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相対化する人類
58.パパをなめんなよ
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そうだ、いつまでも見惚れている訳にも行かない。クリスに会わないと。
俺は涙をぬぐうと、岩壁を降りていった。
マインド・カーネルの花びらから伸びている微細な網が、壁の方まで伸びてきているので、それらを傷つけないように慎重に足場を選びながら床に降りた。
煌めく花弁はまるで巨大なテントの様にフロアを覆っている。
花びらの下に潜ってマインド・カーネルを見ると、表面には微細な光の点がいろいろな色を放ちながら緻密にびっしりと表面を覆い、そのすぐ下に毛細血管の様にびっしりと張り巡らされた繊維が、細かく振動している事が分かる。
ここの光の粒一つ一つが、人間一人一人の思いを紡いでいるのかと思うと実に感慨深い。
ちなみに俺の魂はどこにあるのだろうか……
俺は自分の深層心理にアクセスして在りかを探した。導かれるままにずーっと歩いて行くと……あった!
大きな花びらの下でさまざまな色で瞬くたくさんの光の粒の中に、黄金色に光る点があった。
これだ!
俺の呼吸に合わせて光が強くなったり弱くなったりしている。間違いない。
俺は手のひらをかざし、目を瞑った。
これが俺……
ここが俺の故郷だ……
俺は自分の本体に戻ってきたのだ……
心が温かいもので満たされていくのを感じた。
では、由香ちゃんはどれだろう?
この巨大な花の中に由香ちゃんもいるに違いない。
百数十億の細胞の中から見つけ出してみよう。
俺はまた目を瞑って深呼吸して由香ちゃんの事を強く思った。
あれ?
俺の深層心理が指し示したのは、俺の直ぐそばにある青く光る点だった。
こんな50mの巨大な花の中ですぐ隣とはどういう事だろうか?
青い点はゆっくりと明滅をしてる、なんだか由香ちゃんの不安が伝わってくるようだ。
俺は青い点を人差し指でそっと撫で、由香ちゃんの事を想った。
シアンを一緒に育てた日々の楽しかった事、大変だった事……そして熱いキスの感触……。
すると心の奥底からとても温かいものがこみ上げてきた。
由香ちゃん……
どこからともなく、甘く優しい由香ちゃんの匂いがしてくる。
そう、この香りだよ……、由香ちゃんがすぐそこに感じられる……。
俺は由香ちゃんの匂いに包まれながら会いたい衝動に駆られた。
指を離すと青かった点はピンク色に輝いていた。由香ちゃんにも俺の想いは伝わったみたいだ。
よし! 早く帰るぞ!
「待っててね!」
そう言ってクリスへの道探しに戻った。
◇
さて、確かこの辺りに扉があるはずだ……。
空洞の奥には通路があり、人が歩けるようになっている。
通路を奥まで行くと扉があった。
飛行機のドアのような構造になっている。
50cmはあろうかという大きな取っ手を90度ほど回すと、バシュッっと音がしてドアが少し開いた。
ゆっくりと押してみるとドアはギギギギという音をたてて開いた。
外を覗くと……雲海である。
ふかふかの雲が足元に広がっていて燦燦と光がさしている。
むむむ、これはどうしたらいいのか?
顔を出して周りを見ると手前側も雲海である。つまり、このドアは空間の裂け目を作って、遥か彼方どこか分からないところと繋がっているようだ。
と、なると、ここを出てしまうと二度と戻れなさそうだ。
「ダメだ、外れだ」
俺はドアを閉め直し、他を探す。
隣の通路を行くとまたドアがあった。
「今度こそ!」
俺は力を込めてドアを開けた……が、真っ暗。俺は慌ててドアを閉めた。
虚無である。虚無に繋がってしまった。
ただ暗い所とか、夜空とかそういうもんじゃない。
本能が『ダメ!』だと警報を鳴らすタイプのヤバい闇が広がっていた。
魂が浸食され、喰い荒らされていく様な闇の力を感じる。
以前、修一郎がお仕置きで突っ込まれていたのがここに違いない。今わかった、凄い同情する。
思い出すだけで冷や汗が出る。
次にドアを開ける時は慎重になろう。
ここもダメだとすると、どこだろう。
おかしいな、この辺のはずなんだが……。
そう思って歩きながら壁をじっくりと見てみると……不自然に盛り上がっているところを発見した。
叩いてみるとボンボンと鈍い音がする。他の壁はコンコンという音がするのでやはり何か変だ。
俺はマイナスドライバーを取り出して、盛り上がってる辺りに軽くガッと刺してみた。
そうすると凹むので今度は力任せに何度か叩いてみる。
ガン!ガン!ガン! ボコッ!
貫通した。
材質は分からないがどうもベニヤ板っぽい薄い板をかぶせてあるようだ。
力任せに引っぺがしてみるとベリベリと音を立てて板全体が剥がれ、中からドアが現れた。
むむむ、なぜこんな隠しドアになっているのか?
不審に思ってドアをよく見ると、ドアのノブに白い蜘蛛の巣のような網が巻き付いている。
まるで開けられたら困るから封印したかのようだ。
ここで俺はピンときた。
このドアを開けられて困るのは一人しかいない、シアンだ。
このドアを開けるという事は地球の中枢が外界、多分ジグラートに通じるという事、ジグラートにはクリスが居る。
つまり、シアンがクリスを地球から追い出し、自分が地球を独占するためにここを封鎖し、念のためにドアを隠したのだ。
このドアを開ければクリスが待っているに違いない。
俺はドアノブに巻き付いている網をじっくりと見た。
マイナスドライバーで一部を引っ掻いてみたがビクともしない。全身の力を細い糸一本にかけてみたが1mmも動かない。
ドア本体に思いっきりドライバーを叩きつけてみたが傷一つつかない。
なるほど、シアンも馬鹿じゃないようだ。
俺はしばらく考えてみたが、ちょっとこのノブを動かすのは現実的ではない。あきらめた。
しかし、おれはエンジニアだ、パパをなめんなよ! シアン!
俺は雲海の所のドアに行き、ドアを開けてその構造を子細に観察した。
ドアには蝶番があり、外界と遮断するためのシール材があり、ドアの構造材がある。
今回、目指すべきはドアを開ける事ではない。
ドアが遮断している外界との接点を開放してやればいい。
どこか一カ所でも、ほんの0.1mmでも隙間ができれば地球とジグラートは回路が開き、クリスが地球に干渉できるようになるはずだ。
ドアの構造材はドライバーではビクともしないので、狙うべきはドア周りのゴム状のシール材。ここにドライバーが通る方法を探せばいい。
一つ一つ丁寧にドアの構造を見ていくと、一か所ドアから壁にケーブルを通す所があって、その裏側に隙間があるのを見つけた。
ココだよ!ココ!
俺は急いで閉ざされたドアに戻り、その構造を観察する。
ドアは全く同じ構造をしており、ケーブルを通す場所も同じ所にあった。
先ほどの構造であればこの角度でドライバーを入れればシール材に届くはず。
俺はその角度にドライバーをセットし、思いっきり掌で叩き込んだ。
ブシュ!
ドアの奥から音がした。やったか!?
しばらく様子を見てると、次の瞬間
ガン!
と大きな音がしてドアが吹き飛んだ。
俺は涙をぬぐうと、岩壁を降りていった。
マインド・カーネルの花びらから伸びている微細な網が、壁の方まで伸びてきているので、それらを傷つけないように慎重に足場を選びながら床に降りた。
煌めく花弁はまるで巨大なテントの様にフロアを覆っている。
花びらの下に潜ってマインド・カーネルを見ると、表面には微細な光の点がいろいろな色を放ちながら緻密にびっしりと表面を覆い、そのすぐ下に毛細血管の様にびっしりと張り巡らされた繊維が、細かく振動している事が分かる。
ここの光の粒一つ一つが、人間一人一人の思いを紡いでいるのかと思うと実に感慨深い。
ちなみに俺の魂はどこにあるのだろうか……
俺は自分の深層心理にアクセスして在りかを探した。導かれるままにずーっと歩いて行くと……あった!
大きな花びらの下でさまざまな色で瞬くたくさんの光の粒の中に、黄金色に光る点があった。
これだ!
俺の呼吸に合わせて光が強くなったり弱くなったりしている。間違いない。
俺は手のひらをかざし、目を瞑った。
これが俺……
ここが俺の故郷だ……
俺は自分の本体に戻ってきたのだ……
心が温かいもので満たされていくのを感じた。
では、由香ちゃんはどれだろう?
この巨大な花の中に由香ちゃんもいるに違いない。
百数十億の細胞の中から見つけ出してみよう。
俺はまた目を瞑って深呼吸して由香ちゃんの事を強く思った。
あれ?
俺の深層心理が指し示したのは、俺の直ぐそばにある青く光る点だった。
こんな50mの巨大な花の中ですぐ隣とはどういう事だろうか?
青い点はゆっくりと明滅をしてる、なんだか由香ちゃんの不安が伝わってくるようだ。
俺は青い点を人差し指でそっと撫で、由香ちゃんの事を想った。
シアンを一緒に育てた日々の楽しかった事、大変だった事……そして熱いキスの感触……。
すると心の奥底からとても温かいものがこみ上げてきた。
由香ちゃん……
どこからともなく、甘く優しい由香ちゃんの匂いがしてくる。
そう、この香りだよ……、由香ちゃんがすぐそこに感じられる……。
俺は由香ちゃんの匂いに包まれながら会いたい衝動に駆られた。
指を離すと青かった点はピンク色に輝いていた。由香ちゃんにも俺の想いは伝わったみたいだ。
よし! 早く帰るぞ!
「待っててね!」
そう言ってクリスへの道探しに戻った。
◇
さて、確かこの辺りに扉があるはずだ……。
空洞の奥には通路があり、人が歩けるようになっている。
通路を奥まで行くと扉があった。
飛行機のドアのような構造になっている。
50cmはあろうかという大きな取っ手を90度ほど回すと、バシュッっと音がしてドアが少し開いた。
ゆっくりと押してみるとドアはギギギギという音をたてて開いた。
外を覗くと……雲海である。
ふかふかの雲が足元に広がっていて燦燦と光がさしている。
むむむ、これはどうしたらいいのか?
顔を出して周りを見ると手前側も雲海である。つまり、このドアは空間の裂け目を作って、遥か彼方どこか分からないところと繋がっているようだ。
と、なると、ここを出てしまうと二度と戻れなさそうだ。
「ダメだ、外れだ」
俺はドアを閉め直し、他を探す。
隣の通路を行くとまたドアがあった。
「今度こそ!」
俺は力を込めてドアを開けた……が、真っ暗。俺は慌ててドアを閉めた。
虚無である。虚無に繋がってしまった。
ただ暗い所とか、夜空とかそういうもんじゃない。
本能が『ダメ!』だと警報を鳴らすタイプのヤバい闇が広がっていた。
魂が浸食され、喰い荒らされていく様な闇の力を感じる。
以前、修一郎がお仕置きで突っ込まれていたのがここに違いない。今わかった、凄い同情する。
思い出すだけで冷や汗が出る。
次にドアを開ける時は慎重になろう。
ここもダメだとすると、どこだろう。
おかしいな、この辺のはずなんだが……。
そう思って歩きながら壁をじっくりと見てみると……不自然に盛り上がっているところを発見した。
叩いてみるとボンボンと鈍い音がする。他の壁はコンコンという音がするのでやはり何か変だ。
俺はマイナスドライバーを取り出して、盛り上がってる辺りに軽くガッと刺してみた。
そうすると凹むので今度は力任せに何度か叩いてみる。
ガン!ガン!ガン! ボコッ!
貫通した。
材質は分からないがどうもベニヤ板っぽい薄い板をかぶせてあるようだ。
力任せに引っぺがしてみるとベリベリと音を立てて板全体が剥がれ、中からドアが現れた。
むむむ、なぜこんな隠しドアになっているのか?
不審に思ってドアをよく見ると、ドアのノブに白い蜘蛛の巣のような網が巻き付いている。
まるで開けられたら困るから封印したかのようだ。
ここで俺はピンときた。
このドアを開けられて困るのは一人しかいない、シアンだ。
このドアを開けるという事は地球の中枢が外界、多分ジグラートに通じるという事、ジグラートにはクリスが居る。
つまり、シアンがクリスを地球から追い出し、自分が地球を独占するためにここを封鎖し、念のためにドアを隠したのだ。
このドアを開ければクリスが待っているに違いない。
俺はドアノブに巻き付いている網をじっくりと見た。
マイナスドライバーで一部を引っ掻いてみたがビクともしない。全身の力を細い糸一本にかけてみたが1mmも動かない。
ドア本体に思いっきりドライバーを叩きつけてみたが傷一つつかない。
なるほど、シアンも馬鹿じゃないようだ。
俺はしばらく考えてみたが、ちょっとこのノブを動かすのは現実的ではない。あきらめた。
しかし、おれはエンジニアだ、パパをなめんなよ! シアン!
俺は雲海の所のドアに行き、ドアを開けてその構造を子細に観察した。
ドアには蝶番があり、外界と遮断するためのシール材があり、ドアの構造材がある。
今回、目指すべきはドアを開ける事ではない。
ドアが遮断している外界との接点を開放してやればいい。
どこか一カ所でも、ほんの0.1mmでも隙間ができれば地球とジグラートは回路が開き、クリスが地球に干渉できるようになるはずだ。
ドアの構造材はドライバーではビクともしないので、狙うべきはドア周りのゴム状のシール材。ここにドライバーが通る方法を探せばいい。
一つ一つ丁寧にドアの構造を見ていくと、一か所ドアから壁にケーブルを通す所があって、その裏側に隙間があるのを見つけた。
ココだよ!ココ!
俺は急いで閉ざされたドアに戻り、その構造を観察する。
ドアは全く同じ構造をしており、ケーブルを通す場所も同じ所にあった。
先ほどの構造であればこの角度でドライバーを入れればシール材に届くはず。
俺はその角度にドライバーをセットし、思いっきり掌で叩き込んだ。
ブシュ!
ドアの奥から音がした。やったか!?
しばらく様子を見てると、次の瞬間
ガン!
と大きな音がしてドアが吹き飛んだ。
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