103 / 346
第103話 sideラルフ①
しおりを挟む俺は運命に出会った。
異世界から連れ去られてきた、紫愛という少女だった。
1番初めに目にしたのは皇帝陛下が地球人への説明を行う際の護衛の任務を受けた時だった。
地球から人を連れてくることは、上位貴族のみ知っている事実。
俺の家でギリギリ知っている。下位貴族には絶対に知らされることはない。犠牲にするのだから当然だ。
第一騎士団員達は皆知っている事実だ。
第一騎士団員ともなると、第二騎士団以下とは一線を画す力を保有している。
そこまでの力を持つ者に下位貴族はあり得ない。
俺はその第一騎士団の副団長だ。
副団長とは団長の尻拭いをさせられる役だと思っている。1番損な役回りだ。事実、俺の仕事といえば後先も人の気持ちも考えず突っ走る団長の尻拭いばかり。
団長は何を言っても暖簾に腕押し状態。
俺の話を聞いているようで、いざその場になれば全てが頭から吹っ飛んで自分の感情で動いてしまう。
仕事は増える一方だった。
貴族の女子はその最たる者達だ。
権力に、魔力量に、因子の強さに擦り寄り、自分が如何に良い立場に侍られるか、権力を手に入れられるか。それしか頭にない。
まるで絡みついて離さない蛇のようだ。
そして何より最悪なのは、その強かさ。
払っても払ってもその数は減らない。
副団長になればその数は更に増えた。
マークグラフ子息と副団長という立場故、無碍に扱うこともできない。
絡みつく蛇どもに常に自分優先の団長。
もうウンザリだった。
貴族とあれば、15歳で結婚する。
それは女子に合わせて。
様々な事情があれど、遅くとも18までの猶予しか与えられない。最低4人子を設けなければならない法があるからだ。
完全なる政略結婚。
俺の妻となる者と初めて会ったのは結婚式。
これはさして珍しくもない。
ほとんどの者はこうだ。
男子は魔力制御と操作の訓練に明け暮れ兎に角時間がない。
いざ結婚しても一緒にいる時間もほとんどない。それでは情すら湧かない。だがすることはしなければならない。俺だけでなく、お互いに苦痛だろう。必要最低限以外家にも帰らなかった。
これでは家畜と同じだ。
だからこそパーティーなどで出会うお互い気に入る異性を側室やら愛人やらにするんだろう。
俺に擦り寄ってくる女子どもは権力欲を隠すことすらしないやつばかりだ!
何が一夜の情けを、だ!
悍ましくて吐き気がする!
結婚は相手を国に決められ、しなければいけない義務だからしただけ。
俺には側室など必要ない。
更なる足枷を自らつけるなんて愚かな行為、俺には考えられない!
だが結局何もできない。貴族だからこそ数々の特権は計り知れない利益を生む。俺だってその利益の中で生きてきた。この俺の他を圧倒できる魔力量だって、貴族として産まれたからこそだ。長い物に巻かれて生きて行くしかない。
そんな時、皇帝陛下の護衛の下命がだった。
これは最重要任務であり、絶対に相手側と敵対することのないよう、万が一の時は自らの身を守れと告げられる。
皇帝陛下は一体何を言っているんだ?護衛の任務なのに護衛対象のご自身ではなく己を守れなど聞いたこともない。
いつもは黙っていない団長も今回はダンマリだ。
承服できないこと、皇帝陛下をお守りすることが責務であることを訴えたが、とにかく友好関係を築きたいからと言われるだけだった。
そして話し合いの場に行き、納得した。
6人は魔力が漏れ出ている。空間が歪み所々に煌めきが見えるようなその様。これ程の魔力の漏れなど見たこともない。
だが、更なる問題は魔力の漏れが見えない2人。
他の6人が魔力漏れがあることを考えれば、この2人の魔力漏れが見えないことの異常さが際立つ。
なによりその圧。
魔力量の多さに比例して現れるその圧は、それよりも量の少ない者にしか感じ得ない。
この恐怖で身震いするような、今まで感じたことのない圧。
皇帝陛下の圧も凄まじいと思っていたが、比べるべくもない。皇帝陛下がまるで赤子のようだ。
そして、宰相と揉めていた。
6人は静かに見守っていたが、圧が強い2人は敵意を露わにしている。
この2人の対照さにも驚かされた。
1人は男子。
その体躯のなんと大きく立派なことか。
ここまでの者はこちらの国には居ない。
どこまで鍛え上げればあれ程になるというのか…だが、鍛え上げなければならなかったという意味にも捉えられる。この世界では魔法があるんだ。肉体的にそこまで鍛え上げる必要性がない。他の6人のことを考えれば、地球では魔法など存在しなかったのではないだろうか?
そしてもう1人は女子。
なんと小さいのだろう。
身体の大きさも顔も少女にしか見えない。
だというのに、感じる圧のその強さ。
先の男子ほどではないが、この少女も圧倒的だ。
皇帝陛下の友好関係を築きたいとの言が理解できた。
これほどの者達だ。
今でさえ敵意を向けられている状況。
怒らせてしまうのは絶対に避けるべきだ。
話し合いが始まるが緊迫した空気は消えないまま。
その物言いは無礼極まりない。
そしてこの世界に何の価値もないと言われた。
この世界に生きる者にとって、それはとても腹立たしいことだろう。
だが俺は、何故か納得してしまった。
家畜のように生きることの苦痛を見抜かれた気分にさえなった。
その後すぐに皇帝陛下に馬鹿と言い放ち、団長がキレて斬りかかってしまう。
馬鹿はお前だ!と思ったが、少女は団長を軽くあしらい、当然のように剣を奪ったかと思うと流れるように首に沿わせた。
なんだそれは!!
なんという動体視力に反射神経。
魔力の練り上げもなかった。
団長を雑魚と言い切るその姿は美しささえ感じさせる。
そして、説明される地球の少女達の状況。
敵意剥き出しで当然だ。
帰せの一点張りなのも当然。
これで協力したいと思える訳がない。
帰る方法がないと知ると少女の魔力が瞬時に高まる。
殺されると思った。
しかし、それでもいいかとも思ってしまった。
それほどにこの国では苦痛だらけだった。
だけど、死ねなかった。
川端と名乗る男子に止められた。
他の者を巻き込んでもいいのかと問われれば少女の魔力は霧散する。
あれ程に激高していたのに、他者の為に怒りを収めた。
なんと強いんだ。
もちろん力もだが、何よりその心が。
俺にとっての女子とは、他者を蹴落とし自分だけが良い思いをしようとする醜い生き物だった。人を思い遣るフリはしても、それすら利用しようと企んでいる者達だった。
他人のために自らが引くなんてあり得ない。
こんな女子が存在するのか…
川端様はそれから、紫愛様の言葉を丁寧に、自身の言葉も交えて懇々と悟らせるように語った。
川端様も、高潔そのもの。
貴族なんて自分の利益のためにしか動きやしない。あるのは山のように高い自尊心と底知れない欲望のみ。誇りなんて吹けば飛んでいってしまうような軽いモノだけ。
地球人達は皆こうなのか!?
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる