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第103話 sideラルフ①
しおりを挟む私は運命に出会った。
異世界から連れ去られてきた、紫愛という少女だった。
1番最初に見たのは皇帝陛下が異世界人への説明を行う際の護衛の任務を受けた時だった。
異世界から人を連れてくることは、上位貴族のみ知っている事実。
私の家でギリギリ知っている。下位貴族には絶対に知らされることはない。犠牲にするのだから当然だ。
第一騎士団員達は皆知っている事実だ。
第一騎士団員ともなると、第二騎士団以下とは一線を画す力を保有している。
そこまでの力を持つ者に下位貴族はあり得ない。
私はその第一騎士団の副団長だ。
副団長とは団長の尻拭いをさせられる役だと思っている。1番損な役回りだ。事実、私の仕事といえば後先も人の気持ちも考えず突っ走る団長の尻拭いに人へのフォロー。
団長は何を言っても暖簾に腕押し状態。
私の話を聞いているようで、いざその場になれば全てが頭から吹っ飛んで自分の感情で動いてしまう。
仕事は増える一方だった。
貴族の女子はその最たる者達だ。権力に、魔力量に、因子の強さに擦り寄り、自分が如何に良い立場に侍られるか、権力を手に入れられるか。それしか頭にない。
まるで絡みついて離さない蛇のようだ。そして何より最悪なのは、その強かさ。払っても払ってもその数は減らない。副団長になればその数は更に増えた。マークグラフ子息と副団長という立場故、無碍に扱うこともできない。
絡みつく蛇どもに常に自分優先の団長。
もうウンザリだった。
貴族とあれば、15歳で結婚する。それは女子に合わせて。様々な事情があれど、遅くとも18までの猶予しか与えられない。最低4人子を設けなければならない法があるからだ。完全なる政略結婚。私の妻となる者と会ったのは結婚式だ。これはさして珍しくもない。ほとんどの者はこうだ。男子は魔力制御と操作の訓練に明け暮れ兎に角時間がない。
いざ結婚しても一緒にいる時間もほとんどない。それでは情すら湧かない。だがすることはしなければならない。私だけでなく、お互いに苦痛だろう。必要最低限以外家にも帰らない。
これでは家畜と同じだ。
だからこそパーティーなどで出会うお互い気に入る異性を側室やら愛人やらにするんだろう。
私に擦り寄ってくる女子どもは権力欲を隠すことすらしないやつばかりだ!何が一夜の情けを、だ!悍ましくて吐き気がする!
結婚は相手を国に決められ、しなければいけない義務だからしただけ。
俺には側室など必要ない。
更なる足枷を自らつけるなんて愚かな行為、私には考えられない!
だが結局何もできない。貴族だからこそ数々の特権は計り知れない利益を生む。私だってその利益の中で生きてきた。この私の他を圧倒できる魔力量だって、貴族として産まれたからこそだ。長い物に巻かれて生きて行くしかない。
そんな時、皇帝陛下の護衛の下命がだった。
これは最重要任務であり、絶対に相手側と敵対することのないよう、万が一の時は自らの身を守れと告げられる。
皇帝陛下は一体何を言っているんだ?護衛の任務なのに護衛対象のご自身ではなく己を守れなど聞いたこともない。いつもは黙っていない団長も今回はダンマリだ。承服できないこと、皇帝陛下をお守りすることが責務であることを訴えたが、とにかく友好関係を築きたいからと言われるだけだった。
そして話し合いの場に行き、納得した。
6人は魔力が漏れ出ている。空間が歪み所々に煌めきが見えるようなその様。これ程の魔力の漏れなど見たこともない。だが、更なる問題は魔力の漏れが見えない2人。他の6人が魔力漏れがあることを考えれば、この2人の魔力漏れが見えないことの異常さが際立つ。なによりその圧。魔力量の多さに比例して現れるその圧は、それよりも量の少ない者にしか感じ得ない。この恐怖で身震いするような、今まで感じたことのない圧。
皇帝陛下の圧も凄まじいと思っていたが、比べるべくもない。皇帝陛下がまるで赤子のようだ。
そして、宰相と揉めていた。
6人は静かに見守っていたが、圧が強い2人は敵意を露わにしている。
この2人の対照さにも驚かされた。
1人は男子。その体躯のなんと大きく立派なことか。ここまでの者はこちらの国には居ない。どこまで鍛え上げればあれ程になるというのか…だが、鍛え上げなければならなかったという意味にも捉えられる。この世界では魔法があるんだ。肉体的にそこまで鍛え上げる必要性がない。他の6人のことを考えれば、元の世界では魔法など存在しなかったのではないだろうか?
そして1人は女子。なんと小さいのだろう。身体の大きさも顔も少女にしか見えない。だというのに、感じる圧のその強さ。先の男子ほどではないが、この少女も圧倒的だ。
皇帝陛下の友好関係を築きたいとの言が理解できた。
これほどの者達だ。
今でさえ敵意を向けられている状況。
怒らせてしまうのは絶対に避けるべきだ。
話し合いが始まるが緊迫した空気は消えないまま。
その物言いは無礼極まりない。
そしてこの世界に何の価値もないと言われた。
この世界に生きる者にとって、それはとても腹立たしいことだろう。だが私は、何故か納得してしまった。家畜のように生きることの苦痛を見抜かれた気分にさえなった。
その後すぐに皇帝陛下に馬鹿と言い放ち、団長がキレて斬りかかってしまう。馬鹿はお前だ!と思ったが、少女は団長を軽くあしらい、当然のように剣を奪ったかと思うと流れるように首に沿わせた。
なんだそれは!!なんという動体視力に反射神経。魔力の練り上げもなかった。団長を雑魚と言い切るその姿は美しささえ感じさせる。
そして、説明される地球という星の少女達の状況。敵意剥き出しで当然だ。帰せの一点張りなのも当然。これで協力したいと思える訳がない。
帰る方法がないと知ると少女の魔力が瞬時に高まる。
殺されると思った。
しかし、それでもいいかとも思ってしまった。
それほどにこの世界で苦痛だらけだった。
だけど、死ねなかった。
川端と名乗る男子に止められた。
他の者を巻き込んでもいいのかと問われれば少女の魔力は霧散する。
あれ程に激昂していたのに、他者の為に怒りを収めた。
なんと強いんだ。
もちろん力もだが、何よりその心が。
私にとっての女子とは、他者を蹴落とし自分だけが良い思いをしようとする醜い生き物だった。人を思い遣るフリはしても、それすら利用しようと企んでいる者達だった。
他人のために自らが引くなんてあり得ない。
こんな女子が存在するのか…
川端様はそれから、紫愛様の言葉を丁寧に、自身の言葉も交えて懇々と悟らせるように語った。川端様も、高潔そのもの。
貴族なんて自分の利益のためにしか動きやしない。あるのは山のように高い自尊心と底知れない欲望のみ。誇りなんて吹けば飛んでいってしまうような軽いモノだけ。
地球人達は皆こうなのか!?
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