28 / 71
2-12. 疑惑の天然知能
しおりを挟む
そんな困惑しているヴィクトルを見て、レヴィアが言った。
「素粒子があり、それは一つの数式で挙動が決まる。これ、何だかわかるか?」
いきなりの禅問答みたいな質問にヴィクトルは悩む。
「何と言われても……、何でしょう? 一つの仕掛けみたいですが……」
「おぉ、ま、そういうことじゃ。『素子』じゃな。情報処理回路の基本要素じゃ」
「情報処理回路?」
「コンピューターじゃ、それじゃよ」
そう言ってレヴィアは、ヴィクトルの手元に置いてあったiPhoneを指した。
「へっ!? 宇宙がiPhoneってことですか!?」
全く想像もしてなかったものが結びつき、ヴィクトルはビックリする。
「そうじゃ、宇宙は超巨大な量子コンピューターともいえるのじゃ。もちろん、この宇宙のコンピューターは宇宙を運営するだけの機能しか持ってない。だから放っておくと単に太陽が生まれ、惑星が生まれ、宇宙の営みが実行されるだけじゃ。アプリが一つだけのシンプルなコンピューターじゃな」
「はぁ……」
ヴィクトルは話があまりに壮大過ぎて困惑する。
「iPhoneにはいろんなアプリがあるじゃろ?」
「はい、さっきゲームをやりました。女の子を操作して猿を倒したり……」
「あ、あのゲーム面白いよのう」
そう言ってレヴィアはまた樽を傾けた。
「で、宇宙とゲームに何の関係が?」
「お主、鈍いのう」
レヴィアはゲフッとしながら、樽を置き、ニヤッと笑ってヴィクトルを見た。
ヴィクトルは下を向き、必死に考える。
宇宙は巨大なコンピューター、それはiPhoneみたいなもので、iPhoneにはゲームアプリがある。女の子が壮大な世界を冒険して魔物を狩る世界……。
その瞬間、ゾワッとすべての毛が逆立つような感覚がヴィクトルを襲った。
「ま、まさか……」
「ふふん、ようやく気づいたか、大賢者」
レヴィアはうれしそうにそう言うとまた樽を傾け、グッと持ち上げて一気に最後まで空けると、
「プハ――――! おかみさーん! おかわり!」
と、店に向かって叫んだ。
「いやいやいや! ここはゲームの世界なんかじゃないですよ!」
ヴィクトルはバッと顔を上げ、レヴィアに向かって叫んだ。
レヴィアが示唆したアナロジー、それはこのヴィクトルの住んでいる世界は、宇宙という壮大なコンピューターの中の一アプリに過ぎないというものだった。しかし、そんなことがあるわけがない。ヴィクトルは百年以上この世界に住んできていて、その間、作り物だったような不自然な現象など一つもなかったのだ。大自然は人の想いとは関係なく壮大な規模で営まれ、人が気がつかなかったような世界はまだまだ森の奥に、極地に、深海に広がっていた。誰かが作ったような世界ならどこかで矛盾が出てるはずだ。
と、ここまで考えてきてふとヴィーナ様を思い出した。そうだ……、自分は一回死んでいるのだ……。実は自分の存在そのものが……矛盾だった。
固まり、そしてうなだれるヴィクトルにレヴィアが言う。
「今から五十六億七千万年前のことじゃ、宇宙が誕生してからすでに八十一億年経っていたが、ある星でコンピューターが発明された。コンピューターは便利じゃった。あっという間に性能がぐんぐんと上がり、人工知能が開発された」
「人工知能……?」
「機械でできた知能じゃな。iPhoneが賢くなって話し始めるようなものじゃ」
「はい、おまたせー」
おかみさんが新しい樽を持ってきて、レヴィアはまた上蓋をパカンと割った。
ヴィクトルは、美味しそうにエールを飲むレヴィアを羨ましそうに見ながら、聞いた。
「機械が話すなんてこと……、本当にあるんですか?」
「お主は『自分は機械じゃない』ってなぜ確信を持ってるんじゃ?」
レヴィアは手を止めるとヴィクトルをチラッと見て、嫌なことを言う。そして、また樽を傾けた。
「えっ……?」
ヴィクトルは言葉を失った。自分は生まれながらの天然の知能と当たり前のように思っていたが、それに根拠なんてあるのだろうか? 『自分は機械で作られたものじゃない』となぜ言えるのだろうか? 脳があるから天然だろうと一瞬思ったが、『脳は単なる伝達器官だよ』と言われたら反論できない。そもそも脳が自分自身の思考を生み出していることそのものにも自信がなかった。
なんとか『自分は機械なんかじゃない証拠』を探してみるが、思い浮かばない。むしろ、転生して前世の記憶が引き継がれていることを考えたら……むしろ天然である方が不自然だった。
ヴィクトルは百年以上生きてきて初めて自分自身の存在に疑問を持ち、自我が揺らぐのを感じた。手を見るとガタガタと震えている……。
「僕は……何なんだ……?」
そう言って、震える手を無表情にただ眺めていた。
ヴィクトルはふぅっと大きく息をつくと、ルコアの樽を奪って持ち上げ、グッと一気に呷る。
「あー、主さま! それ、私のですー」
ルコアは不満げだったが、ヴィクトルは無反応で、焦点のあわない目で動かなくなった……。
