いつの日か、きみとサンタクロースと

名木雪乃

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ハロウィーン編

47 ダブルデート

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 それからも、サムは相変わらず毎日のように<スカラムーシュ>へやって来ては、軽口をたたいて帰って行く。
 ジョンに対して、リジーとの件を急き立てるようなことは言わなかった。

 先日は、アイリーンを伴い、デレデレしながらやって来た。
 アイリーンは知的で礼儀正しい女性で、ジョンは彼女に好感を持った。



 その日は、ひとりでやって来るなり聞きなれない言葉を吐いた。

「クロウ、ダブルデートしないか?」

 サムは気持ち悪いほどにこやかだった。

「なんだそれは?」

 それに対して、ジョンは警戒するような目を向ける。

「4人で<ミラクルマウンテン>に行かないか? っていうお誘い。つまり、おまえとリジーとアイリーンと俺で。どう?」
「ミラクルマウンテン?」
「遊園地だよ。まさか、行ったこと…………無さそうだな」

 ダウンタウンから車でフリーウェイを走って30分くらいの所だというサムの話を、ジョンは受け流した。
 子供向けのアトラクションは少なく、むしろ大人に人気の遊園地だとか、大きく回転するジェットコースターがどうのこうのとサムが説明するのもすべて聞き流した。

「リジー、喜ぶんじゃないか? 女の子は遊園地が好きだし、あの子もまだ行ったことないだろう。ふたりだと気まずくても、俺たちがいるし」

 サムが熱心に誘ってくる。サムがアイリーンと行きたいだけだろう、とジョンはため息を吐く。

(ああ、車か。いい加減買えば良いのに)

 ジョンは全く関心なかったが、リジーが喜ぶという話には少し心が動いた。
 ここ数日は、リジーが残業で帰りが遅いのもあり、仕事帰りの一言二言の挨拶しか交わしていない。
 疲れたような顔をして帰って来るのが、心配でもあった。
 
 リジーのはじけるような笑顔をしばらく見ていなかった。
 自分に対して本来の笑顔を見せないのは、あたりまえだ。
 それだけのことを彼女にしている。
 自分の矛盾のある行いが彼女を苦しめている。

 それをわかっているのに、ジョンはまだどうすることも出来ずにいた。

 母の犯した罪を償わなければならない自分が、彼女の想いを受け止めるとか、ましてや自分の想いを告げるなど、許されて良いわけがない。

「クロウ? リジーに聞いてみてくれよ」
「わかった……」

(彼女の幸せはどこにある……どうすることが彼女の幸せになる?)


♢♢♢♢♢♢


「ただいま、ジョン」
「リジー、おかえり」

 仕事から帰って来たリジーは、ジョンから呼び止められた。

「リジー、その、来週の木曜日に遊園地に行かないかとサムから誘われた。アイリーンも来るそうだから4人で……どうかな。仕事の休みは合う? 疲れているなら断っても良いんだが」

(ジョンが誘ってくれているの?)

 この所、ジョンに対してどのような態度をとったら良いのか、リジーはわからないでいたが、誘われるのは素直に嬉しかった。

「うん、来週は木曜日と金曜日が休みだから行けるよ」

 何気に<スカラムーシュ>の定休日に自分の休みを合わせてしまっている。

「そうか、じゃあサムに連絡しておくよ」

 ジョンは変わらず穏やかで優しい笑顔で接してくれる。それが少し辛くもある。
 自分の方が見えない壁でガードしているかもしれない。
 これ以上拒まれるのが怖くて、臆病な自分は、壁の外から様子をうかがっているだけだった。
 
(頑張るつもりが、何も行動していない。ジョンから誘われたとはいってもあまり浮かれちゃだめだよね。でも、とても嬉しい……)



♢♢♢♢♢♢



 ダブルデート当日は良く晴れて、空は青く空気は澄んでいた。
 ジョンに運転を任せ、リジーを後部座席に乗せると、サムは道案内をするからと助手席に座った。

 最近は送り慣れたアイリーンの家の近くまで迎えに行く。
 リジーは思ったより晴れやかな顔で、車の窓から外を見ている。

(さて、ふたりには起死回生のデートにしてもらいたいけどなあ。そして、俺はあわよくばアイリーンともっと近づきたい!)

 サムは策を練っていた。
 

 木陰にたたずんでいるアイリーンは髪色がブロンドからブルネットに変わっていた。
 すっきりした無地の白いシャツに薄いオレンジ色のカーディガンをはおり、ジーンズ姿だった。

(アイリーン! 髪が……)

 車が停まると同時に、助手席からサムは勢いよく迎えに出て行った。

「お待たせアイリーン!」
「こんにちは」

 サムはとびきりの笑顔を向けた。
 アイリーンは恥ずかしそうにおとなしく微笑んだ。

(可愛いじゃん!)

「髪の色似合うよ! それが本来のきみ?」
「そうよ……がっかりしたでしょ?」
「いや全然。素敵だよ」

 サムは蕩けるような目でアイリーンを見つめると、自然に髪に触れた。

「ちょっと、やめてよ」

 アイリーンがサムから一歩離れるが、その分詰めたサムはアイリーンの腕をとり耳元で囁く。

「あのふたりに俺たちが仲良くしてるのを見せつけて、たきつけるのが今日の目的なんだから、協力してくれる約束でしょ?」
「だからって、それを口実にあんまりベタベタしないでよ」
「俺はするつもりだよ。この機会に俺たちもも~っと仲良くなろう!」
「まったく、調子のいい人ね」
「きみも嫌なら来ないはずでしょ? 期待してるんじゃない? 俺といちゃいちゃするのを」
「期待してません!」

 はっきり言ったわりには、アイリーンの頬が少し赤い。サムは満足した。

「ねえねえ、提案があるんだけど。あのふたりがキスしたら、俺たちもするってのはどう?」
「却下!! もう、行く前から怒らせないで!」

 少し赤い所か、真っ赤になっている。サムは大満足した。

「まあまあ、照れないで。さ、後ろに乗って」
「これは怒ってるから赤いのよ!」

 アイリーンはぷりぷりとしながら、サムが開けた後部ドアから車に乗り込んだ。

「こんにちは。ジョン、リジー、今日はよろしくお願いします」

 アイリーンは自分を落ち着かせるためか、大きく深呼吸をすると、笑顔を見せた。

「こんにちは。いつもサムが迷惑をかけているようで……お詫びします」

とジョンがアイリーンに挨拶する。

「な、なにその保護者づら。お詫びしますって酷くない?」

 助手席に座ったサムは、ジョンに抗議する。

「本人に詫びてもらいたいんですけど、全く自覚がないようで困ります。でも、だいぶ慣れてきましたので」

 アイリーンが丁寧に返す。

「あ、そう? よかった。……って、なんか違うよね」

 サムは不服だった。


♢♢♢


 サムをおかずにしたいつもの愉快なやり取りに、リジーはクスクス笑う。

「こんにちは。アイリーン。今日はありがとう。この街の遊園地は初めてだから楽しみだよ」
「そう? じゃあ、今日は楽しみましょうね。リジーはどんなアトラクションが好み? 高速のジェットコースターとか回転するのとか、速さとか高さとかは、大丈夫? 苦手じゃない?」

 リジーはアイリーンにそう言われて、はたと気が付く。

「え? っと、速いのは苦手だったかも。車の教習で、スピードを出せなくてよく怒られたから。回転は……あ、子供の頃メリーゴーランド乗って酔ったことある。私、ブランコも酔うからあまり長く乗れないの。でも高さは大丈夫。観覧車は乗ったことあるよ。でもこの前高層ビルを見上げてクラクラしたっけ。上からなら大丈夫かなあ……」

 リジーは真剣に考えて答えたつもりだ。
 運転席のジョンの肩が揺れたことにリジーは気が付かない。
 
 笑いを堪えているような表情のサムから、重大なことが伝えられる。

「リジー、まじめな返答ありがとう。今から言っておくけど、<ミラクルマウンテン>は、ほとんどスピードや揺れの激しいアトラクションばかりだぜ」

「そ、そうだったわ」

 アイリーンも残念そうな顔を、リジーに向けた。

「え……!?」

(私が行く意味あるのかな……?)

 リジーは少しどころか、かなり不安になった。
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