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第200話 無用の争いと肉の可能性
しおりを挟む練習場に到着し、早速絢音に魔法が使えるかどうかの実践を行ってもらう。
使えなくても別に構わない。
操作ができるなら魔力の練り上げは可能。
ところが、全くできない。
絢音の魔力そのものを感じない。
光か闇か……そう思っている私は考える。
そもそも光と闇は理から外れた存在のよう。妖精なんてまさにそれ。
ということは、私達が感じている魔力すらも違う?
違うとしたら私達には絶対教えられない。
使い方はおろか感じることもできないんだから。
あの幽霊のような精霊は本当に絢音に教えてくれているんだろうか…
もう出てきてはくれないんだろうか…
出て来てくれたとして、絢音以外と会話するつもりはあるのだろうか…
そもそも絢音はあの妖精が見えているの?
「みーちゃん、ぼく……できない。」
しょんぼりと肩を落とす絢音。
「大丈夫。みんなだって使えるようになるのに時間がかかってるんだよ。私だってそうだったの。絢音だけじゃないよ。絢音が頑張ってくれるのが嬉しいの。一緒に頑張ろうね。」
「うん。」
「そうだぞ。何も心配することなんてない。急いでやろうとすると余計に時間がかかったりするんだ。絢音は絢音のペースでやればいい。」
「そうよ!そんなこと言ったらちっともできない私の立場がないじゃない!」
「麗はこっち。」
金谷さんが麗を引っ張って行く。
「麗はごちゃごちゃ考え過ぎ。」
「だって!身体の中心から巡るんでしょ!お腹から一体どうやって巡るのよ!?」
「違う。心臓から巡る。血と一緒。血に乗って全身に巡る。」
「………………………………できない。」
「胸に手を当てて。鼓動を感じて。魔力を感じて。鼓動に合わせて全身に巡るイメージ。」
「………………………あ…………なんかちょっと…」
「続けて。集中。」
おーーー!なんか凄い良い感じ!
金谷さんが言う通り、麗も本当にあと少しって雰囲気!
……ってなると益々いつ出発なのか気になる。
ハンスを残す方法考えないと。
皇帝に直談判すればなんとかなるかな?
でも、あっくんの意見何も聞いてないし…
戻ったらみんなにどう思うか聞こう。
それぞれが自分の魔法の訓練をしてロビーへ戻る。
「さっきの練習場で麗も制御ができそうだった。私とあっくんはもうすぐ行けって言われる。ここに残す護衛についてみんなの意見が聞きたいの。ラルフは副団長だからここには残れない。私はハンスを置いてここの護衛の統括をしてほしいと思ってるんだけ「駄目よ!!ハンスさんには紫愛ちゃん達と一緒に行ってもらうわ!」
強い口調で割り込んできたのはカオリンだった。
「どうして?ハンスならしっかり護衛達を統括できると思うんだけど。」
「統括ができるということはそれなりの実力者ということでしょう?ここに残るのと戦場、より危険な方に実力者が行かなければ話にならないわ!」
「でも!ここにもそれなりの人が残らないと他の騎士達への牽制にならないよ!?ねぇあっくん!!!」
「あ……えーーーと…………うーん…」
何でそんな煮え切らない態度なわけ!?
「私達だって自衛はできるわ!訓練だって欠かさない!使える人をここに残したって意味が無いわ!」
「牽制できなきゃみんなの危険度は上がるんだよ!?」
「ねえ!ヒートアップしてるとこ悪いんだけどさ、戦場に誰連れて行くかって誰が決めるわけ?」
麗が口を挟む。それに答えるあっくん。
「皇帝だろうな。」
「はぁ?決定権こっちにないの!?じゃあそんな意味無いことで言い合いしたって無駄じゃない!もうやめやめっ!ねぇ絢音君?絢音君はどう思う?」
麗は同意を得ようと絢音に話を振る。
絢音はと言うと
「ぼく、おなかへった。おかしたべたい。」
このタイミングでお菓子を欲しがるとは…
絢音は大物だな。
「……そっかぁーお菓子食べたいかぁ。でも作らないとないなぁ。」
「じゃあ、きょうはおやつなしなの?」
シュンと落ち込む絢音を見たらナシなんて言えないじゃないか!!
「作るっ!作るよ!!ちょおっと待っててね!」
「うん!」
「しーちゃん!俺も行くよ!」
「よろしく!じゃ行ってきます!」
そう言ってあっくんと2人でロビーを出た。
「絢音に助けられたかも。あのまま言い合い続けてても空気悪くなるだけだったよね。」
「うん、そうかも。」
「因みにあっくんはどう思ってる?」
「ハンスのこと?」
「そう。」
「俺は……連れて行きたい、かな。」
「それはどうして?」
「より危険なのは香織さんが言うように絶対外に出る俺としーちゃんだ。誰も魔法が使えないままなら置いていきたいと思ったかもしれないけど、香織さんと金谷さんはこっちの騎士達なんて目じゃないくらい威力が強い魔法も発現できるようになってる。それに、俺としーちゃんは無傷で帰らなければならないと思う。怪我をして帰った場合の香織さん達の心情を思ったら……次は絶対ついていくって言うでしょ?しーちゃんだったら?逆の立場だったら黙ってまた送り出せる?無理じゃない?」
そんなの答えは決まってる。
「それは、絶対無理だね。だけどさ、それを言うなら逆もじゃない?残したカオリン達が私達が戻るまでに何かされてたら?」
「しーちゃんはさ、香織さん達の魔法の実力見てて、それでも害せると思う?」
「よっぽどがない限り……大丈夫だと思う。」
「でしょ?それは俺も思うし、香織さんもそう思ってるんじゃないかな?香織さんだって俺としーちゃんだけを戦場に送り出すのは嫌なんだよ。だからこそ文献の解析に躍起になってるんじゃない?自分にできることを。って。俺としーちゃんの力になりたい、でも自分には戦う知恵がない、なら戦力になりそうなハンスを一緒に連れてってほしい。自分達の身は自分達で守れる。違うかな?」
「そう、だね。心配しすぎは駄目だね。負担に思わせちゃうだけだよね。」
「そうだよ。地球人同士で心配し合って争う必要なんてない。もっと香織さん達を信じよう。」
そっか、信じることは大切だ。
いつまでも心配しているのは、侮っているのと同じこと。
「うん!よぉーし!美味しいお菓子作るぞ!」
「今日は何作る予定?」
「うーん、そうだなぁ……シフォンケーキは?」
「それ、フワフワのやつ?」
「そうそう!」
「俺が手伝えることある?」
「そりゃあもう!人間電動ホイッパーの出番ですよっ!」
「……その呼び方なんとかならない?」
「えっ!?不満だった!?じゃあT-800は?」
「なにそれ?」
「ターミ〇ーター知らないの!?」
「いや、知ってるけど……まさかそれ仲間のロボットの個体名?」
「確かそう!!」
「……しーちゃんて例えるの好きだよね?」
「あっくんに似たガチムチの体格ってかなり限られるでしょ!?世紀末然り、ハ〇ク然り、例えられる枠が少ないんだよぉ!」
「ガチムチって……まぁそうなんだけど、例える必要ないからね!?」
「えーーっ!わかりやすくて良いのに!」
「ははっもう好きに呼んでよ。」
諦めムードのあっくん。
好きにしてって言うなら好きにしちゃうもんね!
あっくんと一緒にシフォンケーキを焼きながら改めて牛乳の偉大さを感じる。
「あーーー!!!ここにホイップしたクリームあったら最高なのに!」
「そればっかりはしょうがないよね。何せ牛乳が壊滅的に不味いから。」
「それなんだけどさぁ!優汰が野菜作ってくれて牛の餌も変えたらお肉も牛乳も美味しくならないのかな?」
あの臭い牛乳を思い出し、オエッとなりそうなのを我慢する。
「……それは考えてなかったな。でも餌変えてどれくらいで変わるもんなんだろう?」
「わかんない!でもさ、正直、お肉も不味いでしょ?」
「ジビエとして食べるんなら問題ないくらいの認識だったからなぁ。あれが牛肉だって言われても到底受け入れられない味だよね。」
「変えられないかなぁ。私達は我慢して食べられるけど絢音が食べられないのは大問題だし……でも地球に戻るまでにそんなに時間かけてやることでもない気もするし…」
「俺も身体の維持に肉は必須だから我慢して食べてるだけで、上手い肉食べられるなら絶対そっちが良いし、絢音も食べられるようになるかもしれない。優汰はどうせ畑に関することしかやらないだろうしさ!問題は優汰が飼料にまで手を出せるかじゃない?それにさ!飼料さえ作れればあとは牛に食べさせるだけだよ?それも俺達が食べる分の牛だけで良い。それを考えたらやる価値あるかもよ?」
「そうだね!まずは優汰に相談してみよう!」
そう言って焼きあがったシフォンケーキを持ってロビーに戻った。
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