身分を捨てて楽になりたい!婚約者はお譲りしますわね。

さこの

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時計の行方

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「どうしたの? 泣きそうな顔をして」


 そう男の人は言った。

「泣きそうな顔? 私が?」

「うん。不安そうな顔とも言うのかな? 何か手伝えることはない?」


「人を待っています。だから大丈夫です」

「そうか。でも君のような可愛い子を一人残すなんて、私にはできないよ。君はこの街の子?」
 
「いえ違います」

「旅行に来ているのかな?」

「はい」

「この国から?」

「あ、はいそうです」

 デビス……早く帰ってきて。身なりもいいし、人攫いには見えないけれど、知らない人と話をしていて落ち着かない。その後も何か話しかけられたけど……

 十分ほどが経過していた。


「そこのカフェに入って待てばいいんじゃない? この場所がよく見える席に座れば、」


「ナンパなら他を当たってください」

 はぁはぁと息を整えるデビス。走って戻ってきてくれたみたい。そして腰を抱かれてドキッとした! 密着しすぎ!


「ナンパって……彼女が不安そうな顔をしていたから声をかけただけだよ」

「待たせてごめん。はい取り返してきたよ」

 懐中時計を手渡された。

「ありがとう……良かった」


 懐中時計を両手でぎゅっと握りしめたら、デビスが私の手をそっと包むように握ってくれて安心した。



「盗られたのか?」

 男の人に言われた。まだ居たのね。

「はい。さっき肩がぶつかって、その時に」

「犯人はどうしたんだ?」

 デビスを見ると男の人に説明をしてくれた。

「その辺を歩いていた警備に渡してきた。まだまだ余罪はありそうでしたよ」


「そうか。腕が立つんだな。取られたものが返ってきて良かったね」


「ご心配をおかけしました。疲れただろう、帰ろうか?」

 デビスの方が疲れていそうな気がするけれど、ホッとしたからか帰りたくなった。

「えぇ、それでは失礼します」

 声をかけてきた男性に挨拶をした。気にかけてくれたことには変わりないものね。人攫いってわけではなさそうだし。

 デビスに腰を抱かれたまま歩き出したけど、歩きにくい……


「ねぇ、歩きにくいわ」

 すると手を離して立ち止まった。


「さっきの男がタイプですか?」

「なんのこと?」

「話し込んでいたように見えました。身なりもよくてイケメンでしたし」


「デビスがまだかなって思って上の空だったわ。良かった無事で」

 ギュッとデビスの上着の裾を掴むと、


「あの場に動かず居てくれてよかった。少しでもリアの側から離れてしまってすみませんでした」


「ううん。私がぼけっと歩いていたから盗まれたの。取り返してくれてありがとう。お母様から頂いたものなのに大事にしなきゃね」




 帰りの馬車に乗ったらどっと疲れて揺れが心地よくて眠ってしまったみたい。

 起きた時はもう街に着いてしまった。夕飯の買い物をして帰ることにした。


「景色を見ながら帰りたかったのに、残念だわ……」

「また行きましょう」

「そうね。行きたいわ」

「明日からまたカフェでの仕事がまっていますからね。たまにはご褒美にこうやって一緒に出掛けましょう」


「賛成! 早く家に帰りましょう。お腹が減ったわ」


 帰りが遅くなっても良いように、デビスが昨日から煮込んでおいたビーフシチューがある。


「帰りましょう、私たちの家に」

「えぇ」

 街を歩くと顔見知りになった人達と会う。私たちは夫婦と言うことになっているけど、この国で認められた夫婦ではまだない。

 近所の人からしたらデビスが私にベタ惚れと言うことになっているらしい。


 まぁそんなこんなで家に着いてビーフシチューを食べる事になった。



「美味しい!」

 正直言って絶品! 侯爵家で出ていたようなフルコースではないけれど私は机の上に食事が全部揃えてある方が好き! 優しい食卓っていう感じ。


「お口に合って良かったです」

「絶品よ! お店を開けると思うわ。お肉もやわらかいわね」

「ランチでも始めますか?」

 くっくっくっと笑うデビス


「そうすると騒がしくなって本を読む人にとっては迷惑ね」

「静かで落ち着ける店が目標でしたがカフェが思いの外、好評でしたね」


 カフェメニューの人気でお店にいると慌ただしいのが現状。良いことだけどゆっくり本を読みたい人のオアシスになればと思う。忙しい毎日にたまに訪れる隠れ家的な……店とはかけ離れてしまった!


「疲れているでしょう? リアは部屋でゆっくりしてください。お風呂に入るときはベルを鳴らしてくださいね。出たら二回鳴らしてください。約束ですよ」

「分かったわよ。相変わらず心配性なんだから」





 流石にお風呂に入って溺れることは無いと思うの。もうあれから何年も経っているのだから! 足も着くしね。


「この前デビスと街に行った時に買った……あっ! あった」


 泡風呂が楽しめる液体! バラの香りに包まれるなんて癒されるわね。

 浴槽に入れお湯を入れると、みるみるうちに泡ができてくる。


「そろそろね!」

 ワンピースを脱ぎ湯船に浸かる。

「気持ちいいわ。浮腫んでいた足もこれで楽になりそうね。極楽だわ……」




 ついうとうとしてしまったヴィクトリア。



******


 一時間ほど経った頃……


 コンコンコン……とデビスが部屋をノックするも返事はない。


「リア? 寝ているの? 返事がないけど入るよ」

 ガチャリと扉を開けるも部屋にリアの姿はない。


「! もしかして!」


 コンコンコン……浴室の扉をノックするデビス

「リア! リア!」


 どうしようかと躊躇するが返事がない。仕方がないので扉を開けると綺麗に畳まれているワンピースを見つけた。

 返事がないし、入浴が終わったと言うベルも聞こえない。


「失礼します!」

 浴室に入るなんて紳士としてしてはいけないこと。でも、一刻を争う事態!! 扉を開けると、湯船でぐったりとしているリアが!

「お嬢様! しっかりしてください! 私を置いて、ん?」





「くぅくぅ……」





「もしかして……寝ているのか……?」



 膝から力が抜けるような感覚がした。

「良かった……」

 泡で体が隠れているが相手はハダカ。


「お嬢様、風邪をひきますよ」


 むにゃむにゃと幸せそうな顔をするリアを見て


「どうしたもんか……」


 顔を背けながら取り敢えずバスタオルで身体を包んだ。

「よし、見てないぞ! 後は……」


 ハダカのままベッドで寝かせるわけにもいかない……

 バスローブを見つけリアに着せた。

「後は濡れたバスタオルを取れば……」

 絶対に触れないようにしないと! それに見てはいけない。電気を消しそっとバスタオルを外してベッドに入れた。任務完了!


「良かったです、溺れてなくて……おやすみなさい、リア」

 頬にそっと手を触れて部屋を出た。






















 











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