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第71話 自己紹介 辻井麗
しおりを挟むあれから笑いのおさまったカオリンが、日本語の使われ方や変化の仕方については資料不足が過ぎるからわからないわと言っていた。
そりゃそうだ。与えられた情報量では少な過ぎる。
だが結局、ここから出られなければ、今まで与えられた情報の真偽の確かめようもなく、新たな情報も異世界人から与えられる物のみになってしまう。
「情報操作の後の洗脳が狙い?だから手を出してこないのか?だったら私達の使い道は?」
「しーちゃんもそう思う?」
私がブツブツ言っていたらあっくんがそう言ってきた。
そうか、軍にいると捕虜になることもある。大抵は拷問とかされるんだろうけど、拷問じゃなく洗脳されてスパイみたいにされるという線もあるのかな?
「あっくん、人間てこの隔離された中でプライバシーも何もなく、食事はあり暇を潰せる本がある、こんな状況で正気を保っていられるのってどれくらいだと思う?」
「なんとも言えないな。人によっては何をしていても何も言われず食事は出される。ラッキーと思う奴もいるだろう。」
「私は無理。ここにいても絶対地球には帰れない。早くここを出て帰る方法を探したいのにこのままじゃ利用されるだけされて殺される未来しか見えない。」
するとあっくんに手を引かれ立たされた。
「みんな、ちょっとだけ待ってて。」
と言い私をそのまま部屋の隅に引っ張って行く。
「しーちゃん、ちょっと落ち着いて。
小声でね。
期限を決めない?」
「期限?」
「そう、期限だ。
あと1ヶ月、ここで過ごそう。その間にやれることをやろう。その時に繭を壊してもいい。それは俺がやる。此処から出られなければ話にならない。制御の訓練ももっとやろう。この白い箱が壊せるかどうかはわからないけど、ここに来る異世界人を捉えて拷問できるくらいまでは力はつけられるかもしれない。
これは危険な賭けだ。でも期限を付けて動き出さなければずっと、どうしようと言っているだけで終わってしまう。やらずに諦めるよりはやって何とかする道を探そう。」
「…わかった。でも繭を壊すなら私がやる。期間は何で1ヶ月?」
「繭を壊すなら俺がやる。
それは譲らない。
絶対にしーちゃんにはやらせない。
しーちゃんがやるならこの話は俺は降りる。
期間は別に意味はないよ。1週間でも3か月でも1年でもいいんだ。1ヶ月は長過ぎる?」
「ううん、全部、あっくんの言う通りでいい。
ありがとう。
あとからカオリンとも話そう。」
「香織さんの意見も聞きたいしね。」
「お待たせ。ごめんね取り乱しちゃったからちょっと落ち着いてきた。」
「もう!私の番の前にゴタつくのやめてよ!」
「ごめんねぇ。じゃあ麗さんどうぞ。」
「辻井麗。17歳。女子高生。」
うん。そうだよね。その歳なら当然高校生だよね。
何が出来るとかないよね!
「麗ちゃんは何が好きだったの?」
「勉強は嫌いだった。」
「私も学校の勉強は苦手だったわぁ。特に数学は平均点を取るのに苦労したもの。」
カオリンに苦手なものが!?
「意外。カオリンは何でも卒なくこなすイメージだった。」
「紫愛ちゃんは私に幻想を抱き過ぎなのよ。」
「私は逆。数学しかできなかった。国語はさっぱり。古文とか最悪。」
「あら、簡単なのに。どこら辺が苦手だったの?」
「例文を読んで主人公の今の気持ちを述べよとか。わかるわけないでしょそんなの。それがわかるのは作者だけ。作者に聞け。
漢字は覚えるだけだったからまだできた。」
「そうね、それは一理あるわ。作者にしか本当の気持ちなんてわからないものね。」
「でしょ!?それなのに問題にする意味がわかんない。」
「人の気持ちを考えたり想像力をつける意味合いもあるから、意味がなくはないんだけどね。じゃあ本を読んだりすることも好きじゃなかったの?」
「好きでも嫌いでもないかな、それを読んで感想を言えとか主人公の気持ちを考えろとか言われなければだけど。」
「じゃあ数学はどこが好きだったの?」
「単純に数字が好き。答えが明確にあるのも。フラッシュ暗算も小さい頃に出来るようになった。数字見てるだけで良かったから楽しかったし。
あとはPC。」
やっぱり麗といえばPCだよね!ずっと欲しがってるし!
「麗はPCでなにしてたの?
呟いたりとかネットサーフィン?」
「はぁぁぁ?」
え、なんでそんなバカを見る様な目で私を見るの?
「そんなのやらないわよ。私がやってたのはプログラミング。」
うっそ!思ってたのと全然違う!本格的過ぎてわけわからん。
「プログラミングできるの?」
おっと!ここで金谷さんが自ら喋った!
そういえば金谷さんプログラミングだけできないって言ってたなぁ。
「できる。逆に何で金谷さんはできないの?機械動かしたいならできなきゃ話にならないでしょ?」
「俺もできなくはない。でも人に頼んだ方が早くて正確でより良い物ができてくるからやらなくなった。」
「あーそーゆーこと?やれるところは自分でやって時間がかかる他の物は外注に頼むのは当たり前よね。」
「うん。材料手に入れたらプログラム組んでくれる?」
「じゃあPCも作ってよ。PC作ってくれなきゃ私は何もできないわよ。」
「麗さんの為に作ります。」
「ちょっと!さんとかやめてよ!33でしょ?私の倍は生きてんじゃない!」
「じゃあ麗ちゃん?」
「呼び捨てでいいわよ。金谷さんは?」
「じゃあ麗で。俺も金谷でいい。」
「違うわよ!金谷って呼びにくいのよ!
自己紹介で言ってなかったけど下の名前は?まさか変な名前なの?それか自分の名前が嫌いだから名乗らなかったわけ?」
「名前を名乗る必要性を感じなかったから言わなかっただけ。下の名前は豪。」
「なんだ、じゃあ下の名前で呼んでも問題ないのね?」
「拘りは無い。」
「じゃあ、豪って呼ぶわ。」
「わかった。」
ねぇ、金谷さんと麗めっちゃ会話弾んでるんですけど!
然りげ無く下の名前も明らかにされたし。
会話できるんじゃん!
さっきの自己紹介でそれを発揮してよ!
金谷さんに聞きたいことあったら麗に頼もうと心に刻んだ。
その間にも二進数がどうのと話している。
私にはもう理解はできない。
カオリンがコソッと
「あの二人、なんだか気が合いそうね。」
と呟いてくる。
「同感。金谷さんがあんなに話せる人だと思ってなかった。何も考えずガンガン突っ込まれた方がいいのかも。」
「金谷さんは裏がある感じでも無さそうよねぇ。」
それはやはりシューさんと比べての言葉だろう。
「自分のことを理解してもらおうって気持ちがない感じだよな。しーちゃんをもっと突き詰めていくとあぁいうふうになってくんじゃないかと思うよ。」
「私あんな感じなの!?」
「しーちゃんて、他人は他人。自分は自分。って割り切ってる所あるでしょ?
でもそこまで頑ななわけでもない。自分が気に入ったり合いそうな人にはちゃんと話してくれるしね。
でも金谷さんはその雰囲気は一切感じない。今麗と話してるのもプログラミングできる人が必要なだけだからだと思う。」
「その雰囲気はあるわね。でも、利用してやろうってギラギラした物があるわけではないからとりあえずは様子見といったところかしら?」
「二人の分析力が怖い!能力過多だよ!」
「あら、紫愛ちゃんの方が凄いと思うけど。」
「何処が!?二人に勝るところなんて格闘に関してだけだと思うけど。」
「自分のこと分かってないねしーちゃんは。
さっきの優汰との話だって、あれはしーちゃんだからできたことだよ。」
「それは私が原因だからってだけでしょ?」
「全然違うよ。
事実を単純に事実として話すことは簡単なようでなかなか難しいんだ。みんな自分の私見が少なからず混じる。しーちゃんは事実を言った上で私見を述べるんだよ。
それから、相手を叱咤して鼓舞する。
そしてしーちゃんの1番凄いところは、その言葉の重みだね。俺達が話しても受け入れられないような話が、しーちゃんが話すとすんなり相手に受け入れられる。」
「そうよ。私には一生かかってもできないわ。」
「私は麗の誤解されやすい言い方を訂正したかっただけで叱咤も鼓舞もしたつもりないけど…」
「おっと、しーちゃんの1番凄いところは無自覚でやってるところだったね。」
「その通りね。フフッ。」
私の知らないところで私の評価が鰻登りだ。
心の底からやめてほしい
私は本当に大した人間ではない
命より大切な子供二人守りきれていないんだから
応援ありがとうございます!
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