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しおりを挟むその姿を見て小さく歩み出た。目を伏せたまま一言だけ言葉を発する。
「人を蹴落として得る場所に価値などありません」
マルグリートの瞳が僅かに揺れた。何かを返そうとしていたが唇が震えていた。
すると陛下が静かに立ち上がり、言った。
「この件はこれで終結とする。マルグリート・ヴェルネールは出ていくがいい」
扉が開かれ、マルグリートは一礼し、最後にもう一度だけ私を見た。その目は怒りや憎しみでもなく、ただ深い喪失だけがあった。そして静かに扉が閉じられる。
重たく閉じられた扉の音が、しんと静まり返った謁見の間に重く響いた。
しばらくの間、その扉を見つめたまま動けなかった。
赤い絨毯の先……彼女が最後に立っていた場所には誰もいない。
だが、その場の空気だけが、まだ消えずに残っている気がした。
「終わったな」
陛下の静かな声にようやく我に返る。彼は玉座の背に身を預け、目を閉じたまま呟いていた。
「はい」
思わず出た声もまた、ささやくようだった。胸の奥がざわつく。勝ったとか負けたとかそんな単純な言葉では言い表せない重さ。
自分の両手を見ると少し震え、冷えていた。それは怖さではなく、燃え尽きた……そんな感覚で力が抜けていた。
あれだけのことをしたのに、彼女は涙を見せることがなかった。それが……意外だった。
言い訳もできたはずだ。そして陛下の前で情にすがることもできた。
けれど彼女は、自分の罪を認め、頭を下げ、背筋を伸ばして去っていった。
悔しさも、怒りも、きっとあっただろうに……
軽く唇を噛んだ。同時に胸の奥が冷えていく感覚に襲われる。
マルグリートが私を恨んでいた理由。それは個人的な妬みと弟への情からだった。それを知って哀しくなった。
そこですれ違ったのか……
王宮という場所は美しい衣装と完璧な笑顔で着飾り、それが仮面で武装していることも十分に理解していた。
どれだけ上手く仮面がつけられるか? そんな場所……
「クラリス嬢、よくやった」
その言葉に顔を上げると陛下がこちらを見ていた。いつもの優しいまなざしではなく、厳しさと信頼とが混ざり合った、王としてのまなざし。
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