに言われてコハクは考え込む。自分はあの青年のことをどう思っているのだろう。

「あのなあ、コハクで遊ぶなよ。お前!」
 黙りこんでしまったコハクを見かねて、ハルが不機嫌そうに牙を見せて唸った。

「あら? あなただってコハクとポルクスがくっついたら嬉しいでしょう?」
「へ? そりゃそうだけど」
「でしょう?」
 シオリに指摘されてハルは想像してみる。人間の中で、例外に大好きで特別な二人がくっつけば確かに嬉しいかもしれない。
 綺麗に丸め込まれていることに気付かず、ハルはぱたぱたと尻尾を振った。

「大体コハクは難しく考えすぎよ。恋なんてもっと軽い気持ちからでいいの。例えば好きか嫌いか。ポルクスのこと嫌い?」
「嫌いじゃないけれど」
 好きか嫌いかと問われれば、好きだ。素直で真っ直ぐな青年の有り様は好ましい。

「じゃあ、好きね。ほら、第一歩」
「えっ? でもそんな」
 シオリの言う好きを適用してしまうと、かなり広範囲が含まれてしまう気がする。否定をしかけたコハクの言葉は、続くシオリの発言に遮られて途切れる。

「じゃ、ポルクスの事が気になる? 今日の事で守ってあげたい、どうにかしてあげたいと思ったんじゃない?」
「それはまあ」
 それは確かにそうなので、素直に頷く。自分を度外視してしまうあの青年はどうも放っておけない。どうにかしてやりたいとは思う。

「ほうら、第二歩ね。それじゃあ三歩目」
 思うようにコハクを転がし、シオリは満足そうに微笑んだ。
 
「もっと彼を知りたい。側に居たい。出来るなら自分を見てほしい。知ってほしい、とか、なんでもいいから、欲が出てこなかった?」
「それは、どうなのかしら」
 これにはコハクは首を傾げた。知りたいとは思うかもしれない。側にいれば心地いいとも思う。しかし自分を見てほしいと思うのは別だった。
 ふうん、とシオリは少し思案してから、良いことを思い付いたと手を叩いた。

「じゃあ、わたしが貰っちゃおうかな」
「えっ?」
 思わぬ発言に驚いて聞き返す。

「うふふ。私も兄さんもリルも、一応お世話になったし? 見た目も悪くないし、素直だし、反応が可愛いもの」

 立てた人差し指を桜色の唇に当てて、シオリは妖艶さと可憐さを併せ持つ表情をした。同性のコハクから見ても、魅力的な表情にどきりとして視線を逸らす。
 シオリは可憐で愛らしいと思うし、きっと異性に好かれるだろう。対して自分はどうだろうか。可愛らしくもないし、愛想もない。勝ち目などない気がする。

 ポルクスも、シオリのような女の子の方がいいのだろうか。シオリとポルクスが一緒に笑う光景を想像して、急にむかむかとした気持ちが湧いてきた。なぜだかあまりいい気がしない。

「うふふ。コハクのその顔。嫉妬したのね」
 コハクは思わず頬へ手をやった。そんな顔をしていたのだろうか。

「今、わたしに取られたくないと思ったでしょう?私と一緒にいるポルクスを想像して、嫌な気持ちになった。それを嫉妬と言うのよ?」

 黄褐色の瞳の中で、茶色の破片がくるくると踊っている。コハクは表情こそ大して変わらないが、瞳が雄弁に語ってしまうのだから面白い。
 それにしても嫉妬までしてしまうとは、シオリの予想よりもコハクの気持ちは傾いているようだ。これは思ったよりもからかい甲斐があるかもしれない。

 コハクの分かりやすい反応が楽しくて、シオリは上機嫌で鼻歌まじりに手を上げた。

「はーい、今日はここまで。楽しかったわ。明日に備えて、シオリは一度瞳の中に戻りまーす」

 宣言を一つしてくるりと質量を変え、瞳に吸い込まれる。
 コハクの反応は十分楽しんだから、後は瞳の中でうずうずしている妖魔たちとのお喋りを楽しむとしよう。

 引っ掻き回されるだけ引っ掻き回されて、後に残されたコハクとハルは呆然とした。

「何だったというの」
 瞳の中では楽しそうな妖魔たちの声が響いている。どうやらしばらくは話の種にされるらしい。
 本当に、妖魔というものは御し難い。

 なんだか疲れたような気がして、コハクはソファーに身を沈ませた。犬の姿になったハルがコハクの足元で丸くなった。こういう時、ハルよりも他の妖魔たちよりも冷たく揺るがないホムラに側にいてほしくなる。

 ホムラはコハクの物心がつくよりも前から、共にいる唯一の妖魔だからだろうか。冷たく凍るような外見なのに、触れれば火傷をするような焔の化身。
 コハクはホムラと契約をした時の事を覚えていない。気づけば当たり前のように側にいて、コハクを守る高位妖魔。

 件の妖魔がコハクの許へと帰ってくるのに、そう時はかからなかった。
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