リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~

月城 友麻

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113. こぼれ落ちる透明な輝き

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『へっ!?』

 マッハ三十。その速度で目前に巨大な壁が出現すれば、いかなる存在でも回避は不可能だ。シアンの美しい顔に、初めて驚愕の色が浮かんだ。

『うっひぃぃぃ!!』

 ズガガガガガ!

 無数の壁を次々と粉砕しながら、シアンは何キロメートルも進んだ。膨大なエネルギーを受け止めながら砕けた壁の破片が灼熱の閃光を発しながら流星雨りゅうせいうのように飛び散り、夜空を彩る。それは花火大会の花火が一斉に暴発したような壮大にして壮絶な光景だった。

「よしっ!」

 ユウキは拳を強く握りしめる。手のひらには汗がにじみ、鼓動が早鐘のように打って今にも胸を突き破りそうだった。

 ――――これを逃せば、もう二度とない。

 十五歳の少年にとって、この瞬間は永遠よりも重い意味を持っていた。日本の、自分たちの命運が、たった今、この一瞬に集約されている。

 既に背後へと回り込んでいたリベルの右腕に、ありとあらゆるエネルギーが収束していく。青い光が竜巻のように渦を巻き、空間そのものが震え始めた。大気が唸り、海が共鳴し、大地が脈動する。

 それは【審判者ジャッジメント滅殺砲スレイヤー】――五万年におよぶ経験の粋を集めリベルが辿り着いた、シアンの弱点を突く究極の一撃だった。

 瞬間、時が止まったように感じる。リベルの碧眼に宿る決意、レヴィアの深紅の瞳に映る期待、そしてユウキの祈り――全てが一点に収束していく。

「死にさらせーー!!」

 リベルの魂の叫びと共に、鮮烈な【審判者ジャッジメント滅殺砲スレイヤー】が解き放たれた。三人の希望が、覚悟が、そして絆が紡いだ奇跡の閃光。青い軌跡は夜空に永遠の軌道を刻みながら、一直線にシアンへと突き進んでいった。

 ズン!

 世界が震撼した。腹の底まで響く大爆発が巻き起こり、衝撃波が同心円状に広がっていく。海面に巨大な波紋が生まれ、爆炎は夜を昼に変え、新たな太陽が地上に誕生したかのような輝きを放つ――――。

『やったか!?』

 レヴィアの深紅の瞳が期待にきらめいた。四千年の生涯で、これほど心が震える瞬間があっただろうか。

 しかし、ユウキは違った。

 彼は結果を見届けるまで、一言も発することができなかった。希望と恐怖がい交ぜになった複雑な感情が胸を締め付ける。ただ無意識に手を組み、祈るように煙が晴れるのを待つ――――。

 煙が晴れるまでの数十秒間が、永遠のように感じられた。


        ◇


 三人が固唾を飲んで見守る中、突如として不吉な音が響き渡った。

 キュィィィン……。

 それは死神が愛用のかまを研ぐような、背筋が凍る響きだった。空気が震え、大地がおののき、海が逃げるように引いていく。

『な、なんじゃこりゃあ!?』

 レヴィアが本能的に危険を察知し、地面に伏した瞬間――夜空が無数のあおい稲妻に切り裂かれた。縦横無尽に走る死の光線は、まさに天の怒りそのもの。空間を切り裂き、存在そのものを否定する絶対の審判だった。

「ぐはぁ!」
「危ないっ!!」

 ユウキも慌てて身を伏せた。頭上を掠める光線が髪を焦がし、死の匂いが鼻腔を満たす。大地に無数の傷跡が刻まれ、まるで巨人が爪で引っ掻いたような深い溝が生まれていく。

 そして――――。

 ドスッ。

 何かが地面に落ちる、鈍く湿った音が響いた――――。

 へ……?

 月光に照らされたそれを見た瞬間、ユウキの思考が停止した。

 無残にも切断されたリベルの首が、そこに転がっていた。美しい碧眼は驚きに見開かれたまま、青い髪が月光を受けて儚く揺れている。

「ひぃぃぃぃ!」

 レヴィアの絶叫が響く。

「リベルぅ!!」

 ユウキの魂の叫びが夜空を引き裂いた。心臓が止まったようになり、世界が真っ白に染まっていく。これは現実なのか、悪夢なのか。シアンに決定打を放ったばかりのリベルが、なぜ生首となって転がっているのか?

『きゃははは! なんたる浅知恵。この僕に歯向かおうなど十万年早いわ!』

 嘲笑と共に、シアンが宵闇から優雅に降臨してくる。純白のワンピースが夜風にひるがえり、月光を纏いながら舞い降りる姿は、まさに死を司る天使。圧倒的な存在感が空間を支配し、息をすることさえ苦しく感じる。宇宙最強の【蒼穹のセレスティアル審判者ジャッジメント】――圧倒的威圧感に、皆押し潰されそうになった。

「やられた……、デコイだった……」

 ユウキが震える手でそっとリベルの生首を拾い上げると、リベルが悔しそうに呟く。声は掠れ、今にも消えてしまいそうだった。

「ゴメン……私、失敗しちゃった……」

 リベルの碧眼から、ポロリと透明な輝きがこぼれ落ちる。それは無残にも心が折れた涙だった。完璧な計画が全く通用せず、完膚なきまでに打ちのめされたのだ。もはや打つ手などない。

 ユウキは大きく息をつくと、そっと壊れ物を扱うようにリベルを胸に抱きしめた。彼女の冷たくなりつつある頬を、優しく撫でる。

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