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第196話 ごめんなさい
しおりを挟む自分に呆れ、失望した。
喪失感を埋めるために“絢音のため”という言い訳まで用意して絢音を利用してしまった。
選択の自由まで奪っておきながら、絢音に偉そうに考えなさいなんて言ってしまった。
私はこのままここに居てもいいんだろうか。
ここから離れようか…
でも、私は既に絢音の思考を誘導してしまっている。
このまま私がここを離れてしまったら、絢音は見捨てられたと思ってしまうんじゃないの?
それは余りにも無責任だ。
それは最大の裏切り行為だ。
付かず離れずの距離を保たなければ…
本当の意味で“絢音のため”の行動をしていかなければならない。
私が絢音のためにできることを考える。
絢音を個として認めること。
絢音の判断を最大限尊重し、私情ではなく俯瞰からの立ち位置で見極めること。
努力をした時は誉めること。
人として間違っていれば正すこと。
絢音の意思を尊重することが何より大切。
絢音が、もう私と一緒に居たくないと言えばここを去ろう。
それだけのことを私は絢音にしてしまった。
それでも…
愛流と紫流のことを抜きにしても…
絢音のことが可愛くて大好きだと思うこの気持ちは、やっぱりどこか歪で間違ったモノなのだろうか…
その日の夕飯は、ほとんど食べることができなかった。
みんなに話しかけられた気もするけど、ひたすら絢音のことを考えていた。
部屋に戻ってからも頭の中は絢音のことでいっぱいでなかなか寝付けない。
そんな時
コンコン
部屋をノックする小さな音が聞こえた。
あっくんだったらこんな小さなノック音じゃないだろう。カオリンかな?
「はぁい。」
と返事をしながら扉に向かうと
「……みーちゃん。」
か細い絢音の声が聞こえてきた。
絢音!?
どうしてこんな夜中に!
慌てて扉を開ける。
「絢音?どうしたの?眠れないの?」
「……ぼく、かんがえたの。」
まさか、もうどうしたいか決めたの!?
「そっか、とりあえず中に入って。座ってお話しよう。」
「うん。」
中に絢音を招き入れたは良いけど、座る位置に困ってしまった。
今までは何の躊躇いもなく、当たり前のように絢音の横に陣取って座っていた。
私が絢音の1番なんだと言わんばかりに…
駄目だ!
私情は捨てる!
絢音はちゃんと考えてきてくれたんだから向かい合って話を聞こう!
いつものソファに絢音を座るように促し
私は机をはさんで向かいの椅子に座ろうと1歩離れると
「みーちゃんここ。」
と、ソファの奥に絢音が詰めた。
「絢音は隣がいいの?」
「うん。」
これは絢音の希望なんだ、大丈夫…
絢音は今不安なはず。
これ以上不安にさせるのは駄目。
「じゃあ隣に座るね。」
そう言ってゆっくり絢音の隣に腰を下ろす。
絢音は緊張しているせいか、私が隣にいても俯いたままなかなか言葉が出てこない。
身体ごと絢音に向き「大丈夫?」と問いかける。
「………………ごめんなさい。ぼく、みんなにいやなきもちさせちゃった...…みんな、がんばってる。だから、ぼくもがんばる。」
「大丈夫。みんな嫌な気持ちになんてなってないよ。絢音のこと心配してるだけだよ。頑張るっていうのは、魔法のこと?」
「うん。いまは、これだけ。」
そう言うと絢音は顔を上げ、私と視線を合わせた。
お互い無言のまま見つめ合う。
暫くすると絢音の目から漏れていた魔力が…
消えた。
こんな短時間で制御をモノにしたの!?
何も感じない状態から一体どうやって!?
……まさか、さっきの幽霊に教わった?
じゃああれは幽霊じゃなくて、いつも絢音がみている妖精だったってこと?
違う。
どうやったかなんて問題じゃない。
絢音は自分で考えて、頑張った。
それだけのことなんだ。
絢音の頑張りを褒めて、認める。
「絢音はいっぱい頑張ったんだね。大変だったでしょう?絢音は凄いね!」
背筋を伸ばして絢音の頭を撫でる。
「ぼく、も……みんなをまもりたい。」
絢音のその言葉に、思わず頭を撫でる手が止まってしまう。
「ぼく、みーちゃんもまもりたい。だから、がんばる。」
そう続けた絢音の強い決意の瞳に射抜かれた。
絢音はまだ9歳。
これがどれ程の重い決意か。
目を見ればわかる。
伝わってくる。
絢音の混じり気のない純粋な決意と覚悟。
「ありがとう。絢音のその気持ちが、とっても嬉しい。明日から一緒に練習場に行って頑張ろうね。」
泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな!
震える声で精一杯言葉を紡ぐ。
本当は抱きしめてあげたい。
でも、今触れ合えばまた絢音を子供達に重ねてしまいそうだった。
「みーちゃん……は………………ぼくのこと、いやになっちゃった?」
「そんなこと!あるわけないよ!優しくて可愛くて強くてピアノが上手で……おまけに頑張りやさん。私は絢音が大好きだよ。」
私のその言葉に、絢音の顔からやっと緊張が抜け微笑んでくれた。
「ぼくも!みーちゃんだいすき!」
そう言って絢音は私の両頬にちゅっちゅとキスをして
「ぼく、ねるね!おやすみなさい!」
少し照れ笑いを浮かべながら立ち上がる絢音に
「……うん。また明日ね!おやすみ!」
と、返事を返し手を振るのが精一杯の私。
絢音が部屋を出て行った途端、涙腺は崩壊した。
絢音はまだ9歳。
9歳なんだ!
たったの9歳でこの決意と自立。
愛流は7歳、紫流は2歳。
私が地球に戻った時、愛流はどれだけ成長してるの?
紫流は私のこと覚えていてくれるの?
私が地球に戻っても、子供達はもう私の知ってる子供達じゃないかもしれない。
私のことを拒否するかもしれない。
私の居場所なんてもうないかもしれない。
2人に会いたくて、地球に帰りたいと頑張って頑張って頑張っても何の意味も無いことなんだとしたら?
それでも会いたいと願うのは私のエゴでしかないの?
私には子供達だけしかいないのに!
考えないようにしていたことが一気に頭の中を駆け巡る。
絢音の成長を目の当たりにして、如何に私が現実から目を背けていたのかを思い知らされた。
“お前が一番子供だ”
心に重く伸し掛るこの言葉。
本当にそうだ。
私は子供と変わらない。
現実から逃げ、感情のまま泣き叫び、絢音に寄生し依存していた。
私の守ってあげたいという気持ちが、如何に独りよがりで傲慢な思い上がりだったか叩きつけられた。
心が真っ黒に澱んでいくようだ…
ひたすら泣き続け、やっと少し落ち着いてきたら、ふと気になることが思い浮かぶ。
あの妖精はどこまでわかってあの言葉を発したんだろう。
妖精はどこまで見えている?
まさか……帰る方法を知っている?
いや、それならそれを提示してサッサと私を絢音から引き離すはず。
………………違う。
知っていても提示するわけがない。
妖精は妖精で絢音を守ろうとしていることを考えれば、それは私と同じ執着なのでは?
だとすると、絢音が地球に戻ってしまうことは許せることではないだろう。
もし帰る方法が見つかったとして、絢音は?
帰らせてもらえるの?
徹底的に邪魔してくるんじゃないの?
絢音も自分達と同じ存在だと言っていた。
それが光か闇の因子を持つことを意味しているんだとしたら?
絢音には魔力すら流せなかった。
光にも闇にも、対抗できる術なんてあるのだろうか?
あれ?
でも、私達から絢音を隠そうとはしていない…
まさか、力は持っていない?
そもそも“異端者”とは?
私だけに向けられたこの言葉の意味は?
絢音にとって害悪だったのは認める。
認めるけど、それだけで異端という言葉が使われるのは腑に落ちない。
何か別の意味があるの?
調べよう。
今度こそ、絢音のために。
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