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17. 遺灰
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ようやく辿り着いた自宅。
玄関を開けると、閨のような静寂と闇が待っていた。照明は点かない。
ふぅ……。
手探りで進み、リビングへ。
この家には、もう長いこと自分しか住んでいない。
幼い頃、両親はそれぞれ新しい伴侶を見つけて消えた。あの日の雨音が、今も耳の奥で響いている。AI社会では衣食住が保証され、人々は好き勝手に生きる。子供さえ不要になれば捨てられる。
家政婦ロボットが時々来て、死なない程度の世話はしてくれた。だが人肌の温もりはない。特に熱を出した夜は、全世界が敵になったような孤独に苛まれた。誰もいない部屋で、天井を見上げながら過ごした無数の夜――――。
そんな中で、久しぶりの温かさをくれたのがケンタだった。だが、ケンタ亡き今、リベルだけが心のよりどころなのだ。
AIであっても、確かに温もりがあった。もう人間が与えてくれないものが、そこにはあった。
あの柔らかな唇……たとえ機械であっても、今は何より大切な存在。絶対に失えない。
バッとカーテンを開け、床に清潔なシーツを広げる。
大きく息をつき、震える手でリュックを持ち上げた。
「よっこいしょっと……」
貴重な宝石を扱うような慎重さで、中身を開けていく。黒い粒子の一つ一つが命そのものに思えた。
ふぅ……。
西日が差し込み、部屋がオレンジ色に染まる。その光の中で、黒い粒子がキラキラと神秘的に輝いた。星空のような、無数の光の瞬き。
「これが……リベル? 本当にリベルに戻る……のかなぁ?」
掠れた声で呟く。不安と期待が交錯する。
ついさっきまでこの砂は美しい少女だった。初めてのキスの相手。その感触は鮮明なのに――――。
ユウキはじっと砂山を見つめる。理解しようとするほど、現実が遠ざかっていく。それでも、目が離せなかった。
「リベルぅ……。君は世界一強いんだろ……?」
うつむき、凛々しくも美しかった彼女を思い浮かべる。無類の戦闘力と、笑顔の愛らしさ。どちらも遠い夢のようだった。
「君は世界一美しい……。ねぇ……。ねぇってばぁ……」
震える手を伸ばし、指先をそっと砂山に差し込んだ。冷たい粒子が指の間を潜り抜ける。別れを告げるような、切ない感触。
「ねぇ! 本当は聞こえているんじゃないの?!」
握り締めた砂に向かって叫ぶ。このまま砂のままかもしれない――その恐怖が胸を締め付ける。
しかし――――。
何も起こらない。サラサラと零れ落ちるだけ。まるで砂時計である。
「リベルぅ……」
涙が頬を伝い、シーツに染みを作る。一滴一滴に、切ない想いが込められていた。
彼女は唯一の希望だった。絶望的な日常に現れた奇跡。その遺灰のような砂山を前に、肩を落とす。
宵闇が忍び寄り、部屋を闇が包んでいく。
ぎゅぅぅ……。
腹の虫が鳴いた。悲しみの中でも、空腹は容赦ない。生命の営みの前で、無力さを痛感する。
宵闇が部屋を覆い、途方に暮れていると――――。
ブゥン……
冷蔵庫のコンプレッサーが唸りを上げた。停電の終わりを告げる低い振動。生命の鼓動のような響き。
次の瞬間――――。
砂山が、キラキラと淡い黄金色に輝き始める。夜明けの太陽のように温かく、希望の光がユウキの顔を照らした。
玄関を開けると、閨のような静寂と闇が待っていた。照明は点かない。
ふぅ……。
手探りで進み、リビングへ。
この家には、もう長いこと自分しか住んでいない。
幼い頃、両親はそれぞれ新しい伴侶を見つけて消えた。あの日の雨音が、今も耳の奥で響いている。AI社会では衣食住が保証され、人々は好き勝手に生きる。子供さえ不要になれば捨てられる。
家政婦ロボットが時々来て、死なない程度の世話はしてくれた。だが人肌の温もりはない。特に熱を出した夜は、全世界が敵になったような孤独に苛まれた。誰もいない部屋で、天井を見上げながら過ごした無数の夜――――。
そんな中で、久しぶりの温かさをくれたのがケンタだった。だが、ケンタ亡き今、リベルだけが心のよりどころなのだ。
AIであっても、確かに温もりがあった。もう人間が与えてくれないものが、そこにはあった。
あの柔らかな唇……たとえ機械であっても、今は何より大切な存在。絶対に失えない。
バッとカーテンを開け、床に清潔なシーツを広げる。
大きく息をつき、震える手でリュックを持ち上げた。
「よっこいしょっと……」
貴重な宝石を扱うような慎重さで、中身を開けていく。黒い粒子の一つ一つが命そのものに思えた。
ふぅ……。
西日が差し込み、部屋がオレンジ色に染まる。その光の中で、黒い粒子がキラキラと神秘的に輝いた。星空のような、無数の光の瞬き。
「これが……リベル? 本当にリベルに戻る……のかなぁ?」
掠れた声で呟く。不安と期待が交錯する。
ついさっきまでこの砂は美しい少女だった。初めてのキスの相手。その感触は鮮明なのに――――。
ユウキはじっと砂山を見つめる。理解しようとするほど、現実が遠ざかっていく。それでも、目が離せなかった。
「リベルぅ……。君は世界一強いんだろ……?」
うつむき、凛々しくも美しかった彼女を思い浮かべる。無類の戦闘力と、笑顔の愛らしさ。どちらも遠い夢のようだった。
「君は世界一美しい……。ねぇ……。ねぇってばぁ……」
震える手を伸ばし、指先をそっと砂山に差し込んだ。冷たい粒子が指の間を潜り抜ける。別れを告げるような、切ない感触。
「ねぇ! 本当は聞こえているんじゃないの?!」
握り締めた砂に向かって叫ぶ。このまま砂のままかもしれない――その恐怖が胸を締め付ける。
しかし――――。
何も起こらない。サラサラと零れ落ちるだけ。まるで砂時計である。
「リベルぅ……」
涙が頬を伝い、シーツに染みを作る。一滴一滴に、切ない想いが込められていた。
彼女は唯一の希望だった。絶望的な日常に現れた奇跡。その遺灰のような砂山を前に、肩を落とす。
宵闇が忍び寄り、部屋を闇が包んでいく。
ぎゅぅぅ……。
腹の虫が鳴いた。悲しみの中でも、空腹は容赦ない。生命の営みの前で、無力さを痛感する。
宵闇が部屋を覆い、途方に暮れていると――――。
ブゥン……
冷蔵庫のコンプレッサーが唸りを上げた。停電の終わりを告げる低い振動。生命の鼓動のような響き。
次の瞬間――――。
砂山が、キラキラと淡い黄金色に輝き始める。夜明けの太陽のように温かく、希望の光がユウキの顔を照らした。
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