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依頼2ー無気力の蔓延る科学国家マギリウヌ国
アオイの誘導
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男たちに連れてこられたキリングは、状況を見て渋面になった。なぜか羽交い締めにされたアウリムと何人かの科学者たち、透明な檻に入っているシリアと、シリアに対峙している二人と一匹の犬。よく見れば男の方の懐に黒い子猫がいた。
状況の把握に苦しむ状態だが、あの二人のうち女の方が『珠玉』の筈だ。思ったよりも若い。勝手な想像だが、アオイくらいの大人の女性かと思っていた。もう一人の頼りなさそうな青年はアオイが言っていた妖魔を石にする人間か。
どちらの二人もキリングの予想より心許なく見えて、一抹の不安が過る。
「シリア・ローレンがいる研究所の警備は厳重。あたしら『デンキ』も忍び込むのは難しい」
家から脱け出したキリングへ、アオイは柔和な顔に例の物騒な笑みを浮かべて言った。
「俺はそれを当てにしてたんだが」
キリングはむっつりとアオイに不服を言う。警備の厳重さも知っている。バンクディ家の名前でなんとか入れないかも考えたし、強引に忍び込むのも選択肢の一つだった。おそらくどちらにしても捕まるだろうから、アオイなら手段があるのかと期待していたのだ。
「そいつは甘いってもんだろ? 坊っちゃん」
「だから、渦中に飛び込む覚悟を聞いた訳だ? 捕まるのが一番手っ取り早いもんな」
溜め息を吐き、諦めて肩を落とす。これも選択肢の一つで、シリアの元に行くなら最も有効な手段だった。
「ふふっ。分かってるじゃないか」
「それはいいが、その後どうするのかが問題だろ」
わざと捕まるのは確かに手っ取り早いが、それではシリアを助け出すどころか、キリングも一緒に実験体にされるだけだ。
「今シリアに行われている実験は、妖魔が『石』へと変わる過程の観察で、これにナナガ国の男が駆り出されてる。で、この男の護衛にうちの『珠玉』であるコハク様が付いてる」
前を行くアオイがいかなる手段を使っているのか、研究所への道程で通行人の一人にも出会わなかった。
「ナナガ国の男については知らないが、コハク様がいれば必ず宿主と妖魔は分離する。安心要素だろ?」
「『珠玉』ってやつはそんなに優秀なのか?」
「妖魔に関してはね。特にコハク様は最強さね」
「ふうん」
「妖魔と分離しちまえば、シリアへのアウリムの興味はなくなる。後は簡単さ。ただし」
ただし、というアオイにキリングは唇をへの字に曲げた。あまりいい予感はしない物言いだ。
「今回、コハク様は妖魔と宿主に直接手を出せない。あくまでナナガ国の男の護衛なのさ」
「なっ!? ならどうするんだよ」
会話しながら時々ついと道を逸れるアオイにならい、慌てて本来の研究所へ続く道ではない横道に入る。
「さあね、ナナガ国の男、ポルクスって坊やだけど、そいつがなんとかするしかないさ」
「大丈夫なのか?」
「あたしの知ったこっちゃないね」
さばさばとしたアオイの答えにキリングは唇を噛む。アオイは淀みなく進み、色々と遠回りした挙げ句、研究所の側へ辿り着いた。
「さて、あたしが案内するのはここまでだ。立場上、あたしは決してマギリウヌのやつらに素性を知られるわけにはいかないからね。後は他の奴があんたに付き合う」
そうしてアオイは研究所付近まで同行した後、例の笑顔で「後は頑張れ」とだけ言い残し消えたのだ。
あの女、今度会ったら覚えてろよ、とキリングは心の中で毒づいた。
そこから先はアオイの代わりに現れた『デンキ』の男と共に研究所へ入り、結局見付かって後はすったもんだの捕り物となった。
ちなみに男は見付かるや否や、あっという間に姿を消してしまった。どいつもこいつも、『デンキ』という奴らは油断がならない。
縛られた手首が痺れと痛みを訴える。しかしキリングが気にかかるのは、そんなことよりもシリアの様子だった。
「さて、シリアにとって重要人物であると思われるこの少年を、一体どうするのが効果的かねえ」
大人しくなったアウリムから、もう大丈夫だろうと科学者たちが離れた。アウリムは自分の思考に没頭して、檻の中へ入ることは忘れている。
「『デンキ』を見張れとのボロス元首の命令だったが、まさか同じ網に元首のお孫さんが引っ掛かるとは」
キリングを連れてきた男の一人、リーザス補佐官が額の汗を拭きながらぼやいた。
ボロスの命令でマギリウヌ国内で把握している『デンキ』の男の動向を見張っていたら、研究所近くでキリングが待っていたのだ。『デンキ』の男と共に動き出したキリングを見た時の心境ときたら、リーザスは心臓が止まるかと思った。
慌ててボロスに連絡を取ったが、彼の反応は冷たいものだった。
『不法侵入とはな。儂の孫だろうと構わん。法を犯した者はどういう扱いをされても文句は言えん。それを分からぬ馬鹿など要らん』
「い、いいのですか?」
『よいと言っている。いちいち聞き返すな』
ぶつりと切れた携帯通信機器を使って、今度はアウリムの研究室に連絡を入れ、今に至っている。
