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103. おぞましき異臭
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【核】はその悲鳴と共に溶解していった。赤黒い肉がドロドロと溶けていく。けれど溶け落ちるまでの数秒間、その赤い瞳は少女たちを睨み続けていた。
お前たちを忘れない、必ず殺す――。
そう言っているかのように。
やがて動きが止まり、後には不快な魔力の残滓だけが残る。
少女たちは誰も動けなかった。得体の知れない悪意が人々の平穏を乱そうとしている。そのおぞましい予感が全員の心を蝕んでいた。
やがてミーシャが震える声でつぶやく。
「……これは……」
その声はいつもの優雅さを完全に失っていた。か細く震え、今にも途切れそうだ。
「生命への、冒涜です」
唇が震えている。顔が蒼白だ。
「神が定めた創造の理を捻じ曲げ、内側から生命を乗っ取る……呪われた……『寄生体』……」
その言葉を聞いた瞬間、全員の背筋に冷たいものが走った。寄生体。生きている者の内側に入り込み、その身体を乗っ取る存在。もしこれが森全体に広がっていたら、いや、街に侵入していたら。想像するだけで背筋が凍る。
「くっ……」
エリナは顔をゆがめながら死体に駆け寄り、ザシュ!と触手の一部を切り取ると、恐る恐る皮袋にしまいこんだ。証拠として持ち帰らなければならない。
「……急いで報告しなきゃ」
剣を拭き鞘に収めながら仲間たちを見る。
「これは……私たちだけで対処できる問題じゃない」
その言葉に全員がうなずいた。勝利の高揚感はもうない。代わりに得体の知れない恐怖と不安、そして焦燥感だけが残っていた。
四人は急いで森を後にする。振り返らずただ前だけを見て。けれどその背中にはまだあの赤い瞳の残像が焼き付いていた。
◇
一行は息を切らしながら森を抜け、街へと駆け込んだ。既に日は傾き始めており、茜色の夕日が街並みを染めている。いつもなら美しいと思える光景も、今は目に入らない。頭の中にあるのは、あの赤い瞳の残像と、一刻も早くこの脅威を報告しなければという焦燥感だけだった。
ギルドの重厚な扉が見えた。エリナが力任せに扉を押し開けると、ガンッという大きな音と共に扉が開き、四人は飛び込んでいく。その勢いに賑やかなギルドが一瞬静まり返り、冒険者たちが驚いて振り返った。『アルカナ』の少女たちの様子が明らかにおかしい。服は汚れ、顔は蒼白で、目には恐怖の色が残っている。
血相を変えて受付に駆け寄る四人の靴音が床に響く。
「ギルドマスターを! 今すぐ!」
エリナが受付のカウンターに両手をついて叫んだ。そのただならぬ様子に受付嬢が椅子から飛び上がるように立ち上がる。
「え、ええ! 少々お待ちを……!」
受付嬢は慌てて奥へと走っていった。待っている間、四人は誰も口を開かなかった。ただ荒い呼吸を整えながら、互いの存在を確かめるように肩を寄せ合っている。周囲の冒険者たちがひそひそと囁き合う声が聞こえるが、今はそんなことを気にしている余裕はなかった。
◇
「ギルドマスターがお呼びです。どうぞこちらへ……」
案内されたギルドマスターの執務室は、重厚な机に壁一面の書棚が並ぶ厳かな空間だった。窓からは夕日の光が差し込み、部屋に長い影を作っている。
「お前らか、何があった?」
鋭い視線を投げかけるギルドマスターの声が重く響く。
エリナが深呼吸をして事の次第を報告した。炎の魔法でゴブリンの巣ごと焼き払ったこと、けれど異常に巨大化したゴブリンロードは生き残り激しい戦闘の末に倒したが、その死骸から異形の【核】が現れてきて危うく殺されかけたこと。語りながらエリナの声が震える。あの光景を思い出すだけで再び恐怖が蘇ってくる。
ミーシャが補足した。【核】が放っていた絶対的な悪意、生命への冒涜。それは単なる魔物ではなく何か別のもっと邪悪な存在だったと。いつもは優雅な聖女の仮面を被っている彼女が、今は隠しきれない恐怖を滲ませている。
最初はギルドマスターも半信半疑だった。眉をひそめ腕を組み話を聞いている。
「……本当か? そんな魔物、文献のどこにも……」
その時、エリナがバッグから革袋を取り出した。慎重にまるで爆弾を扱うかのように机の上に置く。
「これをご覧ください」
革袋を開いて寄生体を見せると、部屋におぞましい異臭が放たれた――。
既に活動を停止しているが、それでも禍々しい気配は消えていない。赤黒い肉片の表面は粘液で覆われ不自然な光沢を放っており、細い腕のようなものが何本も生えて死んでなお痙攣しているように見えた。
ギルドマスターの顔が蒼白になる。
「な、何だ……これは……こんな……こんなものが……」
あまりのおぞましさにギルドマスターは思わずのけぞった。長年冒険者として、そしてギルドマスターとして数多くの魔物を見てきた男が明らかに動揺している。その反応を見て、四人は改めてあの【核】がいかに異常な存在だったかを実感した。
お前たちを忘れない、必ず殺す――。
そう言っているかのように。
やがて動きが止まり、後には不快な魔力の残滓だけが残る。
少女たちは誰も動けなかった。得体の知れない悪意が人々の平穏を乱そうとしている。そのおぞましい予感が全員の心を蝕んでいた。
やがてミーシャが震える声でつぶやく。
「……これは……」
その声はいつもの優雅さを完全に失っていた。か細く震え、今にも途切れそうだ。
「生命への、冒涜です」
唇が震えている。顔が蒼白だ。
「神が定めた創造の理を捻じ曲げ、内側から生命を乗っ取る……呪われた……『寄生体』……」
その言葉を聞いた瞬間、全員の背筋に冷たいものが走った。寄生体。生きている者の内側に入り込み、その身体を乗っ取る存在。もしこれが森全体に広がっていたら、いや、街に侵入していたら。想像するだけで背筋が凍る。
「くっ……」
エリナは顔をゆがめながら死体に駆け寄り、ザシュ!と触手の一部を切り取ると、恐る恐る皮袋にしまいこんだ。証拠として持ち帰らなければならない。
「……急いで報告しなきゃ」
剣を拭き鞘に収めながら仲間たちを見る。
「これは……私たちだけで対処できる問題じゃない」
その言葉に全員がうなずいた。勝利の高揚感はもうない。代わりに得体の知れない恐怖と不安、そして焦燥感だけが残っていた。
四人は急いで森を後にする。振り返らずただ前だけを見て。けれどその背中にはまだあの赤い瞳の残像が焼き付いていた。
◇
一行は息を切らしながら森を抜け、街へと駆け込んだ。既に日は傾き始めており、茜色の夕日が街並みを染めている。いつもなら美しいと思える光景も、今は目に入らない。頭の中にあるのは、あの赤い瞳の残像と、一刻も早くこの脅威を報告しなければという焦燥感だけだった。
ギルドの重厚な扉が見えた。エリナが力任せに扉を押し開けると、ガンッという大きな音と共に扉が開き、四人は飛び込んでいく。その勢いに賑やかなギルドが一瞬静まり返り、冒険者たちが驚いて振り返った。『アルカナ』の少女たちの様子が明らかにおかしい。服は汚れ、顔は蒼白で、目には恐怖の色が残っている。
血相を変えて受付に駆け寄る四人の靴音が床に響く。
「ギルドマスターを! 今すぐ!」
エリナが受付のカウンターに両手をついて叫んだ。そのただならぬ様子に受付嬢が椅子から飛び上がるように立ち上がる。
「え、ええ! 少々お待ちを……!」
受付嬢は慌てて奥へと走っていった。待っている間、四人は誰も口を開かなかった。ただ荒い呼吸を整えながら、互いの存在を確かめるように肩を寄せ合っている。周囲の冒険者たちがひそひそと囁き合う声が聞こえるが、今はそんなことを気にしている余裕はなかった。
◇
「ギルドマスターがお呼びです。どうぞこちらへ……」
案内されたギルドマスターの執務室は、重厚な机に壁一面の書棚が並ぶ厳かな空間だった。窓からは夕日の光が差し込み、部屋に長い影を作っている。
「お前らか、何があった?」
鋭い視線を投げかけるギルドマスターの声が重く響く。
エリナが深呼吸をして事の次第を報告した。炎の魔法でゴブリンの巣ごと焼き払ったこと、けれど異常に巨大化したゴブリンロードは生き残り激しい戦闘の末に倒したが、その死骸から異形の【核】が現れてきて危うく殺されかけたこと。語りながらエリナの声が震える。あの光景を思い出すだけで再び恐怖が蘇ってくる。
ミーシャが補足した。【核】が放っていた絶対的な悪意、生命への冒涜。それは単なる魔物ではなく何か別のもっと邪悪な存在だったと。いつもは優雅な聖女の仮面を被っている彼女が、今は隠しきれない恐怖を滲ませている。
最初はギルドマスターも半信半疑だった。眉をひそめ腕を組み話を聞いている。
「……本当か? そんな魔物、文献のどこにも……」
その時、エリナがバッグから革袋を取り出した。慎重にまるで爆弾を扱うかのように机の上に置く。
「これをご覧ください」
革袋を開いて寄生体を見せると、部屋におぞましい異臭が放たれた――。
既に活動を停止しているが、それでも禍々しい気配は消えていない。赤黒い肉片の表面は粘液で覆われ不自然な光沢を放っており、細い腕のようなものが何本も生えて死んでなお痙攣しているように見えた。
ギルドマスターの顔が蒼白になる。
「な、何だ……これは……こんな……こんなものが……」
あまりのおぞましさにギルドマスターは思わずのけぞった。長年冒険者として、そしてギルドマスターとして数多くの魔物を見てきた男が明らかに動揺している。その反応を見て、四人は改めてあの【核】がいかに異常な存在だったかを実感した。
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