63 / 73
63. 六十万年の試行錯誤
しおりを挟む
「燃料レベル、ヨシ! 航路クリアランス、ヨシ! ナビゲーションシステム起動! 緊急脱出システム、アームド!」
モニター内の各種計器を確認するネヴィアの声が、コックピット内に響く。オレンジ色で統一された船内のインテリアは洗練されており、機能美を追求した計器やスイッチの配置を含めてアートのような調和が見て取れた。シートは革張りソファのように身体を優しく包み込み、フロントガラスは広く、視界は良好で、放射状に走るピラーが宇宙船らしさを感じさせる。
いよいよクレアを救うため、危険な宇宙航海に出発するのだ。その想像もしていなかった事態に緊張し、タケルはシートベルトを締めながら、バクバクと早鐘を打つ心臓を持て余した。
「オールグリーン! エンジン始動!」
ネヴィアはヘッドレストに頭をうずめ、緊張した面持ちでガチリと赤いボタンを押し込んだ。
キュィィィィィ……。
高鳴っていく高周波がコクピット内に響く。どこからともなくオゾンのような刺激臭が漂ってきてタケルは顔をしかめた。
「ゲートオープン!」
前方の大きな扉がガコッと大きな音を立てながらずれ、ゴォォォォと空気が漏れていく盛大な音が響き渡った。
次第に音は失われ、周りが真空になるとゆっくりと扉が開いていく。見えてきたのは満点の星々を縦断する雄大な天の川、そして、壮大な海王星の長大な水平線。いよいよ宇宙に飛び出すことにタケルは思わず息をのんだ。
「さーて、無事に帰ってくるぞ! シュッパーツ!」
ネヴィアがポチっとモニターの【射出】ボタンをタップする。
ギギギッ!
足元から何かがきしむ音がしたと思った瞬間、強烈なGがタケルを襲った。
グォッ!
一気に流れだす景色……。そう、シャトルはカタパルトで射出されたのだった。
「よっしゃー! 行ったるでー! エンジン全開やーっ!」
ネヴィアはノリノリで叫ぶと、スロットルをガチガチガチっと一気にMAXに上げ、操縦桿をグッと倒した。
うひぃぃぃ!
今度は強烈な横Gがタケルを襲う。
シャトルは後部のノズルスカートから鮮やかな青い炎を吹き出しながら、ググっと急旋回していく。
ネヴィアは遠くに見えてきた巨大な車輪状のスペースポートを、モニターで拡大表示させた。直径十キロはあろうかという巨大な車輪の中心部には長大な宇宙船が何艘も停泊し、何やらにぎやかに貨物の積み下ろしを行っている。
「よしよし、あいつじゃな……」
ネヴィアはそのうちの、出発準備の整った大型貨物船に照準を合わせた。
ジグラートへの資材を運ぶこの貨物船は、チタン合金で編み上げられた骨組みが支える無数のコンテナで構成され、長さは三キロメートルに及ぶ。先頭にはクジラの頭を思わせる艦橋、最後部にはこの巨体を力強く推進する、直径数百メートルはあろうかという巨大なノズルスカートがあり、その基部には大型タンクがいくつも並んでいる。
タケルはその常識外れのスケールに圧倒され、思わずため息をついた。
「ヨシ! あの辺にすっか! くっくっく……」
ネヴィアは悪い顔をしながらモニターをパシパシと叩き、笑みを浮かべる。
シャトルは一直線に貨物船に近づくと、静かに減速し、大型タンクの間の隙間にそっとその身を潜ませた。そして、ロープを射出してチタン合金の柱に結びつけ、船体を固定する。
「え? このまま海王星へ降りて……行くの?」
タケルはその奇想天外なやり方に困惑した。
「ここなら見つからんじゃろ。大気圏突入後に抜け出せばええわ。カッカッカッ」
「はぁ……。そんなにうまくいくのかなぁ……」
タケルはタンクの隙間から見える長大な白いコンテナの列を眺めながら、ふぅとため息をついた。
◇
「こんなにたくさんの貨物が必要なの?」
少しずつゆっくりと動き出した貨物船に揺られながら、タケルは首を傾げる。この貨物船以外にも、スペースポートには何艘もコンテナ船が停泊しているのだ。
「そりゃ、ジグラートは一万機あるからのう」
リクライニングシートを倒してくつろぐネヴィアは、無重力空間に浮かべたグミたちを一つずつ器用に食べながら答えた。
「い、一万機!?」
「地球は一万個あるってことじゃな。カッカッカ」
目を丸くして驚くタケルを見ながら、ネヴィアは楽しそうに笑う。
「そ、そんなに……、あるのか」
「六十万年かけて少しずつ増やしてきたんじゃな」
「ろ、六十万年!?」
「そんなに驚くことか? 宇宙の歴史百数十億年を考えたらほんの最近のことじゃろ?」
ネヴィアはこともなげに言いながら、またグミにパクっと食いついた。
「誰が……、こんなことやっているの?」
「ん? お主も会ったことあるじゃろ? 女神様じゃ」
「女神……様……?」
タケルは転生する時に、確かにチェストナットブラウンの髪をした美しい女性に会ったような記憶がある。ただ、それは夢の中のようなおぼろげな記憶であり、いまいち確信が持てないのだ。