元々ボロスは公私混同を嫌い、己にも他人にも厳しい。しかし、血を分けた孫が可愛くはないのだろうかと、リーザスは思う。改めてボロスに指導者としての畏怖の念と、ぞっとする感覚を覚えて小太りの補佐官は震えた。
状況の把握に苦しむ状態だが、あの二人のうち女の方が『珠玉』の筈だ。思ったよりも若い。勝手な想像だが、アオイくらいの大人の女性かと思っていた。もう一人の頼りなさそうな青年はアオイが言っていた妖魔を石にする人間か。
どちらの二人もキリングの予想より心許なく見えて、一抹の不安が過る。
「シリア・ローレンがいる研究所の警備は厳重。あたしら『デンキ』も忍び込むのは難しい」
家から脱け出したキリングへ、アオイは柔和な顔に例の物騒な笑みを浮かべて言った。
「俺はそれを当てにしてたんだが」
キリングはむっつりとアオイに不服を言う。警備の厳重さも知っている。バンクディ家の名前でなんとか入れないかも考えたし、強引に忍び込むのも選択肢の一つだった。おそらくどちらにしても捕まるだろうから、アオイなら手段があるのかと期待していたのだ。
「そいつは甘いってもんだろ? 坊っちゃん」
「だから、渦中に飛び込む覚悟を聞いた訳だ? 捕まるのが一番手っ取り早いもんな」
溜め息を吐き、諦めて肩を落とす。これも選択肢の一つで、シリアの元に行くなら最も有効な手段だった。
「ふふっ。分かってるじゃないか」
「それはいいが、その後どうするのかが問題だろ」
わざと捕まるのは確かに手っ取り早いが、それではシリアを助け出すどころか、キリングも一緒に実験体にされるだけだ。
「今シリアに行われている実験は、妖魔が『石』へと変わる過程の観察で、これにナナガ国の男が駆り出されてる。で、この男の護衛にうちの『珠玉』であるコハク様が付いてる」
前を行くアオイがいかなる手段を使っているのか、研究所への道程で通行人の一人にも出会わなかった。
「ナナガ国の男については知らないが、コハク様がいれば必ず宿主と妖魔は分離する。安心要素だろ?」
「『珠玉』ってやつはそんなに優秀なのか?」
「妖魔に関してはね。特にコハク様は最強さね」
「ふうん」
「妖魔と分離しちまえば、シリアへのアウリムの興味はなくなる。後は簡単さ。ただし」
ただし、というアオイにキリングは唇をへの字に曲げた。あまりいい予感はしない物言いだ。
「今回、コハク様は妖魔と宿主に直接手を出せない。あくまでナナガ国の男の護衛なのさ」
「なっ!? ならどうするんだよ」
会話しながら時々ついと道を逸れるアオイにならい、慌てて本来の研究所へ続く道ではない横道に入る。
「さあね、ナナガ国の男、ポルクスって坊やだけど、そいつがなんとかするしかないさ」
「大丈夫なのか?」
「あたしの知ったこっちゃないね」
さばさばとしたアオイの答えにキリングは唇を噛む。アオイは淀みなく進み、色々と遠回りした挙げ句、研究所の側へ辿り着いた。
「さて、あたしが案内するのはここまでだ。立場上、あたしは決してマギリウヌのやつらに素性を知られるわけにはいかないからね。後は他の奴があんたに付き合う」
そうしてアオイは研究所付近まで同行した後、例の笑顔で「後は頑張れ」とだけ言い残し消えたのだ。
あの女、今度会ったら覚えてろよ、とキリングは心の中で毒づいた。
そこから先はアオイの代わりに現れた『デンキ』の男と共に研究所へ入り、結局見付かって後はすったもんだの捕り物となった。
ちなみに男は見付かるや否や、あっという間に姿を消してしまった。どいつもこいつも、『デンキ』という奴らは油断がならない。
縛られた手首が痺れと痛みを訴える。しかしキリングが気にかかるのは、そんなことよりもシリアの様子だった。
「さて、シリアにとって重要人物であると思われるこの少年を、一体どうするのが効果的かねえ」
大人しくなったアウリムから、もう大丈夫だろうと科学者たちが離れた。アウリムは自分の思考に没頭して、檻の中へ入ることは忘れている。
「『デンキ』を見張れとのボロス元首の命令だったが、まさか同じ網に元首のお孫さんが引っ掛かるとは」
キリングを連れてきた男の一人、リーザス補佐官が額の汗を拭きながらぼやいた。
ボロスの命令でマギリウヌ国内で把握している『デンキ』の男の動向を見張っていたら、研究所近くでキリングが待っていたのだ。『デンキ』の男と共に動き出したキリングを見た時の心境ときたら、リーザスは心臓が止まるかと思った。
慌ててボロスに連絡を取ったが、彼の反応は冷たいものだった。
『不法侵入とはな。儂の孫だろうと構わん。法を犯した者はどういう扱いをされても文句は言えん。それを分からぬ馬鹿など要らん』
「い、いいのですか?」
『よいと言っている。いちいち聞き返すな』
ぶつりと切れた携帯通信機器を使って、今度はアウリムの研究室に連絡を入れ、今に至っている。
元々ボロスは公私混同を嫌い、己にも他人にも厳しい。しかし、血を分けた孫が可愛くはないのだろうかと、リーザスは思う。改めてボロスに指導者としての畏怖の念と、ぞっとする感覚を覚えて小太りの補佐官は震えた。
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