45 / 95
ハロウィーン編
45 アンラッキーガール
しおりを挟むリジーと待ち合わせをしたカフェに、サムとアイリーンは先に着いた。
山のコテージ風の丸太を使った外観が目を引く。
窓側の席に案内されて、アイリーンは奥に座った。
サムはすかさずアイリーンの隣に座る。
「あなたがなぜ隣に座るの?」
アイリーンが、にこにこ嬉しそうなサムをきつく睨む。
「だってリジーが困るだろう?」
サムはどこ吹く風で、楽しげに答える。
「俺がきみの向かいに座ったら、リジーがきみの隣に座るか俺の隣に座るか迷うだろう。きみと俺が仲が良いと思っているリジーは、俺の隣に座ったらきみに悪いと思う。だからといって、ほぼ初対面に等しいきみの隣に座るのも気が引けるだろう?」
「なによ、その回りくどい説明は」
「じゃあ、簡潔に。きみの隣に座りたかったから」
サムはそこまで言ったところで、急にアイリーンの頭を自分の胸へ乱暴に引き寄せた。
バランスを崩したアイリーンは、サムに抱きつく形になった。
「ちょっ……、なにするのよ!」」
アイリーンは拳をふりあげたが、サムは動じない。
「トニーだ。表の通りをひとりで歩いている」
「え? こんな所にどうして」
ビクッとして大人しくなるアイリーンの後頭部をサムが撫でる。
「偶然だろうが、まずいな。方向的にリジーと鉢合わせするかも」
「どうしよう……」
サムの胸にあるアイリーンの手に力が入る。
「きみはここにいて。俺、行ってくる」
「私も行く!」
サムはアイリーンから緑の目でまっすぐ見上げられドキリとする。
が、そんなときめいている場合ではない。
「いや、きみは来ないほうがいい。待ってて」
「わかった。気を付けて」
「帰ってきたらまた抱きついてね」
サムは蕩けるような笑みをアイリーンに向ける。
「な……」
サムの背中に回っていた手は慌てて離された。
♢♢♢♢♢♢
リジーは左右の建物を見ながらのんびり歩いていた。
サムから指定されたカフェは、この近くのはずだった。
(丸太小屋、丸太小屋と……)
カフェを探していたので、反対方向から歩いてくる大男に気付くのが遅れた。
気が付いたときには、かなり接近していた。
(あ、あの人は!?)
首が絞まった恐怖が甦る。
リジーの足は止まって、棒のように動かなくなった。
ジョン、助けて! 心の中で叫んでいた。
(いないんだ。今はジョンは私のそばにいない。ひとりでなんとかしないと)
逃げないとないのに、足がすくんで動かない。
大男トニーは速度を落とさず近づいて来る。
(あの時は、ドロシーの仮装をしてたから、今の私を見てもわからないとか……はないかな)
トニーは茫然と立ち尽くすリジーの目の前で止まった。
リジーの心臓は止まりかけた。
「おまえ、どこかで……?」
少し考えるような表情をしていたが、すぐに眉間にしわが寄った。
「こ、こんにちは。あの私、タコスもブリトーも好きです」
涙がじわじわ滲む。
(ヒスパニックの人だからって、タコスやブリトーが好きとは限らないよね。馬鹿だ、私。でも、まだ言いたいことがある。ジョンの事)
「は?」
トニーが訳が分からないといった顔をする。
「それと、あの、あなたを殴った人に仕返ししないでください。彼は私を助けるためにあなたを殴ったんです。何もなければ優しい人なんです。お願いします!!」
リジーはトニーを見つめて、必死に訴えた。ジョンがこの男に自分のせいで襲われるのは嫌だった。
言い切ると、涙がこぼれた。
「ああ、そういえば、急所じゃなくてもダメージが来るボディを的確に狙いやがったな。あの男……」
トニーは大げさにため息を吐いた。
「泣くなよ。この前は悪かったな」
「え?」
リジーは思わず遥か上にあるトニーの顔を見上げた。
「首を絞めたかったわけじゃなく、おまえが小さくて、その、捕まえたところがたまたま首だったんだ。アイリーンを引きとめたくて、夢中で……。だから、おまえの男を許すも何も、悪いのは、その、俺だ。俺だって自分の女が捕まったら当然同じように相手を殴る」