モニター内の各種計器を確認するネヴィアの声が、コックピット内に響く。オレンジ色で統一された船内のインテリアは洗練されており、機能美を追求した計器やスイッチの配置を含めてアートのような調和が見て取れた。シートは革張りソファのように身体を優しく包み込み、フロントガラスは広く、視界は良好で、放射状に走るピラーが宇宙船らしさを感じさせる。
いよいよクレアを救うため、危険な宇宙航海に出発するのだ。その想像もしていなかった事態に緊張し、タケルはシートベルトを締めながら、バクバクと早鐘を打つ心臓を持て余した。
「オールグリーン! エンジン始動!」
ネヴィアはヘッドレストに頭をうずめ、緊張した面持ちでガチリと赤いボタンを押し込んだ。
キュィィィィィ……。
高鳴っていく高周波がコクピット内に響く。どこからともなくオゾンのような刺激臭が漂ってきてタケルは顔をしかめた。
「ゲートオープン!」
前方の大きな扉がガコッと大きな音を立てながらずれ、ゴォォォォと空気が漏れていく盛大な音が響き渡った。
次第に音は失われ、周りが真空になるとゆっくりと扉が開いていく。見えてきたのは満点の星々を縦断する雄大な天の川、そして、壮大な海王星の長大な水平線。いよいよ宇宙に飛び出すことにタケルは思わず息をのんだ。
「さーて、無事に帰ってくるぞ! シュッパーツ!」
ネヴィアがポチっとモニターの【射出】ボタンをタップする。
ギギギッ!
足元から何かがきしむ音がしたと思った瞬間、強烈なGがタケルを襲った。
グォッ!
一気に流れだす景色……。そう、シャトルはカタパルトで射出されたのだった。
「よっしゃー! 行ったるでー! エンジン全開やーっ!」
ネヴィアはノリノリで叫ぶと、スロットルをガチガチガチっと一気にMAXに上げ、操縦桿をグッと倒した。
うひぃぃぃ!
今度は強烈な横Gがタケルを襲う。
シャトルは後部のノズルスカートから鮮やかな青い炎を吹き出しながら、ググっと急旋回していく。
ネヴィアは遠くに見えてきた巨大な車輪状のスペースポートを、モニターで拡大表示させた。直径十キロはあろうかという巨大な車輪の中心部には長大な宇宙船が何艘も停泊し、何やらにぎやかに貨物の積み下ろしを行っている。
「よしよし、あいつじゃな……」
ネヴィアはそのうちの、出発準備の整った大型貨物船に照準を合わせた。
ジグラートへの資材を運ぶこの貨物船は、チタン合金で編み上げられた骨組みが支える無数のコンテナで構成され、長さは三キロメートルに及ぶ。先頭にはクジラの頭を思わせる艦橋、最後部にはこの巨体を力強く推進する、直径数百メートルはあろうかという巨大なノズルスカートがあり、その基部には大型タンクがいくつも並んでいる。
タケルはその常識外れのスケールに圧倒され、思わずため息をついた。
「ヨシ! あの辺にすっか! くっくっく……」
ネヴィアは悪い顔をしながらモニターをパシパシと叩き、笑みを浮かべる。
シャトルは一直線に貨物船に近づくと、静かに減速し、大型タンクの間の隙間にそっとその身を潜ませた。そして、ロープを射出してチタン合金の柱に結びつけ、船体を固定する。
「え? このまま海王星へ降りて……行くの?」
タケルはその奇想天外なやり方に困惑した。
「ここなら見つからんじゃろ。大気圏突入後に抜け出せばええわ。カッカッカッ」
「はぁ……。そんなにうまくいくのかなぁ……」
タケルはタンクの隙間から見える長大な白いコンテナの列を眺めながら、ふぅとため息をついた。
◇
「こんなにたくさんの貨物が必要なの?」
少しずつゆっくりと動き出した貨物船に揺られながら、タケルは首を傾げる。この貨物船以外にも、スペースポートには何艘もコンテナ船が停泊しているのだ。
「そりゃ、ジグラートは一万機あるからのう」
リクライニングシートを倒してくつろぐネヴィアは、無重力空間に浮かべたグミたちを一つずつ器用に食べながら答えた。
「い、一万機!?」
「地球は一万個あるってことじゃな。カッカッカ」
目を丸くして驚くタケルを見ながら、ネヴィアは楽しそうに笑う。
「そ、そんなに……、あるのか」
「六十万年かけて少しずつ増やしてきたんじゃな」
「ろ、六十万年!?」
「そんなに驚くことか? 宇宙の歴史百数十億年を考えたらほんの最近のことじゃろ?」
ネヴィアはこともなげに言いながら、またグミにパクっと食いついた。
「誰が……、こんなことやっているの?」
「ん? お主も会ったことあるじゃろ? 女神様じゃ」
「女神……様……?」
タケルは転生する時に、確かにチェストナットブラウンの髪をした美しい女性に会ったような記憶がある。ただ、それは夢の中のようなおぼろげな記憶であり、いまいち確信が持てないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる