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第7章 リスタート
内省
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自然に寄り添う二人を見て、俺は当てられてる気がした。あいつが幸せならそれでいいと思っていたのに、欲が出てきたのは俺の方だ。
どこに泊まっているのかと聞くと、ホテルはチェックアウトしたという。まさかうちに泊まる気なんじゃと思って聞いてみると、「できればそうしたい所なんだけどね」と答える藤越に呆れた。
とりあえず家に泊まるかどうかはともかくとして、車で俺の家まで案内することにした。
俺が免許持ってたのに驚かれたが、藤越は持っていないらしい。
俺はアクセルを踏み込んだ。こいつが来ると強引で調子が狂う。まだ半年しか経ってないのに懐かしい感じがした。
道もすいてたので一時間ほどで借りてるマンションについた。
「兄貴、迷惑じゃないの? またどっかホテル探せば?」
うちの前まできて愛良ちゃんが言い出した。
「せっかくきたんだから寄ってけば。片付いてないけど」
と言ってもほとんどものはない。着る物と食べるものぐらいだ。
「全然きれいじゃん」
「そりゃ買い足すものもないし」
ウィークリーマンションのいい所は、家具や電化製品があらかじめついていることだった。ちょっと値は張るけど、敷金礼金がない所がいい。どうせ半年ぐらいで出ようと思ってたからちょうどいい。
「お邪魔します」
愛良ちゃんはそう言って藤越の分も靴を揃えた。藤越はさっさと上がってるっていうのに兄弟でもこの違いはなんだろう。
「お前もちょっとは愛良ちゃんを見習えよ」
「何で?」
「自分の家かのように入るなよ」
「それ誰かにも言われたな。良和かな」
どこの家でも同じようなことしてんのかと思って呆れた。
「キッチン使ってないね。どうせカップ麺とかで済ましてるんでしょ」
「お前に言われたくねえよ」
一人暮らししてわかったのは母親のありがたみかもしれない。
「俺だって最近はお湯沸かしたり、ご飯炊いたり、洗い物ぐらいやってるよ」
つまり最近になるまでそれすらやってなかったってことか。まあ俺も人のこと言えないけど。
「兄貴、それ自慢できるほどのことじゃないよ」
「いつになったら呼び方変わるのかね」
「仕方ないでしょ。長年呼んでたんだから。そんなすぐ直んないの。高橋さんだってそうですよね」
「え?」
いきなり俺に話を振られても困る。
「そうそう。名字変わったのにずっと呼び続けるしね」
何でお前が答えるんだと思った。
「でも私も宮部に慣れるのに時間かかったよ」
藤越の両親が離婚して、母親の姓になったため、宮部というのが二人の新しい姓だったが、俺は一度も呼んだことがない。
夕飯がないので、食べに行くことにしたら、二人はのろけだした。正直のろけなら外でやってろと思った。俺はさっき疑問に思ったことを聞いてみた。
「愛良ちゃんの結婚は?」
「だから」
藤越が答えようとしたのを制して愛良ちゃんが言った。
「結婚はやめたんです。お母さんは許してくれたけど、相手の人に迷惑をかけてしまったし、ほとぼりが覚めるまで家を離れることにしたんです」
ここにいる時点でだいたいのことはわかったけど、そういうことかと思った。
「じゃあこれからどうすんだ?」
「さあ。またどっか家探さないとね。やっぱりまた二世帯かな」
「二世帯?」
愛良ちゃんが聞き返す。
「忠敏も一緒に暮らすんでしょ?」
「それ本気だったのかよ」
「言ったことを曲げる気なの?」
俺はてっきり今まで通りたまに会う程度でいいと思ったのだが、それを言うと
「だって忠敏いなくなったじゃん」と言われてぐうの音も出なかった。
「だからそれは」
上手く説明できない。本当はただ、これ以上気持ちが膨らむのが怖かった。
「勝手にいなくなって、残された者の気持ち考えたことある?」
俺は何も言えなくなった。
「兄貴それ人のこと言えないよ」
「俺は結局最後まで実家に帰らなかったよ。そのぐらいの覚悟で出てきたの?」
藤越の言う通りだと思った。俺は結局ここに逃げて来ただけ。覚悟も何もあったもんじゃない。
「兄貴」
愛良ちゃんが口を挟もうとしたのを、藤越が止めた。
「俺が原因だと思って黙ってたけど、お母さんは本当に心配してたよ」
「わかってるよ。ちゃんと帰るって。ちょっとここで待てよ」
俺は部屋の外で母親に電話をかけた。ずっと電源を切っていた携帯だった。
母ちゃんには第一声で馬鹿やろうと怒られたけど、俺はひたすら謝った。家を出た理由も、あいつのことも後で全部話すと言って電話を切った。
部屋に戻って藤越に言った。
「今から東京行きの便取れるかな」
「帰るの?」
「ああ。母ちゃんには電話した。それからのことは帰ってから考えるんでいいか?」
「うん。でも、せっかくだからもう一日観光でもして帰れば?」
「そう言うと思った」
俺は笑った。明日の朝一で帰ろう。
俺も佐多岬以外行ってないので、二人を案内がてら観光名所を回った。
結局二人は家に泊まっていった。二人にベッドを提供して俺はソファで寝た。
どこに泊まっているのかと聞くと、ホテルはチェックアウトしたという。まさかうちに泊まる気なんじゃと思って聞いてみると、「できればそうしたい所なんだけどね」と答える藤越に呆れた。
とりあえず家に泊まるかどうかはともかくとして、車で俺の家まで案内することにした。
俺が免許持ってたのに驚かれたが、藤越は持っていないらしい。
俺はアクセルを踏み込んだ。こいつが来ると強引で調子が狂う。まだ半年しか経ってないのに懐かしい感じがした。
道もすいてたので一時間ほどで借りてるマンションについた。
「兄貴、迷惑じゃないの? またどっかホテル探せば?」
うちの前まできて愛良ちゃんが言い出した。
「せっかくきたんだから寄ってけば。片付いてないけど」
と言ってもほとんどものはない。着る物と食べるものぐらいだ。
「全然きれいじゃん」
「そりゃ買い足すものもないし」
ウィークリーマンションのいい所は、家具や電化製品があらかじめついていることだった。ちょっと値は張るけど、敷金礼金がない所がいい。どうせ半年ぐらいで出ようと思ってたからちょうどいい。
「お邪魔します」
愛良ちゃんはそう言って藤越の分も靴を揃えた。藤越はさっさと上がってるっていうのに兄弟でもこの違いはなんだろう。
「お前もちょっとは愛良ちゃんを見習えよ」
「何で?」
「自分の家かのように入るなよ」
「それ誰かにも言われたな。良和かな」
どこの家でも同じようなことしてんのかと思って呆れた。
「キッチン使ってないね。どうせカップ麺とかで済ましてるんでしょ」
「お前に言われたくねえよ」
一人暮らししてわかったのは母親のありがたみかもしれない。
「俺だって最近はお湯沸かしたり、ご飯炊いたり、洗い物ぐらいやってるよ」
つまり最近になるまでそれすらやってなかったってことか。まあ俺も人のこと言えないけど。
「兄貴、それ自慢できるほどのことじゃないよ」
「いつになったら呼び方変わるのかね」
「仕方ないでしょ。長年呼んでたんだから。そんなすぐ直んないの。高橋さんだってそうですよね」
「え?」
いきなり俺に話を振られても困る。
「そうそう。名字変わったのにずっと呼び続けるしね」
何でお前が答えるんだと思った。
「でも私も宮部に慣れるのに時間かかったよ」
藤越の両親が離婚して、母親の姓になったため、宮部というのが二人の新しい姓だったが、俺は一度も呼んだことがない。
夕飯がないので、食べに行くことにしたら、二人はのろけだした。正直のろけなら外でやってろと思った。俺はさっき疑問に思ったことを聞いてみた。
「愛良ちゃんの結婚は?」
「だから」
藤越が答えようとしたのを制して愛良ちゃんが言った。
「結婚はやめたんです。お母さんは許してくれたけど、相手の人に迷惑をかけてしまったし、ほとぼりが覚めるまで家を離れることにしたんです」
ここにいる時点でだいたいのことはわかったけど、そういうことかと思った。
「じゃあこれからどうすんだ?」
「さあ。またどっか家探さないとね。やっぱりまた二世帯かな」
「二世帯?」
愛良ちゃんが聞き返す。
「忠敏も一緒に暮らすんでしょ?」
「それ本気だったのかよ」
「言ったことを曲げる気なの?」
俺はてっきり今まで通りたまに会う程度でいいと思ったのだが、それを言うと
「だって忠敏いなくなったじゃん」と言われてぐうの音も出なかった。
「だからそれは」
上手く説明できない。本当はただ、これ以上気持ちが膨らむのが怖かった。
「勝手にいなくなって、残された者の気持ち考えたことある?」
俺は何も言えなくなった。
「兄貴それ人のこと言えないよ」
「俺は結局最後まで実家に帰らなかったよ。そのぐらいの覚悟で出てきたの?」
藤越の言う通りだと思った。俺は結局ここに逃げて来ただけ。覚悟も何もあったもんじゃない。
「兄貴」
愛良ちゃんが口を挟もうとしたのを、藤越が止めた。
「俺が原因だと思って黙ってたけど、お母さんは本当に心配してたよ」
「わかってるよ。ちゃんと帰るって。ちょっとここで待てよ」
俺は部屋の外で母親に電話をかけた。ずっと電源を切っていた携帯だった。
母ちゃんには第一声で馬鹿やろうと怒られたけど、俺はひたすら謝った。家を出た理由も、あいつのことも後で全部話すと言って電話を切った。
部屋に戻って藤越に言った。
「今から東京行きの便取れるかな」
「帰るの?」
「ああ。母ちゃんには電話した。それからのことは帰ってから考えるんでいいか?」
「うん。でも、せっかくだからもう一日観光でもして帰れば?」
「そう言うと思った」
俺は笑った。明日の朝一で帰ろう。
俺も佐多岬以外行ってないので、二人を案内がてら観光名所を回った。
結局二人は家に泊まっていった。二人にベッドを提供して俺はソファで寝た。
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