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人類を継ぐ者
41.マンマ!と母性
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1週間ほどすると、シアンは手足を随分と上手に動かせるようになってきた。
由香ちゃんが
「シアンちゃ~ん、アンパン〇ンですよ~」
そう言ってアンパン〇ンのおもちゃをシアンの前で動かすと、
「うー!」
と言ってそれをガシッと掴み、奪い取って口に入れて感触を確かめる。
口唇期という奴だろう。
まずは口を使って世界を理解する、それが人間の基本なのだ。
AIにもまずは口でいろいろな物を理解してもらおう。
一通り口でしゃぶり尽くすと今度は指先でアンパン〇ンの目をつつく。
「うー!」
「目をつついたらアンパン〇ン痛い痛いよ!」
由香ちゃんが声をかける。
「う”ぁおおお、ばふぅ!!」
シアンが何か言っている。
「これ?なんて言ってるの?」
由香ちゃんに聞いてみたが、
「うーん、何なんでしょうね?もう少しでわかりそうな気がするんですが……」
由香ちゃんにもわからないようだ。
「あ”らばこぶぅ!」
うーん、謎だ。
シアンの頭脳のAIはIDC内の12本のラックで、エアコン120台分の膨大な電力を消費しながら24時間体制で学習のフィードバックをかけ続けている。
この謎の言葉の裏にも複雑な思考が隠れているんだろうけど……良く分からん。
シアンの子守は、深夜から朝にかけてはクリスが、後はオフィスに居るメンバーが適宜交代しながら面倒を見るようにしている。
クリスは夜間、成長促進をシアンにかけながら面倒を見ている。
俺はだいたい8時に目が覚めたら8時半にはオフィスに行ってクリスと交代するようにしている。
その後、10時あたりにメンバーが出社してくるので適宜交代してもらっている。
誰も子守ができない時にはAIを一旦止めて、スリープモードにして寝かしつける事にしているが、なるべくそうならない様にみんなで手分けして分担している。
◇
手厚い子守体制でさらに1か月、シアンはついに寝返りに成功した。
クリスが成長促進をシアンにかけているので一般の赤ちゃんよりは相当に成長は速い。
地面にあるものを拾えるようになり、おもちゃを重ねたり組み合わせたり今までよりも複雑な思考ができるようになり、さらに学習が進んでいるようだ。
うむ、うむ、順調だ。
俺がシアンのそばで仕事しながら子守をしていると、由香ちゃんがオムツを替えに部屋に入ってきた。
それを見たシアンはすかさず由香ちゃんを指さして
「マンマ!」
由香ちゃんは、思わず持っていた紙おむつのパックを落として駆け寄ってきた。
そして、シアンを抱きあげて、
「そうよ、シアンちゃん、ママよ~!」
目が潤んでいる。
「マンマ!」
「あぁ、シアンちゃん!」
由香ちゃんは目を閉じてシアンに頬ずりをし、全身で幸せを感じている様だった。
ここ何か月も由香ちゃんはシアンを献身的に世話してきた。
その自分の分身のような存在であるシアンから、自分を認めてくれるような声をかけられたら感慨もひとしおだろう。
ただ……
さっき俺にも「マンマ」と言っていたんだよね……。
単に『ミルクが欲しい』って意味なのかもしれない。
秘密にしておかないと……。
◇
「あー、由香ちゃん、今日からタブレット学習をするよ」
そう言ってマウスの時にも使ったタブレットを見せた。画面には美奈ちゃんと戦った時の二次方程式の問題が出ている。
「え? こんな難しい事、シアンは分かるんですか?」
「多分すぐに解けるようになるよ」
「だって言葉もまだですよ?」
「これ、マウスの時にすでに解いてたんだよね」
「マウスはマウスです! シアンは女の子なんです!!!」
どうも納得いかないようだ。
「まぁとりあえず見ててよ」
そう言って俺はタブレットをベビーベッドにセットした。
「はい、シアン! 今日からお勉強だぞ!」
俺はシアンに一番簡単な問題の画面を見せて、シアンの指を引っ張って正解のボタンをタップさせた。
ピンポーン!
チャイムが鳴って小さな玉子ボーロが一つ落ちてくる。
シアンは
「きゃははは!」
と言って玉子ぼうろをつまみ、じっくり観察している。
俺は
「ウマウマよ! ウマウマ!」
そう言って食べるゼスチャーをして見せた。
シアンは恐る恐る口に入れてモグモグした。
まだ歯も生えていないのだが、玉子ボーロはすぐに溶けて甘味を口の中に広げた。
「きゃははは!」
甘味に反応して喜んでいる。
シアンはもっと欲しくなり、画面を掌でバンバンと叩く。
でもたまたま正解した時しか玉子ボーロは出てこない。
「うー!」
不満そうである。
でも、ここは自分で乗り越えてもらわないと。
10分くらい試行錯誤していくうちに、どうやら回路が出来上がったようで、100%正解できるようになった。
まだ『●』の数の多い方を押すだけの簡単な問題だがそれでも100%ならバッチリだ。
隣でハラハラしながら見ていた由香ちゃんも、ここまでくると安心したようだ。
「ほら、シアンは賢いだろ?」
俺がニヤッと笑って言うと、
「この位はできますよ! でも二次方程式なんて……」
「じゃぁやってみようか?」
俺はそう言ってタブレットの問題を入れ替えた。
「マウス時代にシアンは、この問題で美奈ちゃんに勝ってるんだよ」
「え? 美奈ちゃんに!?」
と、その時いきなりドアが バン! と開いた。
「聞き捨てならないわね! 勝ったのは私よ!」
美奈ちゃんが乱入してくる。
どんだけ地獄耳だよ。
ちなみに俺はまだハグをする権利を回復してもらってない。
由香ちゃんが
「シアンちゃ~ん、アンパン〇ンですよ~」
そう言ってアンパン〇ンのおもちゃをシアンの前で動かすと、
「うー!」
と言ってそれをガシッと掴み、奪い取って口に入れて感触を確かめる。
口唇期という奴だろう。
まずは口を使って世界を理解する、それが人間の基本なのだ。
AIにもまずは口でいろいろな物を理解してもらおう。
一通り口でしゃぶり尽くすと今度は指先でアンパン〇ンの目をつつく。
「うー!」
「目をつついたらアンパン〇ン痛い痛いよ!」
由香ちゃんが声をかける。
「う”ぁおおお、ばふぅ!!」
シアンが何か言っている。
「これ?なんて言ってるの?」
由香ちゃんに聞いてみたが、
「うーん、何なんでしょうね?もう少しでわかりそうな気がするんですが……」
由香ちゃんにもわからないようだ。
「あ”らばこぶぅ!」
うーん、謎だ。
シアンの頭脳のAIはIDC内の12本のラックで、エアコン120台分の膨大な電力を消費しながら24時間体制で学習のフィードバックをかけ続けている。
この謎の言葉の裏にも複雑な思考が隠れているんだろうけど……良く分からん。
シアンの子守は、深夜から朝にかけてはクリスが、後はオフィスに居るメンバーが適宜交代しながら面倒を見るようにしている。
クリスは夜間、成長促進をシアンにかけながら面倒を見ている。
俺はだいたい8時に目が覚めたら8時半にはオフィスに行ってクリスと交代するようにしている。
その後、10時あたりにメンバーが出社してくるので適宜交代してもらっている。
誰も子守ができない時にはAIを一旦止めて、スリープモードにして寝かしつける事にしているが、なるべくそうならない様にみんなで手分けして分担している。
◇
手厚い子守体制でさらに1か月、シアンはついに寝返りに成功した。
クリスが成長促進をシアンにかけているので一般の赤ちゃんよりは相当に成長は速い。
地面にあるものを拾えるようになり、おもちゃを重ねたり組み合わせたり今までよりも複雑な思考ができるようになり、さらに学習が進んでいるようだ。
うむ、うむ、順調だ。
俺がシアンのそばで仕事しながら子守をしていると、由香ちゃんがオムツを替えに部屋に入ってきた。
それを見たシアンはすかさず由香ちゃんを指さして
「マンマ!」
由香ちゃんは、思わず持っていた紙おむつのパックを落として駆け寄ってきた。
そして、シアンを抱きあげて、
「そうよ、シアンちゃん、ママよ~!」
目が潤んでいる。
「マンマ!」
「あぁ、シアンちゃん!」
由香ちゃんは目を閉じてシアンに頬ずりをし、全身で幸せを感じている様だった。
ここ何か月も由香ちゃんはシアンを献身的に世話してきた。
その自分の分身のような存在であるシアンから、自分を認めてくれるような声をかけられたら感慨もひとしおだろう。
ただ……
さっき俺にも「マンマ」と言っていたんだよね……。
単に『ミルクが欲しい』って意味なのかもしれない。
秘密にしておかないと……。
◇
「あー、由香ちゃん、今日からタブレット学習をするよ」
そう言ってマウスの時にも使ったタブレットを見せた。画面には美奈ちゃんと戦った時の二次方程式の問題が出ている。
「え? こんな難しい事、シアンは分かるんですか?」
「多分すぐに解けるようになるよ」
「だって言葉もまだですよ?」
「これ、マウスの時にすでに解いてたんだよね」
「マウスはマウスです! シアンは女の子なんです!!!」
どうも納得いかないようだ。
「まぁとりあえず見ててよ」
そう言って俺はタブレットをベビーベッドにセットした。
「はい、シアン! 今日からお勉強だぞ!」
俺はシアンに一番簡単な問題の画面を見せて、シアンの指を引っ張って正解のボタンをタップさせた。
ピンポーン!
チャイムが鳴って小さな玉子ボーロが一つ落ちてくる。
シアンは
「きゃははは!」
と言って玉子ぼうろをつまみ、じっくり観察している。
俺は
「ウマウマよ! ウマウマ!」
そう言って食べるゼスチャーをして見せた。
シアンは恐る恐る口に入れてモグモグした。
まだ歯も生えていないのだが、玉子ボーロはすぐに溶けて甘味を口の中に広げた。
「きゃははは!」
甘味に反応して喜んでいる。
シアンはもっと欲しくなり、画面を掌でバンバンと叩く。
でもたまたま正解した時しか玉子ボーロは出てこない。
「うー!」
不満そうである。
でも、ここは自分で乗り越えてもらわないと。
10分くらい試行錯誤していくうちに、どうやら回路が出来上がったようで、100%正解できるようになった。
まだ『●』の数の多い方を押すだけの簡単な問題だがそれでも100%ならバッチリだ。
隣でハラハラしながら見ていた由香ちゃんも、ここまでくると安心したようだ。
「ほら、シアンは賢いだろ?」
俺がニヤッと笑って言うと、
「この位はできますよ! でも二次方程式なんて……」
「じゃぁやってみようか?」
俺はそう言ってタブレットの問題を入れ替えた。
「マウス時代にシアンは、この問題で美奈ちゃんに勝ってるんだよ」
「え? 美奈ちゃんに!?」
と、その時いきなりドアが バン! と開いた。
「聞き捨てならないわね! 勝ったのは私よ!」
美奈ちゃんが乱入してくる。
どんだけ地獄耳だよ。
ちなみに俺はまだハグをする権利を回復してもらってない。
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