リジーはトニーの思わぬ反応に、ポケッとしていた。
「……俺もタコスとブリトーは好きだ。アイリーンが引っ張って逃げようとした銀色の髪の男、<タコ・ガーデン>の店員だろ。あの店に行けなくなったのは残念だ。色々悔しいからな。あの店のタコスはうまかったのに。アイリーンに会ったら、別れてやるって言っておいてくれ。じゃあな」
トニーは落ち着いた口調でリジーをなだめるように話すと、足早にリジーの横を通り過ぎて行った。
リジーは足はがくがくで、その場に崩れ落ちそうだったがなんとか立っていた。
(助かった……悪い人じゃなかったんだ。良かった)
♢♢♢
「リジー! 大丈夫か」
「サム? どうしてここに?」
リジーの目はまだ焦点が定まっていないようだ。頬には涙の跡がある。
サムは、ガクッと力が抜けて、ふらついたリジーの腕を掴んだ。
「一目散に逃げるもんだぞ。接近しすぎだ」
「だって、足が動かなくなって、逃げられなかったんだもん」
「まあ、そうだよな。熊に睨まれた子リス状態だったよな。もう動けるか? 行こう。アイリーンも心配してる」
「死ぬかと思った」
「だよな」
「でも、悪い人じゃなかった」
「げ……。アンラッキーな奴に限って、お人よしなんだよな」
「だって、タコスとブリトー好きって言ってた」
「は? なんで食いもんの話してんだ、全く。とにかく無事でよかった。何かあったら、今度こそクロウに殺されるところだった。しかし、奴をここまで呼び寄せるなんて、さすがアンラッキーの神に愛された娘だな」
「愛されても嬉しくない」
「だよな~」
サムは横をよたよたと歩く小柄な娘を憐れんだ。
ただ歩いているだけなのに、
「ちょっとすみませんねえ。道を教えてくださる?」
腰の曲がった年配の女性がリジーに話しかけてきた。
次はなんだよ? サムはさらに呆れた。
リジーはやたらと道の説明が下手だし、ふたりで顔を突き合わせて見ている地図の向きも合っていない。
サムは見ていられなくなり、リジーに代わって説明した。
年配の女性に何度も聞き返され、時間がかかっていた。
(ごめん、アイリーン。時間をくったから心配してるかな。そんな女じゃなくてもいいが)
「アンラッキーの神には愛され、年寄りと孤独な男を惹きつけるって、すごく厄介だな」
(この子の面倒を喜んでみられるのはおまえくらいだし、おまえしか務まらないよ、ジョン。おまえがついててやれよ)
見ると、カフェの方向から、息をきらしてアイリーンがかけてくる。
(あんなに血相変えて、かなり心配してたらしい。可愛い……)
サムは思わずニヤついていた。
「ちょっと、遅いじゃない! 心配させないでよ!! トニーは?」
肩で息をしながら、アイリーンが怒鳴る。
「ごめん、ごめん、心配かけたね。あいつを一発で倒したよ~。抱きついてもいいよ」
サムが腕を広げる。
「馬鹿じゃないの!」
アイリーンはぷいと横を向く。
「あの熊男を撃退したのはこの子リスちゃんでした~」
サムは、女子ふたりに横目でスルーされたのがわかった。
「アイリーンさん、あの男の人は私を捕まえたことを謝ってくれました」
「え、そうなの?」
「はい。あなたを引きとめるのに夢中だったからって。それで、あなたに伝言を頼まれました。その、別れてやるって……」
リジーのその言葉を聞くと、アイリーンはゆっくり目を伏せた。
「そう……。それにしても、またあなたに怖い思いをさせてしまったわね」
「いえ、最初はもう死ぬかと思ったけど、大丈夫でした」
リジーはケロッとした表情でしっかり話す。
「……」
アイリーンが綺麗な口元を少しほころばせる。
(アンラッキーの神に愛された娘は、意外とたくましいか?)
サムはアイリーンの口元に魅せられながら、そんなリジーを好ましく思った。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる