69 / 71
4-21. トラとウサギ
それから数カ月――――。
「ルーちゃん、そろそろお昼にしようか?」
暗黒の森深く、壮麗な火山のふもとに開拓した牧場で、ヴィクトルが牧草を刈る手を休め、額の汗をぬぐいながらルコアに声をかけた。
「そうね、お昼にしましょ、あ・な・た!」
うれしそうに笑うルコア。
二人は木陰に作った丸太のベンチに座り、手作りサンドウィッチを頬張る。
「僕の思ってたスローライフって畑だったんだよね~」
ヴィクトルはそう言って、牛が点々と草をはむ、広大な牧場を見渡しながらコーヒーをすすった。
「ごめんなさいね。私、肉しか食べないので……」
ルコアは申し訳なさそうに言う。
「いやいや、僕はルーちゃんと一緒に居られるだけで幸せだからいいんだよ」
ヴィクトルはそっとルコアの頬にキスをした。
「ありがとっ、私も幸せよ」
ルコアはお返しにヴィクトルの口を吸った。
その時だった、ヴィクトルの索敵魔法に何かが反応する。
「ちょ、ちょっと待って!」
ヴィクトルはルコアから離れ、ピョンと飛び上がると、侵入者の方へすっ飛んで行った。
魔物除けの結界を突破してきているのだから人間だろう。こんな暗黒の森の奥深くまでやってくるとは尋常じゃない。一体だれが何の目的で……。ヴィクトルは訝しく思いながら速度を上げる。
どうやら五人の男たちが暗黒の森の中を進み、牧場を目指しているようだ。
ヴィクトルは彼らが森を抜けるあたりに着地し、腕を組んで彼らが出てくるのを待ってみる。
「やっと森を抜けました……」
「おぉ、到着じゃな」
男たちが話をしながら出てくる。
ヴィクトルはその顔を見て驚いた。なんと、国王に騎士団長、それに班長たちだった。
「国王陛下!? ど、どうなされたんですか?」
国王はヴィクトルを見つけると帽子を取り、驚いて言った。
「おぉ、アマンドゥスよ、いきなり訪ねてすまん。ちょっと話できるか?」
「も、もちろんです。おっしゃっていただければ私の方から出向きましたのに……」
「いいんじゃ、お主がどういう暮らしを選んだのか見ておきたかったんじゃ」
ヴィクトルは丸太のコテージへと案内した。
◇
「のどかでいい所じゃな」
国王は挽きたての香り高いコーヒーをすすりながら言った。
「神の使途としての仕事をしながら、牧場もやっているんです」
「おぉ、そうかそうか、ご活躍じゃな……。それで……。お主が言っておった『変わらないと神に滅ぼされる』って話じゃが、余はどうしたらいい?」
国王はまっすぐな目でヴィクトルを見た。
ヴィクトルは悩んだ。助言はご法度だ。それに国王といえどもできることには限界がある。周りの王侯貴族の同意が得られないことはできないからだ。
「規則により、私は助言できません。申し訳ありません」
頭を下げるヴィクトル。
「ふむ……。そうか……」
残念そうな国王。
ヴィクトルはしばらく思案して、口を開いた。
「陛下……。トラとウサギはどちらが強いと思いますか?」
「えっ? それはトラじゃろう」
国王はすっかり白くなった眉をひそめながら答える。
「そうです。対戦させたら必ずトラが勝ちます。でも、トラはわが国では絶滅し、ウサギはたくさん繁殖し、どこにでもいます」
「むむ……。実はウサギの方が強い……という事か?」
「ウサギは住む場所を変え、エサを変え、どんどん環境に合わせて生き方を変えていったんです。トラはトラのままでした」
「変わらねば……滅びるってことじゃな……」
国王は腕を組んで黙り込んでしまった。
ヴィクトルはコーヒーを一口飲み、少し考えると言った。
「一つアドバイスすることがあるとしたら、若者がやりたいことに専念できる環境があるか? これが目安になるかと」
「若者?」
国王は顔を上げ怪訝そうな表情で言った。
「そうです。国の未来を作っていくのは若者です。彼らが思う存分斬新な事をできるのならそこに変革が起こり、きっと神様も満足されるでしょう」
「なるほど……、若者か……」
国王はそう言ってしばし、思索にふけった。
◇
その後、外で控えていた騎士団長たちを交えて簡単なパーティを開く。
ルコアが急いで東京で買ってきた、芸術的な造形のチョコが乗ったケーキをふるまった。
「なんじゃこりゃぁ!」
その斬新な見た目と繊細な味に驚く国王。
「神様のおわす国の若者が作ったケーキです。若者が夢を持ち、研鑽するというのはこういうことなんです」
「なるほど、神様が求められていることが少し分かった気がするぞ」
国王はパクパクと食べながらうなずいた。
騎士団長は質素なコテージを見回しながら言う。
「『神の使徒』であれば宮殿や神殿に住んでいると思ってました」
「僕は素朴に、静かにのんびりと暮らしたいんですよ」
ヴィクトルはニヤッと笑う。
「あー、余もこういう暮らしには憧れるぞ」
「そ、そうなんですか!?」
騎士団長は驚く。
「田舎で休暇を取りたい時はおっしゃってください。別荘をご用意してお迎えに上がります」
ヴィクトルはニコッと笑って国王に言う。
「おぉ、それは嬉しいぞ。楽しみじゃ」
国王はうれしそうに微笑み、ヴィクトルはゆっくりとうなずいた。
「ルーちゃん、そろそろお昼にしようか?」
暗黒の森深く、壮麗な火山のふもとに開拓した牧場で、ヴィクトルが牧草を刈る手を休め、額の汗をぬぐいながらルコアに声をかけた。
「そうね、お昼にしましょ、あ・な・た!」
うれしそうに笑うルコア。
二人は木陰に作った丸太のベンチに座り、手作りサンドウィッチを頬張る。
「僕の思ってたスローライフって畑だったんだよね~」
ヴィクトルはそう言って、牛が点々と草をはむ、広大な牧場を見渡しながらコーヒーをすすった。
「ごめんなさいね。私、肉しか食べないので……」
ルコアは申し訳なさそうに言う。
「いやいや、僕はルーちゃんと一緒に居られるだけで幸せだからいいんだよ」
ヴィクトルはそっとルコアの頬にキスをした。
「ありがとっ、私も幸せよ」
ルコアはお返しにヴィクトルの口を吸った。
その時だった、ヴィクトルの索敵魔法に何かが反応する。
「ちょ、ちょっと待って!」
ヴィクトルはルコアから離れ、ピョンと飛び上がると、侵入者の方へすっ飛んで行った。
魔物除けの結界を突破してきているのだから人間だろう。こんな暗黒の森の奥深くまでやってくるとは尋常じゃない。一体だれが何の目的で……。ヴィクトルは訝しく思いながら速度を上げる。
どうやら五人の男たちが暗黒の森の中を進み、牧場を目指しているようだ。
ヴィクトルは彼らが森を抜けるあたりに着地し、腕を組んで彼らが出てくるのを待ってみる。
「やっと森を抜けました……」
「おぉ、到着じゃな」
男たちが話をしながら出てくる。
ヴィクトルはその顔を見て驚いた。なんと、国王に騎士団長、それに班長たちだった。
「国王陛下!? ど、どうなされたんですか?」
国王はヴィクトルを見つけると帽子を取り、驚いて言った。
「おぉ、アマンドゥスよ、いきなり訪ねてすまん。ちょっと話できるか?」
「も、もちろんです。おっしゃっていただければ私の方から出向きましたのに……」
「いいんじゃ、お主がどういう暮らしを選んだのか見ておきたかったんじゃ」
ヴィクトルは丸太のコテージへと案内した。
◇
「のどかでいい所じゃな」
国王は挽きたての香り高いコーヒーをすすりながら言った。
「神の使途としての仕事をしながら、牧場もやっているんです」
「おぉ、そうかそうか、ご活躍じゃな……。それで……。お主が言っておった『変わらないと神に滅ぼされる』って話じゃが、余はどうしたらいい?」
国王はまっすぐな目でヴィクトルを見た。
ヴィクトルは悩んだ。助言はご法度だ。それに国王といえどもできることには限界がある。周りの王侯貴族の同意が得られないことはできないからだ。
「規則により、私は助言できません。申し訳ありません」
頭を下げるヴィクトル。
「ふむ……。そうか……」
残念そうな国王。
ヴィクトルはしばらく思案して、口を開いた。
「陛下……。トラとウサギはどちらが強いと思いますか?」
「えっ? それはトラじゃろう」
国王はすっかり白くなった眉をひそめながら答える。
「そうです。対戦させたら必ずトラが勝ちます。でも、トラはわが国では絶滅し、ウサギはたくさん繁殖し、どこにでもいます」
「むむ……。実はウサギの方が強い……という事か?」
「ウサギは住む場所を変え、エサを変え、どんどん環境に合わせて生き方を変えていったんです。トラはトラのままでした」
「変わらねば……滅びるってことじゃな……」
国王は腕を組んで黙り込んでしまった。
ヴィクトルはコーヒーを一口飲み、少し考えると言った。
「一つアドバイスすることがあるとしたら、若者がやりたいことに専念できる環境があるか? これが目安になるかと」
「若者?」
国王は顔を上げ怪訝そうな表情で言った。
「そうです。国の未来を作っていくのは若者です。彼らが思う存分斬新な事をできるのならそこに変革が起こり、きっと神様も満足されるでしょう」
「なるほど……、若者か……」
国王はそう言ってしばし、思索にふけった。
◇
その後、外で控えていた騎士団長たちを交えて簡単なパーティを開く。
ルコアが急いで東京で買ってきた、芸術的な造形のチョコが乗ったケーキをふるまった。
「なんじゃこりゃぁ!」
その斬新な見た目と繊細な味に驚く国王。
「神様のおわす国の若者が作ったケーキです。若者が夢を持ち、研鑽するというのはこういうことなんです」
「なるほど、神様が求められていることが少し分かった気がするぞ」
国王はパクパクと食べながらうなずいた。
騎士団長は質素なコテージを見回しながら言う。
「『神の使徒』であれば宮殿や神殿に住んでいると思ってました」
「僕は素朴に、静かにのんびりと暮らしたいんですよ」
ヴィクトルはニヤッと笑う。
「あー、余もこういう暮らしには憧れるぞ」
「そ、そうなんですか!?」
騎士団長は驚く。
「田舎で休暇を取りたい時はおっしゃってください。別荘をご用意してお迎えに上がります」
ヴィクトルはニコッと笑って国王に言う。
「おぉ、それは嬉しいぞ。楽しみじゃ」
国王はうれしそうに微笑み、ヴィクトルはゆっくりとうなずいた。
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?