【金こそパワー】ITスキルで異世界にベンチャー起業して、金貨の力で魔王を撃破!

月城 友麻

文字の大きさ
20 / 73

20. 最後のシチュー

しおりを挟む
「何食べたい?」

 タケルは優しい笑顔でクレアの顔をうかがう。

「タケルさんの食べたいものがいいわ!」

 パァッと明るい笑顔で笑うクレア。

「じゃあ、行きつけのところにしよう。ちょっと汚いんだけど、味は折り紙付きさ」

 クレアは嬉しそうにうなずいた。

 談笑しながら行きつけのレストランにやってきた二人。細い裏通りにある年季の入った石造りの建物にはかすれた文字の汚い看板が傾いたままになっている。

「男爵! ここはマズいですよ……」

 SPが飛んできて、入ろうとする二人を諫めた。

「え? だってもう他の店やってないし……」

「いやしかし、貴族様が入っていいようなところではございません」

 タケルはウンザリして首を振る。

「今までずっと使ってきて問題なかったんだ。隅っこの席で目立たないようにするから頼むよ」

 そう言いながらタケルは強引にギギーっときしむドアを押し開け入っていく。行きつけの店に行けなくなるなんてとんでもない。貴族のマナーなんてクソくらえである。

 SPたちは顔を見合い、ため息をついて首を振った。


        ◇


 タケルは日替わりのシチューとパンを注文し、リンゴ酒シードルでクレアと乾杯した。

「カンパーイ!」「お疲れ様!」

「ふぅーー、生き返るね」

 タケルは恍惚とした表情でシュワシュワとした芳醇なリンゴの香りを堪能する。

「今日のタケルさん、カッコ良かったですよ。もうすっかり貴族って感じでした。ふふふっ」

「ちょっともう、からかうの止めてよ。場違い感半端ないんだから」

 タケルは少し頬を赤く染めてグッとリンゴ酒を傾けた。

「はい! お待ち―!」

 店のおばちゃんがシチューを持ってやってくる。

「おぉ、来た来た! 美味そう!」

 お腹が空いていたタケルは、そのトロリとうまみの凝縮された食のアートにうっとりする。

「タケルちゃん、今日はおめかししてどうしたんだい?」

 おばちゃんは上機嫌に聞いた。

「タケルさん、なんと今日から男爵なんですよ!」

 クレアはニコニコしながら言った。

「へっ……。き、貴族様……かい……?」

 途端に青い顔になっておばちゃんは後ずさる。男爵には斬り捨て御免の特権がある訳ではないが、裁判になればどんな無理筋の難癖でも貴族側が勝ってしまうので、後ろ盾のない市民にとっては厄介な敵なのだ。

「あっ、大丈夫です。おばちゃんを困らせることなんてしませんから」

 慌ててフォローするタケル。

「そ、そうかい……、でももう来ないでおくれよ。こんなところにお貴族様がいらっしゃってたら他のお客さん来なくなっちまうよ!」

 おばちゃんはそう言うと慌てて逃げていった。

 あ……。

 タケルはおばちゃんへ力なく手を伸ばし……、ガックリとうなだれた。

 先日まで自分も貴族を毛嫌いしていたので、おばちゃんの言いたいことは良く分かる。分かるだけに何も言えなくなって重いため息をついた。

「ご、ごめんなさい、私……」

 クレアは余計なことを言ってしまったと、申し訳なさそうな顔をしながらうつむく。

「いいよ、本当のことなんだし……」

 タケルは首を振ると切り替え、これで最後となってしまったシチューにパンをつけ、目をつぶってほおばる。口に入れた瞬間に広がる芳醇な風味、じっくり煮込まれた野菜と肉の旨みが溶け合って、心まで温まっていく……。

「ごめんなさい、私、タケルさんの足を引っ張ってばかりだわ……」

 クレアは涙をポロリとこぼす。

「何を言うんだ。助かってるよ。今日だってクレアがいてくれなかったら来客の管理とかもできなかったし」

「……。本当……?」

「そうさ。実は……一番大切なことをやってもらいたいと思ってるんだ」

「大切なこと……って?」

 クレアは涙を指で拭いながらタケルを見上げた。

「スマホはどうやって通話できるか分かる?」

 タケルはスマホを取り出してクレアに見せた。

「え? 魔法で相手のスマホに声を送る……んじゃないんですか?」

 タケルはニコッと笑って首を振る。

「それが、違うんだな。実は間に【サーバー】というのが必要で、こいつが無いと何もできないんだ」

「サーバー……?」

 キョトンとするクレア。

「テトリスの大会で使ってたような三メートルくらいの巨大なプレートだよ」

「あ、あの大画面……、ですか?」

「そう。あいつは多くの魔石を装着できる巨大な魔道具なんで、サーバーとしては最適なんだ。で、これはいわばOrangeの事業の心臓部になる。だからサーバーが必要な事もどこにあるかもすべて秘密にしなきゃならない」

「秘密にするんですか?」

「Orangeは敵陣営からしたら目の敵だからね。知られたらサーバーを壊しにやってきちゃうんだ」

「な、なるほど……」

「で、このサーバーの安全な保管場所と、定期的な魔石の補充をクレアにお願いしたい」

「わ、私ですか!?」

 クレアはそんな重大な仕事をまだ子供の自分に任せようというタケルの目論見が読めず、目を丸くして固まった。

「そう。こんな大切な事、クレアにしか頼めないんだ」

 タケルはクレアの手を取り、じっとその碧いうるんだ瞳を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...