4 / 7
04 明善寺
しおりを挟む
宇喜多直家がいつの間にやら築き上げた明善寺城。
それにまず反応したのが、三村元親である。
「おのれ」
元親は父・家親を暗殺された時から、下手人は誰かと、八方手を尽くして探していた。
そして、どうやら宇喜多の浮田――つまり遠藤兄弟らしいとの情報を得た。
元親が、宇喜多に兵を以て問おうかと考えていたところ、このような侵略の橋頭保の出現である。
「許せぬ」
三村家の軍、動く。
家親狙撃の意趣返しだとばかりに、それは夜間に――夜襲により、明善寺城の宇喜多勢を撃破した。
宇喜多勢は這う這うの体で、城から退く。
「根矢与七郎と薬師寺弥七郎に城を預ける」
三村元親は、兵百五十を残し、明善寺城から備中松山城へと帰った。元親としては、この勝ちに満足する気はなく、明善寺城を取り返しに来るであろう宇喜多直家を、完膚なきまでに叩きのめすため、備中松山城にて兵を糾合するために戻ったのだ。
「父の仇、必ず」
元親は復仇の想いに燃えていた。
一方で。
「明善寺城を取られた?」
直家は驚いたが、それも一瞬のことで、すぐにこれからのことを考えた。
「岡山城と中島城を調略する」
そう宣言した直家は、即座に岡山城主・金光宗高、中島城主・中島元行と密かに会い、いかなる手段を用いたのか、彼らを籠絡し、宇喜多の側につけた。
明善寺城より「備中松山城に近い」岡山、中島の両城が宇喜多につく。
それは、明善寺城が宇喜多の勢力圏内で孤立することを意味した。
取られたはずの城が、いつの間にやら熟柿のごとく、宇喜多に落ちようとしている。
その恐るべき策の切れ味に、宇喜多の家臣たちは震撼した。
しかし、明善寺城の根矢与七郎と薬師寺弥七郎はそうではなく、むしろ岡山城と中島城の返り忠こそ「嘘」と言い張り、兵を率いて来た直家からの開城の誘いを拒否した。
「備中松山城に、早う知らせよ」
根矢と薬師寺は、早馬を走らせ、三村元親に出陣を乞うた。
「時こそ、至れり」
宇喜多直家に、備前に引きこもられるのではないか、と懸念していた三村元親だったが、明善寺城からの早馬に快哉を叫んだ。
兵は集めた。
二万からの軍勢は、意気盛ん。
「進め!」
元親は自ら陣頭に立ち、明善寺城へと、文字通り驀進していった。
*
岡山城の金光宗高、中島城の中島元行からの、三村家進軍の知らせを受け、宇喜多直家もまた備前からさらなる将兵を召喚し、全兵力を糾合する。
しかしそれは五千足らずであり、三村家の軍の四分の一に満たない。
「これで、勝てるのか」
直家の弟にして腹心の忠家は疑念を呈した。
だが、直家はとんとんと指で額を叩きながら答えた。
「勝てる」
「何故」
「あいつら三村家は、受け身だ」
何をするにしても、相手からの行いを受けてから動く。
直家は、元親の、否、三村家の行動原理を看破していた。
「ついていけないぐらい、受けられないくらい、こちらが素早く動いてやる」
直家は金光宗高に命ずる。
「三村家の連中に、元親の軍と、明善寺城の根矢・薬師寺の軍で、この直家を挟み撃ちにせよ、と進言せよ」
この時点で、金光宗高と中島元行は、まだ三村家の側にいると思われていた。
ほかならぬ、明善寺城の根矢と薬師寺が「嘘」と断じたのだ。ましてや元親が信じるわけがない。
その心理を利用した策に、宗高は舌を巻いた。
「しかし」
宗高は直家に反問した。
「挟み撃ちにさせる、として、何とするのです」
「何とする?」
直家は笑った。
「あの元親のことだ、その進言を受けて、兵を分けるだろうよ。そう……『こちらの五千で何とかできるくらいの群れに』分けるのさ」
できれば三つくらいに分けてもらいたいものだ、いやそれは贅沢かと呟く直家に、宗高は空恐ろしいものを感じつつも、これから起こるであろう、鮮やかな勝利への予感を禁じえなかった。
それにまず反応したのが、三村元親である。
「おのれ」
元親は父・家親を暗殺された時から、下手人は誰かと、八方手を尽くして探していた。
そして、どうやら宇喜多の浮田――つまり遠藤兄弟らしいとの情報を得た。
元親が、宇喜多に兵を以て問おうかと考えていたところ、このような侵略の橋頭保の出現である。
「許せぬ」
三村家の軍、動く。
家親狙撃の意趣返しだとばかりに、それは夜間に――夜襲により、明善寺城の宇喜多勢を撃破した。
宇喜多勢は這う這うの体で、城から退く。
「根矢与七郎と薬師寺弥七郎に城を預ける」
三村元親は、兵百五十を残し、明善寺城から備中松山城へと帰った。元親としては、この勝ちに満足する気はなく、明善寺城を取り返しに来るであろう宇喜多直家を、完膚なきまでに叩きのめすため、備中松山城にて兵を糾合するために戻ったのだ。
「父の仇、必ず」
元親は復仇の想いに燃えていた。
一方で。
「明善寺城を取られた?」
直家は驚いたが、それも一瞬のことで、すぐにこれからのことを考えた。
「岡山城と中島城を調略する」
そう宣言した直家は、即座に岡山城主・金光宗高、中島城主・中島元行と密かに会い、いかなる手段を用いたのか、彼らを籠絡し、宇喜多の側につけた。
明善寺城より「備中松山城に近い」岡山、中島の両城が宇喜多につく。
それは、明善寺城が宇喜多の勢力圏内で孤立することを意味した。
取られたはずの城が、いつの間にやら熟柿のごとく、宇喜多に落ちようとしている。
その恐るべき策の切れ味に、宇喜多の家臣たちは震撼した。
しかし、明善寺城の根矢与七郎と薬師寺弥七郎はそうではなく、むしろ岡山城と中島城の返り忠こそ「嘘」と言い張り、兵を率いて来た直家からの開城の誘いを拒否した。
「備中松山城に、早う知らせよ」
根矢と薬師寺は、早馬を走らせ、三村元親に出陣を乞うた。
「時こそ、至れり」
宇喜多直家に、備前に引きこもられるのではないか、と懸念していた三村元親だったが、明善寺城からの早馬に快哉を叫んだ。
兵は集めた。
二万からの軍勢は、意気盛ん。
「進め!」
元親は自ら陣頭に立ち、明善寺城へと、文字通り驀進していった。
*
岡山城の金光宗高、中島城の中島元行からの、三村家進軍の知らせを受け、宇喜多直家もまた備前からさらなる将兵を召喚し、全兵力を糾合する。
しかしそれは五千足らずであり、三村家の軍の四分の一に満たない。
「これで、勝てるのか」
直家の弟にして腹心の忠家は疑念を呈した。
だが、直家はとんとんと指で額を叩きながら答えた。
「勝てる」
「何故」
「あいつら三村家は、受け身だ」
何をするにしても、相手からの行いを受けてから動く。
直家は、元親の、否、三村家の行動原理を看破していた。
「ついていけないぐらい、受けられないくらい、こちらが素早く動いてやる」
直家は金光宗高に命ずる。
「三村家の連中に、元親の軍と、明善寺城の根矢・薬師寺の軍で、この直家を挟み撃ちにせよ、と進言せよ」
この時点で、金光宗高と中島元行は、まだ三村家の側にいると思われていた。
ほかならぬ、明善寺城の根矢と薬師寺が「嘘」と断じたのだ。ましてや元親が信じるわけがない。
その心理を利用した策に、宗高は舌を巻いた。
「しかし」
宗高は直家に反問した。
「挟み撃ちにさせる、として、何とするのです」
「何とする?」
直家は笑った。
「あの元親のことだ、その進言を受けて、兵を分けるだろうよ。そう……『こちらの五千で何とかできるくらいの群れに』分けるのさ」
できれば三つくらいに分けてもらいたいものだ、いやそれは贅沢かと呟く直家に、宗高は空恐ろしいものを感じつつも、これから起こるであろう、鮮やかな勝利への予感を禁じえなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
焔と華 ―信長と帰蝶の恋―
幸
歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。
政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。
冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。
戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。
※全編チャットGPTにて生成しています
加筆修正しています
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる