冷たい仮面を被り、悪役令嬢と呼ばれた私が国王陛下になぜか気に入られました

さこの

文字の大きさ
41 / 72

40 贋作師との対峙

場所は、王都の外れにひっそりと建つ古びた工房。
すすけた窓と重たい木の扉。
中からは薬品と金属の匂いが漂う。

黒衣の外套をまとい、足を踏み入れた。

「失礼します」

中に入ると年のころ50前後の男性がいた。
白髪混じりの髪を後ろで束ね、眼鏡をかけて、宝石の研磨をしていた。

「……なんだい。今日はもう注文は受けていないよ。お嬢様」
「ええ。注文ではありませんが、お聞きしたいことがあって」
「なんだい。邪魔しにきたってわけじゃなさそうだな」
「少し、昔のあなたのお仕事について伺いたく存じます」
「……昔の?」

静かに歩を進め、カウンター越しに声を落とす。

「黎明の瞳をご存知ですか?」
「そりゃ。この国で宝石に関わる仕事をしていて知らない職人はいない」
「そうですわね。とても有名な宝石です」
「ああ。知らない奴はモグリだな」
「話を戻します。黎明の瞳にそっくりな石を作ったことは?」

その瞬間、贋作師の手がぴたりと止まった。

「さあ。なんのことだか。私は宝石の研磨師。王家の宝なんぞに縁のない話で」
「そうでしょうか?」

カバンの中に入れてあった巾着から小さな箱を取り出す。そっと開け、中の石を机に置く。

「王家の秘宝である黎明の瞳の贋作が見つかりました。贋作に使われていた鉱石、原産は南端の鉱山。細工を施せるのは現在あなたしかいないと聞きました」

贋作氏の瞳が細められる。

「なるほど。調べはつけてきたのか。お嬢様にしては随分と熱心だ」
「個人的に調べたわけではありません。これは王命のもとに行っている調査です」
「……マルグリート嬢ちゃんが自分から話すわけではないだろうし、あんたの調査能力が上だったってことか」
「あなたが作った贋作で、王家が恥をかいたのです。知らなかったでは済まされません」
「知らなかった? ふん。こう言われたんだ。展示するだけだと。どこで展示するかは聞いていないし、中身なんて誰も見ない。私はただ頼まれた通りの細工をした。それだけだ」
「あなたは王家の威信を削ぐ片棒を担いだ。それで満足ですか?」

一瞬だけ揺らぎが走るのが見えた。

「あのプライドの高い女があんたみたいな小娘に負けたのか。昔から気位だけは高かった。だがなお嬢さん」
「はい。なんでしょう?」
「あんたが見抜いたと聞いたとき、私はゾッとした。あれは私の最高傑作だったからな」




感想 5

あなたにおすすめの小説

真実の愛の裏側

藍田ひびき
恋愛
アレックス・ロートン侯爵令息の第一夫人シェリルが療養のため領地へ居を移した。それは療養とは名ばかりの放逐。 男爵家出身でありながら侯爵令息に見初められ、「真実の愛」と持て囃された彼女の身に何があったのか。その裏に隠された事情とは――? ※ 他サイトにも投稿しています。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。