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72. 限りなくにぎやかな未来
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「もちろん、私は作られちゃった側だから本当のことは分からないわ。でも、そのストーリーが一番蓋然性が高いのよ」
女神は肩をすくめるとジョッキをグッと傾けた。
「いやいや、妄想一発で異世界に飛べるならみんな飛んでますよ!」
「あら、きっとみんな飛んでるわよ? ただ、それは枝分かれした別の宇宙になっちゃうので私たちには見えないけどね。ふふっ」
「そ、そんな……」
「宇宙の数は無限。些細な妄想一発で新たな宇宙が作られ、その妄想に合わせて過去に遡って辻褄が合わされてそこに飛ばされるのよ。宇宙は妄想に飢えてるんだわ」
タケルはさすがに冗談かと思ったが、女神の琥珀色の瞳はいたって真剣であり、とてもからかっているような雰囲気でもない。
「この世界が僕の妄想でできた僕の世界……。なら僕が最強……ってことですか?」
「はっはっは! そんな訳ないじゃない。最強になりたかったら『僕は最強! 僕は最強!』って妄想しなおしなさい。でも……、そんな世界、楽しいかしら?」
女神はニヤッと笑い、またビールを傾けた。
「いや……。今が最高なんで、妄想はもういらないっす」
タケルはチラッと、楽しそうにネヴィアたちと話しているクレアを見た。
「ならいいじゃない。おめでとう」
女神はジョッキをタケルの前に差し出し、ニコッと優しく笑ってカチンと乾杯をした。
苦しかった社会人生活から紆余曲折を経て今、タケルはついに新たな人生の地平に立っている。深い感慨に浸りながら周りを見回し、目を細めて、タケルは一人一人との絆を胸に刻み、じっくりと噛み締めた。
◇
「今晩はホテルに泊まりな。これ、キーね。明日から地獄の特訓だよっ!」
シアンはカードキーをタケルに渡す。
「あ、ありがとうございます。あの……、クレアの分は?」
タケルは不安げにシアンを見た。
「これは最高級のプレジデンシャルスイート。ベッドもたくさんあるよ? でも……一つでもいいんじゃない? くふふふ……」
シアンは悪い顔をしてタケルの耳元でささやいた。
「な、な、な、何を言うんですか!?」
タケルは真っ赤になって叫ぶ。
「タケルさんどうしたの?」
クレアが碧い瞳をキラキラと輝かせながらタケルを見上げる。
「い、いや、何でも……無いよ!」
挙動不審になってしまうタケル。
「ふぅん。それにしても凄い街ねぇ。あの遠くの方の塔は何なの?」
クレアは煌びやかに輝く、渋谷に林立する超高層ビル群を指さした。
「あ、あれは……」
説明しようとしたタケルだったが、死んだときにはまだ建設中だったからタケルも良く分からない。
「それじゃ見ておいで!」
シアンは指先を黄金色に輝かせると二人に向けてくるっと回す。
へっ……?
いきなりふわっと体が浮き上がったかと思うと、気がつくと全く違う景色になっている。
こ、ここは……。
いきなり開ける景色。それは渋谷の四十六階のビルの屋上、展望台だった。
「うわぁ! すごぉい!」
クレアは駆け出してガラスの柵につかまる。眼下にはまるで宝石箱をひっくり返したかのような、煌めく東京の夜景が息をのむほどの美しさでどこまでも広がっていたのだ。
「これは見事だね……。見渡す限りで四千万人が住んでいるんだ」
タケルはクレアのキラキラと輝く瞳を見つめる。
「よ、四千万人!?」
「とんでもない街だよ」
タケルは不器用にしか生きられず、無様に死んでしまった前世を思い出しながら首を振った。
その時、ビュゥと冷たい風が吹いてクレアの金髪をはためかせる。
「ひゃぁっ!」
「ちょっと……寒いね……」
タケルは後ろから覆いかぶさるようにしてクレアを暖める。
「あ、ありがとう……」
「今回、危険目に遭わせちゃってゴメンね……」
タケルは耳元でささやいた。ふんわりと花々が開いたような柔らかく華やかな香りがふわりと漂ってくる。それはタケルにとっては最も大切で愛おしい香りだった。
しばらく二人は、スクランブル交差点を埋め尽くす多くの人たちの流れを眺めていた。
「命がけで救ってくれたんですって? 聞いたわ……ありがとう」
クレアはタケルの手をそっと取り、心からの温もりを込めて握る。タケルも、その想いに応え、彼女の手を優しく握り返した。二人だけの時間が静かに流れる――――。
「ねぇ……?」
「なに?」
「私が生き返った時……、タケルさんは何しようとしてたの?」
クレアはいたずらっ子の笑みを浮かべ、青い瞳でタケルを見上げた。
「えっ!? あ、あれは……」
「そう言えば、ご褒美まだもらってなかった……かなぁ……」
「ゴ、ゴメン。近いうちに必ず」
「生き返った時の続きでも……い、いいのよ?」
恥ずかしそうに頬を赤く染めたクレアは目をつぶり上を向く。
えっ!?