「素粒子があり、それは一つの数式で挙動が決まる。これ、何だかわかるか?」
いきなりの禅問答みたいな質問にヴィクトルは悩む。
「何と言われても……、何でしょう? 一つの仕掛けみたいですが……」
「おぉ、ま、そういうことじゃ。『素子』じゃな。情報処理回路の基本要素じゃ」
「情報処理回路?」
「コンピューターじゃ、それじゃよ」
そう言ってレヴィアは、ヴィクトルの手元に置いてあったiPhoneを指した。
「へっ!? 宇宙がiPhoneってことですか!?」
全く想像もしてなかったものが結びつき、ヴィクトルはビックリする。
「そうじゃ、宇宙は超巨大な量子コンピューターともいえるのじゃ。もちろん、この宇宙のコンピューターは宇宙を運営するだけの機能しか持ってない。だから放っておくと単に太陽が生まれ、惑星が生まれ、宇宙の営みが実行されるだけじゃ。アプリが一つだけのシンプルなコンピューターじゃな」
「はぁ……」
ヴィクトルは話があまりに壮大過ぎて困惑する。
「iPhoneにはいろんなアプリがあるじゃろ?」
「はい、さっきゲームをやりました。女の子を操作して猿を倒したり……」
「あ、あのゲーム面白いよのう」
そう言ってレヴィアはまた樽を傾けた。
「で、宇宙とゲームに何の関係が?」
「お主、鈍いのう」
レヴィアはゲフッとしながら、樽を置き、ニヤッと笑ってヴィクトルを見た。
ヴィクトルは下を向き、必死に考える。
宇宙は巨大なコンピューター、それはiPhoneみたいなもので、iPhoneにはゲームアプリがある。女の子が壮大な世界を冒険して魔物を狩る世界……。
その瞬間、ゾワッとすべての毛が逆立つような感覚がヴィクトルを襲った。
「ま、まさか……」
「ふふん、ようやく気づいたか、大賢者」
レヴィアはうれしそうにそう言うとまた樽を傾け、グッと持ち上げて一気に最後まで空けると、
「プハ――――! おかみさーん! おかわり!」
と、店に向かって叫んだ。
「いやいやいや! ここはゲームの世界なんかじゃないですよ!」
ヴィクトルはバッと顔を上げ、レヴィアに向かって叫んだ。
レヴィアが示唆したアナロジー、それはこのヴィクトルの住んでいる世界は、宇宙という壮大なコンピューターの中の一アプリに過ぎないというものだった。しかし、そんなことがあるわけがない。ヴィクトルは百年以上この世界に住んできていて、その間、作り物だったような不自然な現象など一つもなかったのだ。大自然は人の想いとは関係なく壮大な規模で営まれ、人が気がつかなかったような世界はまだまだ森の奥に、極地に、深海に広がっていた。誰かが作ったような世界ならどこかで矛盾が出てるはずだ。
と、ここまで考えてきてふとヴィーナ様を思い出した。そうだ……、自分は一回死んでいるのだ……。実は自分の存在そのものが……矛盾だった。
固まり、そしてうなだれるヴィクトルにレヴィアが言う。
「今から五十六億七千万年前のことじゃ、宇宙が誕生してからすでに八十一億年経っていたが、ある星でコンピューターが発明された。コンピューターは便利じゃった。あっという間に性能がぐんぐんと上がり、人工知能が開発された」
「人工知能……?」
「機械でできた知能じゃな。iPhoneが賢くなって話し始めるようなものじゃ」
「はい、おまたせー」
おかみさんが新しい樽を持ってきて、レヴィアはまた上蓋をパカンと割った。
ヴィクトルは、美味しそうにエールを飲むレヴィアを羨ましそうに見ながら、聞いた。
「機械が話すなんてこと……、本当にあるんですか?」
「お主は『自分は機械じゃない』ってなぜ確信を持ってるんじゃ?」
レヴィアは手を止めるとヴィクトルをチラッと見て、嫌なことを言う。そして、また樽を傾けた。
「えっ……?」
ヴィクトルは言葉を失った。自分は生まれながらの天然の知能と当たり前のように思っていたが、それに根拠なんてあるのだろうか? 『自分は機械で作られたものじゃない』となぜ言えるのだろうか? 脳があるから天然だろうと一瞬思ったが、『脳は単なる伝達器官だよ』と言われたら反論できない。そもそも脳が自分自身の思考を生み出していることそのものにも自信がなかった。
なんとか『自分は機械なんかじゃない証拠』を探してみるが、思い浮かばない。むしろ、転生して前世の記憶が引き継がれていることを考えたら……むしろ天然である方が不自然だった。
ヴィクトルは百年以上生きてきて初めて自分自身の存在に疑問を持ち、自我が揺らぐのを感じた。手を見るとガタガタと震えている……。
「僕は……何なんだ……?」
そう言って、震える手を無表情にただ眺めていた。
ヴィクトルはふぅっと大きく息をつくと、ルコアの樽を奪って持ち上げ、グッと一気に呷る。
「あー、主さま! それ、私のですー」
ルコアは不満げだったが、ヴィクトルは無反応で、焦点のあわない目で動かなくなった……。
34
あなたにおすすめの小説
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる