いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

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ハロウィーン編

43 サムの真価

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 今回は、サム視点のお話です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 サムはアイリーンを送り届けると、足取りも軽く<スカラムーシュ>へやって来た。
 サムは入口の方がほんのり明るかったので、店のドアを開けた。

「いるのか~?」

 次の瞬間、戦慄を覚えた。

 ジョンが金槌ハンマーを持った手をだらりと下げ、薄暗い中、力無く立っている。

「ク、クロウ!?」

(なんだ、この光景は? 金槌に血は付いてない……と、そういうミステリー展開じゃないよな……)

「カラスは、鍛冶屋でも始めたのか?」

 軽口をたたいてみた所、ジョンの目つきが魔王になった。
 無言でツカツカと近寄られ、サムは本気で身の危険を感じた。

「まずは怖いからその凶器を置けって~!」

 悪魔サムの恐怖の悲鳴が届いたようで、魔王ジョンは凶器をソファの上に投げ捨てた。

(助かった?)

「サム! おまえ、リジーを置いて女と逃げようとしただろう!!」

 ジョンの剣幕にサムは驚いた。

「は? 何をそんなに……ちょっと待て、違うんだけど、謝るよ。リジーが捕まるなんて思ってなかった。おまえがすぐに来なけりゃ俺があの大男を殴り倒してた!」

「……そうだな。……リジーをひとりにして見失ったオレが悪い」

 すぐにジョンは沈んだ。

(また何かあったな。引きずっている)

「ところで、リジーは? なんかリジーのおかげでうまくいったような気がするんで一応お礼を言っておこうと思って」
「……リジーは部屋にいる」

 ジョンはさらに沈んだ。

(これは……確実にリジーと何かあったな)

「なんだ、早いな。ハロウィーンの夜はこれからじゃないの? なんでそんな暗い顔してんのさ? 力ずくで<ドロシー>をさらった……いや、格好良くドロシーを助けた<かかし>様が。それとも綺麗な背中に誘惑されて、間違いを犯しちゃった?」
「……」

 ジョンに無言で恐ろしく睨まれ、サムは確信する。

「当たらずとも遠からずってか? もう観念したら? 自分の気持ちを認めろよ。おまえはリジーが好きで好きでしかたがないんだろう? おまえがリジーを助けた時、誰がどう見ても恋人同士みたいだったぜ。ふたりの世界ってやつ……。彼女の母親に頼まれてるだかなんだか知らないが、本気なら良いんじゃないか?」

 ジョンは床に視線を落としたままだった。

「ダメだ、許されない……」

「そんな世界の終わりみたいな顔してさあ。今の時代、許されないなんてあるのかよ? そもそも、そんな相手に年頃の娘を頼むほどリジーの母親は馬鹿じゃないだろう。同じアパートメントだし、年の差は少しはあるにしても男女だぜ。恋人同士になっても良いと思わない限り、簡単に男のそばに娘は置かない。おまえが許されないと思い込んでるだけじゃないの? それとも、まじで兄妹なの?」
「兄妹なんかじゃない!! そんな……わかった風なこと言うな!!」

 ジョンの語気の強さにサムは一瞬引いた。

「……はいはい、石頭。俺ならどうしても手に入れたいなら、手に入れてから考えるけど? おまえ見てるとイライラしてくるよ。リジーが可哀想だ」
「……」

 ジョンの顔色は一層悪くなる。

「俺、リジーに礼を言ったら帰るから。じゃあな」

(クロウの奴、何をうじうじ悩んでやがる。馬鹿か。リジーがどんな目でおまえを見てるかまだ気が付かないのか。俺が教えてやることじゃないから言わないが、全く不器用な鈍感魔王だな。そしてこっちもまた……)




「リジー! いるか? 俺だ、サムだ」

 リジーの部屋をノックして叫ぶ。

「え? サム?」

 ドアがゆっくり開いてリジーが姿を見せた。
 まだドロシーの衣装だ。ケープも羽織ったままだった。

「リジー……」

(目が赤い。泣いたのか……。何かあったんだろうが助けることはできない。恋愛に関しては、本人同士じゃないとこじれるからな。あの石頭はさっきの様子だとリジーが泣いたのは知らないな。自分が泣かせたと知ったら、どんなに取り乱すんだろうか? 罰として教えてやるかな……。いや、やめよう。危険すぎる)

「さっきはありがとな」
「?」

 リジーはキョトンとしてる。

「おかげでアイリーンを家まで送れたし、彼女の連絡先も聞けたし、うまくいきそうだ」
「良かったね。彼女、アイリーンさんていうんだ。綺麗な名前だね。ぴったり」

 話をしていてもリジーの目はどこか虚ろだった。

「アイリーンがリジーを巻き込んで悪かったから、今度会って謝りたいって」
「いいの。サムにおいでって言われた時、私も逃げれば捕まらなかったんだから」
「俺たちをふたりにしようって、気を回してくれたんだろ。まさかあの大男が関係ないリジーを捕らえるとは思わなかったしな。俺も読みが甘かった。ごめんな。怖い思いさせて」
「謝らないで。怪我してないし。ジョンに助けてもらったし」

 リジーの声がそこで曇った。

「で? クロウに何かされた? いや、何か言われたの?」

「サム、下でジョンから聞いてないの?」
「口の堅いあいつが言うわけないよ。でもきみたちが、この世の終わりみたいな暗~い顔してるから、何かあったんだろう?」

「私、きっとジョンに嫌われた。すごく困った顔してた」

 リジーがまた泣きそうな顔をする。

「心配するな。クロウがきみを嫌いになることは無いと断言するよ。何があっても、たとえこの世の終わりが来てもだ」

「……ジョンにキスしてって言った」

 リジーがボソッと呟く。

「おっ……と、そうきたか。リジー、やるじゃん! ナイスだよ! で、あの石頭は逃げたんだな。なんてやつだ。リジーの方が、勇気をふりしぼったっていうのに」
「あんまり嫌そうな顔されたから、冗談だって言っちゃった。だけどよく考えたら、ジョンに好きって言ってない。なのにジョンの気持ちばかり確かめようとしてた。ちゃんと気持ちを伝えないで先にキスしてなんて、順番が逆だよね。だからジョンはあんな困った顔したのかな」
「好きとキスしては意味は同じだろう? むしろ好きの度合いは上じゃないか。リジーの気持ちはあいつに伝わったよ。だから大丈夫。クロウはきみが冗談でそんなこと言う子じゃないってわかってるから。きみは無意識だっただろうけど、なかなか良いカウンターパンチをあいつにくらわしてやったと思うよ」
「?」
「あいつ、鈍感で石頭だからな。リジー、俺が前に言ったことを覚えてる? 押してもだめなら引いてみるってやつだ」

(あいつ、リジーの方から引かれたら慌てるんだろうな)

「……拒絶?」
「切り札は覚えてるようだな。いざという時に使うんだぞ。リジーはにこにこ悩みゼロみたいな笑顔が一番似合ってるんだから、いつもほんわか笑ってなよ。ジョンだってそう思ってるよ」
「……まるで私が何も考えてない馬鹿な女の子みたいじゃない~」
「あはは……。近いだろ。まあ、悩むなって。きっと明日は良い日だよ」
「なんだか慰めながら失礼なこと言われた気がするけど。そうだね。ありがとうサム」

(かろうじて少しは元気を引き出せたかな。石頭の魔王と違って切り替えは早いか)

「サムって、実は真実が見えるすごい人だったりする?」
「いや、そんなまさか。まあ、当事者には見えないもんだよ。俺も自分のことはきっと見えてないと思う」
「そう?」
「そうさ」

 サムは自分の真価は見えていない。
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