タケルは予期せぬ展開に心臓が跳ね上がった。長い人生、こんなシチュエーションなど小説や映画の中の話だと断じていたのに、今、目の前に美しい少女が自分を待っている。
タケルはゴクリと唾をのみ、手が震えた。
しかし、女の子にここまでされて逃げるわけにもいかない。
ゆっくりと深呼吸し、気持ちを落ち着け、ニコッと笑ったタケルはそっと可愛いクレアのほほをなで……、そして唇を重ねた。
優しく唇をなめていると、少し開いた唇の間からクレアが舌を絡ませてくる。
タケルは焦ったが、下手なことを考えることをやめ、ただ、心の思うままにクレアの想いに、自分の想いを重ね合わせていく。
思えばクレアがいてくれたから今がある。これからずっと死ぬまでクレアと一緒に人生を紡いでいきたい。タケルは熱い想いを込め、クレアの口を吸った。
こうして美しい東京の夜景の中、二人は初めて想いを伝えあったのだ。
◇
ひとしきり愛を確かめ合うと、二人は見つめ合った。
すると、奥の方で誰かが見ているのに気がついた。何とそこにはシアン達がニヤニヤしながら二人を見ているではないか。
タケルはキッと鋭い視線でにらむ。
「いいのよ、見せつけてあげましょ?」
クレアはタケルの頬を両手で包むと、トロンとした目で今度は自分から唇を重ねていった。
んむっ!
あまりに積極的なクレアに圧倒されつつも、また目をつぶり、クレアの愛を感じていくタケル。
「あーあ……」「ありゃりゃ……」
シアン達はラブラブな二人に当てられ、肩をすくめながら次々と消えていった。
こうしてこの日、二人は結ばれ、一生一緒に歩んでいくことを誓い合う。
納得いく自分らしい人生をつかみ取ったタケルの、新たな快進撃はここから始まった。
宇宙最強の大天使の弟子と、その新妻の驚くべき活躍が全宇宙で話題になるのはこれからしばらくのことだった。
そのお話はまたの機会に……。
了
女神は肩をすくめるとジョッキをグッと傾けた。
「いやいや、妄想一発で異世界に飛べるならみんな飛んでますよ!」
「あら、きっとみんな飛んでるわよ? ただ、それは枝分かれした別の宇宙になっちゃうので私たちには見えないけどね。ふふっ」
「そ、そんな……」
「宇宙の数は無限。些細な妄想一発で新たな宇宙が作られ、その妄想に合わせて過去に遡って辻褄が合わされてそこに飛ばされるのよ。宇宙は妄想に飢えてるんだわ」
タケルはさすがに冗談かと思ったが、女神の琥珀色の瞳はいたって真剣であり、とてもからかっているような雰囲気でもない。
「この世界が僕の妄想でできた僕の世界……。なら僕が最強……ってことですか?」
「はっはっは! そんな訳ないじゃない。最強になりたかったら『僕は最強! 僕は最強!』って妄想しなおしなさい。でも……、そんな世界、楽しいかしら?」
女神はニヤッと笑い、またビールを傾けた。
「いや……。今が最高なんで、妄想はもういらないっす」
タケルはチラッと、楽しそうにネヴィアたちと話しているクレアを見た。
「ならいいじゃない。おめでとう」
女神はジョッキをタケルの前に差し出し、ニコッと優しく笑ってカチンと乾杯をした。
苦しかった社会人生活から紆余曲折を経て今、タケルはついに新たな人生の地平に立っている。深い感慨に浸りながら周りを見回し、目を細めて、タケルは一人一人との絆を胸に刻み、じっくりと噛み締めた。
◇
「今晩はホテルに泊まりな。これ、キーね。明日から地獄の特訓だよっ!」
シアンはカードキーをタケルに渡す。
「あ、ありがとうございます。あの……、クレアの分は?」
タケルは不安げにシアンを見た。
「これは最高級のプレジデンシャルスイート。ベッドもたくさんあるよ? でも……一つでもいいんじゃない? くふふふ……」
シアンは悪い顔をしてタケルの耳元でささやいた。
「な、な、な、何を言うんですか!?」
タケルは真っ赤になって叫ぶ。
「タケルさんどうしたの?」
クレアが碧い瞳をキラキラと輝かせながらタケルを見上げる。
「い、いや、何でも……無いよ!」
挙動不審になってしまうタケル。
「ふぅん。それにしても凄い街ねぇ。あの遠くの方の塔は何なの?」
クレアは煌びやかに輝く、渋谷に林立する超高層ビル群を指さした。
「あ、あれは……」
説明しようとしたタケルだったが、死んだときにはまだ建設中だったからタケルも良く分からない。
「それじゃ見ておいで!」
シアンは指先を黄金色に輝かせると二人に向けてくるっと回す。
へっ……?
いきなりふわっと体が浮き上がったかと思うと、気がつくと全く違う景色になっている。
こ、ここは……。
いきなり開ける景色。それは渋谷の四十六階のビルの屋上、展望台だった。
「うわぁ! すごぉい!」
クレアは駆け出してガラスの柵につかまる。眼下にはまるで宝石箱をひっくり返したかのような、煌めく東京の夜景が息をのむほどの美しさでどこまでも広がっていたのだ。
「これは見事だね……。見渡す限りで四千万人が住んでいるんだ」
タケルはクレアのキラキラと輝く瞳を見つめる。
「よ、四千万人!?」
「とんでもない街だよ」
タケルは不器用にしか生きられず、無様に死んでしまった前世を思い出しながら首を振った。
その時、ビュゥと冷たい風が吹いてクレアの金髪をはためかせる。
「ひゃぁっ!」
「ちょっと……寒いね……」
タケルは後ろから覆いかぶさるようにしてクレアを暖める。
「あ、ありがとう……」
「今回、危険目に遭わせちゃってゴメンね……」
タケルは耳元でささやいた。ふんわりと花々が開いたような柔らかく華やかな香りがふわりと漂ってくる。それはタケルにとっては最も大切で愛おしい香りだった。
しばらく二人は、スクランブル交差点を埋め尽くす多くの人たちの流れを眺めていた。
「命がけで救ってくれたんですって? 聞いたわ……ありがとう」
クレアはタケルの手をそっと取り、心からの温もりを込めて握る。タケルも、その想いに応え、彼女の手を優しく握り返した。二人だけの時間が静かに流れる――――。
「ねぇ……?」
「なに?」
「私が生き返った時……、タケルさんは何しようとしてたの?」
クレアはいたずらっ子の笑みを浮かべ、青い瞳でタケルを見上げた。
「えっ!? あ、あれは……」
「そう言えば、ご褒美まだもらってなかった……かなぁ……」
「ゴ、ゴメン。近いうちに必ず」
「生き返った時の続きでも……い、いいのよ?」
恥ずかしそうに頬を赤く染めたクレアは目をつぶり上を向く。
えっ!?
タケルは予期せぬ展開に心臓が跳ね上がった。長い人生、こんなシチュエーションなど小説や映画の中の話だと断じていたのに、今、目の前に美しい少女が自分を待っている。
タケルはゴクリと唾をのみ、手が震えた。
しかし、女の子にここまでされて逃げるわけにもいかない。
ゆっくりと深呼吸し、気持ちを落ち着け、ニコッと笑ったタケルはそっと可愛いクレアのほほをなで……、そして唇を重ねた。
優しく唇をなめていると、少し開いた唇の間からクレアが舌を絡ませてくる。
タケルは焦ったが、下手なことを考えることをやめ、ただ、心の思うままにクレアの想いに、自分の想いを重ね合わせていく。
思えばクレアがいてくれたから今がある。これからずっと死ぬまでクレアと一緒に人生を紡いでいきたい。タケルは熱い想いを込め、クレアの口を吸った。
こうして美しい東京の夜景の中、二人は初めて想いを伝えあったのだ。
◇
ひとしきり愛を確かめ合うと、二人は見つめ合った。
すると、奥の方で誰かが見ているのに気がついた。何とそこにはシアン達がニヤニヤしながら二人を見ているではないか。
タケルはキッと鋭い視線でにらむ。
「いいのよ、見せつけてあげましょ?」
クレアはタケルの頬を両手で包むと、トロンとした目で今度は自分から唇を重ねていった。
んむっ!
あまりに積極的なクレアに圧倒されつつも、また目をつぶり、クレアの愛を感じていくタケル。
「あーあ……」「ありゃりゃ……」
シアン達はラブラブな二人に当てられ、肩をすくめながら次々と消えていった。
こうしてこの日、二人は結ばれ、一生一緒に歩んでいくことを誓い合う。
納得いく自分らしい人生をつかみ取ったタケルの、新たな快進撃はここから始まった。
宇宙最強の大天使の弟子と、その新妻の驚くべき活躍が全宇宙で話題になるのはこれからしばらくのことだった。
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