水と言霊と

みぃうめ

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第120話    ラルフの治療②

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「ラルフ、こっちにレースのカーテンとかってある?」
「カーテンでございますか?」
「そう。レースで透けてる感じがある布。」
「あります。」
「じゃあこの部屋に衝立ついたてを2つ持ってきて、そこにレースのカーテンを紐かなんかで渡そう。」
「構いませんが、それは何に使うのですか?」
「あっくんからの目隠し。」
「俺からしーちゃん達を隠すの!?」
「あっくんは同席したいんでしょ?だったらそれが条件。あっくんの視線が気になってラルフが集中できない。透けてるからハッキリは見えなくても姿はわかるでしょ?それも嫌だって言うならもう同席させない。」
「でもそれだと…安全が確認できないよ。」
「ならハッキリ言おうか?ラルフじゃ私にはどうやったって勝てないよ。もしもがあれば氷漬けにして一瞬で終わり。更にあっくんからも見張られてる。この状況でラルフが私に手を出す頭のおかしいやつだとでも言うつもり?」
「………………わかった。」

 あっくんは渋々頷いた雰囲気。

「ラルフ、悪いんだけど衝立2つとレースのカーテン用意してきてくれる?」
「畏まりました。ゆっくり行ってまいります。」

 ラルフはそう言って出て行った。

 ゆっくりって…あっくんと話し合えってことだよね?
 でも、もう言いたいこと言っちゃったから話すことなんてないんだけどな。


 部屋を沈黙が包む。
 私も部屋に戻ろうかな。

「あっくん、私自分の部屋に戻ってるから用意できたら呼んでね。」
「待って。少し話したい。」
「なに?」
「さっきは、ごめん。」
「それさっき聞いた。」
「しーちゃんは俺が頑張ってラルフを守ったから守りたいんだって言ってくれたのに、どうしても、嫌だった。」
「あっくんは何をそんなにこだわってるの?あっくんだって私に抱きついてくるでしょ?私の護衛選ぶ時だって騎士団の人達と握手させたよね?それにラルフのは治療目的だよ?」
「俺にとってしーちゃんは特別なんだよ。俺に弱いと気がつかせてくれた。そんな俺をいつも支えてくれてる。俺もしーちゃんの特別になりたいんだ。そんな特別で大切な人が俺以外と触れ合ってるなんて…」
「盗られたみたいに思ったってこと?拗ねてたわけ?」
「ははっ……そうかも。」

 理解はできないけど、それならわからないこともない。

「あっくんて案外子供なんだね。男の人っていつまで経っても子供みたいってよく聞いたけど本当なんだね。」
「俺自身こんなこと初めてで、驚いてるよ。自分の気持ちが全然制御できない。」
「じゃあこれから頑張って制御してください。話が通じなさすぎてビックリしたんだから!」
「はい、反省してます。」
「よろしいっ!じゃあラルフの様子見てくるね!きっと外で待っててくれてるよ。」
「待って。」
「どうしたの?まだ何かあった?」
「俺、しーちゃんを抱きしめたい。」

 はぁ?
 また変なこと言い出したよ。
 何で今?

「する理由なんてないでしょ?」
「……不安なんだよ。」
「盗られそうで?」

 ニヤニヤして茶化してしまう。
 でもあっくんはそれに乗ってくれず俯いてしまった。
 なんか、これ、愛流が悪いことして私に叱られた構図に似てるな…
 要するに許して安心させてほしいわけだ。

「あっくんしゃがんで!」

 俯いたまま素直に片膝をついてしゃがむあっくんを正面から抱きしめて髪をぐっしゃぐしゃにしながら撫でる。

「仕方ないなぁ、子供で甘えん坊だね!」

 これ愛流にもよくやってたなぁ。
 これやると、ごめんなさいって泣きながらしがみついてきたなぁ。私も一緒に泣いたこともあった。
 あっくんは泣いてこそいないけど、「しーちゃん」って呼びながらぎゅっと抱きついてきている。

 あー…会いたいな。
 私こんなとこで何してんだろ。
 早く地球に帰りたいのに帰る手段を探すことにさえ辿り着けない。
 帰りたい。
 会いたい。
 帰りたい。
 会いたい。
 会いたい会いたい会いたい!
 早く帰って2人を抱きしめたいのに!

「しーちゃん!?どうしたの!?何で泣いてるの!?」

 あっくんに呼ばれ、気がついたら涙が溢れていた。
 1度決壊すると涙はなかなか止まらない。
 感情が溢れてきてしまう。

「ごめん、俺が困らせたせいだね。」

 オロオロして困っているあっくんが歪んで見える。

「うぅっ…私たちっはっ……いっ、いつ、帰れる、の?はっはやくっ、うっゔーー帰りたい!のにっ!」

 今度はあっくんが私を抱きしめる。

「ごめん、ごめんね、俺が不安にさせた。」
「帰り、たい!」
「うん。」
「か、かえっり…ヒック、たっ…ゔゔっ」

 私の背中を撫でながら「うん。一緒に帰ろう。」と言っているあっくんのセリフをどこか遠くで聞きながら私は意識を失った。



 ※

 俺の腕の中で泣きながら意識を失ったしーちゃんを、そのままそっと横抱きにしベッドに寝かせる。
 顔にそっとタオルを押し当て涙を拭いた後、外で待機しているであろうラルフに声をかけるため外に出た。
 ラルフはやはり部屋の近くで待機していた。

「ラルフ、今日は中止だ。それと、香織さんを呼んできてくれ。」
「何かございましたか?」
「しーちゃんが倒れた。」
「えっ!?では医者の手配を「それはいい。おそらく心因性のものだ。他の者に気付かれないように俺が呼んでるとだけ伝えてくれ。」
「紫愛様は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。だが護衛達にも知らせるなよ。」
「畏まりました。古角様を呼んで参ります。」

 扉を閉めた途端に叫び出しそうなほどの自己嫌悪に襲われた。

 俺は何をやっているんだ!!
 あれだけ守りたいと思っていたのに!
 くだらない嫉妬心に駆られしーちゃんの不安を煽り追い詰めてしまうなんて!
 ラルフを助けたいのだって俺のためだと言ってくれたのにどうして引かなかったんだ!
 俺は…俺は…しーちゃんに甘えていたんだ。
 しーちゃんなら許してくれる、と。
 実際許してくれた。
 いつもいつもいつも!
 いつだって味方でいてくれたのに!
 いつだって俺の心を守ってくれていたのに!

 コンコン

「川端君、来たわよ。」

 香織さんの声が聞こえる。
 扉を開けると

「まぁ!なんて酷い顔をしているの?私今から川端君にヤキでもいれられるのかしら?顔が怖すぎるわよ!」

 と言われてしまった。
 香織さんを部屋に入れる。

「しーちゃんが倒れたんです。」
「ちょっと!大丈夫なの??」
「俺が…追い詰めてしまいました。」
「どういうことか説明して!」

 香織さんが眉間に皺を寄せ詰め寄ってくる。
 この人もしーちゃんのことが大好きだ。
 しーちゃんのことに関してだけこういう顔を隠すことなく晒す。

 俺は全てを包み隠さず全て話し、しーちゃんのそばにいてほしいと伝えた。
 香織さんから深い溜息が出る。

「川端君の気持ちはわかるわ。愛してる人が他の人と触れ合うだけでも嫌な気分になる。川端君は紫愛ちゃんのことをとても大切にしていると感じていたけれど、私の勘違いだったのかしらね。紫愛ちゃんは貴方の気持ちを知らないのよ?それは所有欲だわ。嫉妬するのは勝手だけれど、それを押し付けられても紫愛ちゃんに嫌われるだけよ。本当に愛しているなら、相手の気持ちをまず1番に考えるべきだわ。それに、紫愛ちゃんは私達の前では明るく振る舞ってくれているけれど、かなり自分の気持ちを抑え込んでいるんじゃないかしら?考え出すと不安で不安でどうしようもなくなることがわかっているから。意識を失うのも、過剰なストレスから身を守るため…」

 香織さんはふぅーっと息を吐き、俺に質問してきた。

「ねぇ、川端君は紫愛ちゃんが地球に帰りたい理由、何か知っている?」

 そんなの俺だって知りたい!!

「俺には…変わらないと信じるモノの為に、何を犠牲にしても帰りたい、それが私の生きる意味なんだ、と。香織さんは知っているんですか?」
「知らないわ。紫愛ちゃんがそこまで言うのに、肝心の理由には一切触れなかったのよね?」
「はい。それを口にしたしーちゃんは涙ぐんでいたので…好きな人の為に帰りたいのか、それしか聞けませんでした。」
「紫愛ちゃんは地球に好きな人がいるの?」
「いいえ。異性のことは否定していました。しーちゃんは………産まれてから1度もそんな存在がいたことはなく、そしてこれからもそんな存在は必要ないと、そう、言っていました。」

 香織さんはこめかみを指で抑えながら

「そう、なのね。川端君は辛かったわね。でもそうなると…帰りたい理由は意図的に言わなかったと考えるのが自然よね?」
「………俺も、そう、思います。」

 つまりはしーちゃんにとっての俺は話すに値しない存在だということだ。

「私達が信用できないのか、それとも言えない事情があるのか、ただ言いたくないだけなのか…川端君、絶対理由を聞いては駄目よ!紫愛ちゃんが自分で言ってくれるのを待つしかない。今だって、考え出しただけで意識を失うほどのストレスなの。これ以上あの子を追い詰めるようなことしたら許さないわよ!」
「はい!2度としーちゃんを傷つけたくありませんから。」

 今はまだ無理でも、いつかは……話してもらえるような存在になりたい。

 今の俺にできることは、しーちゃんが心穏やかに過ごせるように努める事。
 それしかない!












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