水と言霊と

みぃうめ

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第204話    麗の制御

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 夕飯を食べた後本棚が到着し、ハンスを呼ぶ。
 年代別でわけられているが、書いてある内容別ではわけられていないらしい。
 読めない本はわけようがないので、わかる本だけをカオリンとハンスで精査している。
 精査が終わった本から、カオリン指示の元本棚へ収納する。収納だけならば手伝えると全員で手伝った。
「新しい時代のものはあまりないのね。」
「申し訳ありません。
 ここにはない本をご所望の様子でしたので持って参りませんでした。」
「重複するものは必要ないから大丈夫よ。先に用意された本はほとんど読み切ってしまったから問題はないわ。」
「あの量を全て……でしょうか?」
「ええ。」
「読めない本は、ありませんでしたか?」
「所々読めない部分はあったけれど、周りの書き方や関連性からある程度の予測はつくわ。」
「古角様は本当に素晴らしく優秀でいらっしゃいますね。」
「専門家というだけよ。
 貴方もある程度は把握済なのでしょう?
 大して変わらないわ。
 手伝ってくれてありがとう。
 今から読みたいからもう出て行ってちょうだい。」
「畏まりました。
 部屋へお戻りの際は声をおかけください。
 では、失礼いたします。」
 敬礼をしハンスがロビーから退室した。

「ハンスが持ってきた本はどう?
 カオリンの役に立ちそう?」
「勿論よ!
 彼はかなり古い文献の写しまで持ってきてくれたわ!
 早速今から解読を開始するわよ!」
 カオリンは凄く嬉しそうにしている。この様子だと寝食を忘れて没頭しそう。
 ロビーに持ってきてもらって正解かも。
「気持ちはわかるけど、明日は訓練場に行ったら初めて外に出るんだし、今日はゆっくり休んだら?」
「いいえ!目の前にあるのにじっとなんてしていられないわ!」
「やるなとは言わないけど、気付いたら朝ってことになりそうで心配だなぁ。」
「私もそんな気がする。
 だから私が香織さんとここに残る。
 私も内容気になるし手伝いたい。
 香織さんは私が声をかけたらもう寝る時間だって諦めて中断してもらう。
 それでどう?」
「麗ちゃんが手伝ってくれるなら捗りそうだわ!よろしくね!」
「はい!」
「私も手伝いたいけど、何か手伝えそうなことある?」
「いいえ、麗ちゃんと二人で大丈夫よ。」
「香織さん、俺が手伝う。
 麗は制御やってほしい。
 掴みかけてる感じがする。
 忘れないうちに反復した方が良い。」
 金谷さんが麗の制御を見てくれているから今が大切な時だとカオリンに進言する。
「…そうね。その方が良いわ。
 麗ちゃん、折角の申し出なんだけれど、本格的に制御ができるまではそっちに集中してほしいわ。」
「…………わかりました。」
「麗もロビーでやって。
 迷ったら俺に質問。」
「わかった。」
「じゃあ私達は邪魔にならないように部屋に戻るね。」
 私が居てもことある事にカオリンに質問しに行って邪魔するだけになるだろう。
 麗もここで制御をするなら、集中できるように会話は少ない方がいい。
 ちらりと絢音を見ると、かなり眠そうにしていた。
「絢音、部屋に戻って寝ようね。」
 無言で頷く絢音の手を引き部屋に誘導する。
 絢音の寝室に辿り着き、シャワーはどうするか聞くけど、眠いの一言。
 ならば寝た方が良い。
 ベッドに入らせて、お互いにお休みのキスをする。
 歌を歌う前に絢音は夢の中へ。
 よっぽど疲れていたんだろう。
 そっと部屋を後にする。

 絢音の部屋を出ると、あっくんが自分の部屋の扉の前で私が出てくるのを待っていた。
「どうしたの?」
「お休みを言ってなかったから待ってた。」
「寝る前にちょっと話があるんだけど、大丈夫?」
「いいよ。じゃあ入って。」
 あっくんはそう言い部屋に招き入れられた。
「大したことじゃないんだけど、そろそろ手合わせしたくて。
 明日の練習場で相手してくれない?」
「俺がしーちゃんの相手するの!?」
「そう。あっくんくらいしか私の相手ができそうな人いないから。」
「でもしーちゃんに掴みかかりにいくなんてそんなのできないよ!」
「ただの訓練だから。
 戦場行く前に調子取り戻したいだけだよ。
 あっくんだって勘は取り戻した方が良いんじゃない?」
「そんなのやらなくても俺がずっと一緒に居るよ!」
「いやいや!
 ずっと一緒はどう考えても無理でしょ?
 いざと言う時に備えておきたい。」
「でも危ないよ!」
「あっくんは私の相手がしたくないってこと?」
「しーちゃんに向かっていくなんて……」
「わかった。
 じゃあお休み。」
「ちょっ!待って!
 しーちゃんどうする気!?」
「あっくんは相手したくないんでしょ?
 ハンスに頼むから大丈夫だよ?」
「っっ!………………俺がやるよ!」
「でも今相手したくないって言「俺のがハンスより強い!そうでしょ!?
 ハンスに頼んだってしーちゃんのためにならないから俺がやる!」
「無理にやらなくてもいいよ?
 別の人に頼むだけだから。」
「俺がやる!!!
 俺のためにもなるし!!」
「うん…じゃあよろしくね。」
 私のこと考えてくれたのかな?
 確かにハンスと手合わせしたって勘が戻るとは思えないし。
「じゃあまた明日ね。お休み。」
「うん。お休み。」

 そう言い合い部屋に戻った。
 手早くシャワーを浴びすぐにベッドに潜り込むと睡魔が襲ってきた。



 翌朝、気持ち良く目が覚め、準備を整えロビーへ向かうとあっくんと絢音はもう席に着いていた。
 おはようの挨拶を交わしたあと、すぐに他のみんなも部屋から出てくる。
 それを見ていた絢音は
「やっとおねぇちゃんのおかおみれた。」
 と一言。
 絢音の言葉を受け、全員の視線が麗に注がれる。よく見れば確かに麗から魔力漏れがなくなっている。
「麗!おめでとう!」
 頑張っていたのは知っている。
 麗が制御をモノにして嬉しくなった。
「やったな!おめでとう!」
 あっくんも称賛を送る。
「おめでとう!やったじゃーん!」
 優汰も素直に喜びを顕にする。
 金谷さんとカオリンは知っている表情。
 昨日の夜にできるようになったんだろう。
「やっとみんなに少し追いついた。」
 麗は安堵の表情を浮かべていた。
「操作の方はどう?」
「……多分イケると思う。練習場でやってみる。」
「凄いっ!
 じゃあ実践あるのみだね!」
「ふふっ。麗ちゃんは昨日の夜にできるようになったの!
 それからは本よりも風魔法について語ってしまったから解読は進まなかったわ。」
「いいのいいの!
 そりゃー話したくなるよ!」
「香織さん、自衛が何より大事だから何も間違っていませんよ。」
「金谷さんもありがとう!」
「俺はやれることやっただけ。」
「いいや、金谷さんにも感謝だ。
 間に合いそうで良かった。
 練習場でやってみよう。」
 あっくんも安堵を見せる。
 戦場に行くまでに少しでも不安材料は減らしたいもんね。

 みんなで手早く朝食を済ませ、各々できることをやっているとあっという間に昼食だ。
 練習場に向かうためにロビーを出ると
「皆様制御ができるようになったのですね。
 おめでとうございます。」
 と、ラルフに声をかけられた。
「ああ。
 その件で皇帝に確認したいこともある。
 明日、皇帝を呼び出してくれ。
 それと、練習場の使用が終わったら全員で優汰の畑を見に行くからそのつもりでいてくれ。」
「畏まりました。」
 そういえば皇帝はランダムにここに来るっていう話だったけど、一回しか来てないよね?
 それとも私が知らないだけで来てんの?
 あっくんが気にしてる様子もないし、どうでもいいか。

 いつも通りに練習場へ向かい、到着すると早速麗に魔法を使ってもらうことになった。
 カオリンという見本がいるおかげか、カオリンほどではなくても麗も同じようなことはできた。
 ただし、まだかなり集中しないとすぐに風は止んでしまうみたいだった。
 操作はみんな毎日やってくれているから、麗もこれから操作を頑張ればカオリンと同じように使えるはず。
 どれだけできるかの確認をした後は反復練習。
 その後、みんなから許可をもらいあっくんと手合わせを行う。

 が、全く意味のない手合わせだ。
 肝心のあっくんが手加減なんて軽いものではないくらいのヘナチョコで相手をしてきたからだ。

 










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