水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
204 / 346

第204話    麗の制御

しおりを挟む



 夕飯を食べた後、本棚が到着し、ハンスを呼ぶ。
 年代別でわけられているが、書いてある内容別ではわけられていないらしい。
 読めない本はわけようがないので、わかる本だけをカオリンとハンスで精査している。
 精査が終わった本から、カオリン指示の元本棚へ収納する。収納だけならば手伝えると全員で手伝った。

「新しい時代のものはあまりないのね。」
「申し訳ありません。ここにはない本をご所望のようでしたので持って参りませんでした。」
「重複するものは必要ないから大丈夫よ。先に用意された本はほとんど読み切ってしまったから問題はないわ。」
「あの量を全て……でしょうか?」
「ええ。」
「読めない本は、ありませんでしたか?」
「所々読めない部分はあったけれど、周りの書き方や関連性からある程度の予測はつくわ。」
「古角様は本当に素晴らしく優秀でいらっしゃいますね。」
「専門家というだけよ。貴方もある程度は把握済なのでしょう?大して変わらないわ。手伝ってくれてありがとう。今から読みたいからもう出て行ってちょうだい。」
「畏まりました。部屋へお戻りの際は声をおかけください。では、失礼いたします。」

 敬礼をしハンスがロビーから退室した。


「ハンスが持ってきた本はどう?カオリンの役に立ちそう?」
「勿論よ!彼はかなり古い文献の写しまで持ってきてくれたわ!早速今から解読を開始するわよ!」

 カオリンは凄く嬉しそうにしている。この様子だと寝食を忘れて没頭しそう。
 ロビーに持ってきてもらって正解かも。

「カオリンの気持ちはわかるけど、明日は訓練場に行ったら初めて外に出るんだし、今日はゆっくり休んだら?」
「いいえ!目の前にあるのにじっとなんてしていられないわ!」
「やるなとは言わないけど、気付いたら朝ってことになりそうで心配だなぁ。」

 夢中になってしまうのが容易に想像できる。
 なんて言おうか迷っていると、麗が口を開いた。

「私もそんな気がする。だから私が香織さんとここに残る。私も内容気になるし手伝いたい。香織さんは私が声をかけたらもう寝る時間だって諦めて中断してもらう。それでどう?」
「麗ちゃんが手伝ってくれるなら捗りそうだわ!よろしくね!」
「はい!」

 麗ナイス!

「私も手伝いたいけど、何か手伝えそうなことある?」
「いいえ、麗ちゃんと2人で大丈夫よ。」
「香織さん、俺が手伝う。麗は制御やってほしい。掴みかけてる感じがする。忘れないうちに反復した方が良い。」

 金谷さんが麗の制御を見てくれているから今が大切な時だとカオリンに進言する。

「……そうね。その方が良いわ。麗ちゃん、折角の申し出なんだけれど、本格的に制御ができるまではそっちに集中してほしいわ。」
「……わかりました。」
「麗もロビーでやって。迷ったら俺に質問。」
「わかった。」
「じゃあ私達は邪魔にならないように部屋に戻るね。」

 私が居てもことある事にカオリンに質問しに行って邪魔するだけになるだろう。
 麗もここで制御をするなら、集中できるように会話は少ない方がいい。
 ちらりと絢音を見ると、かなり眠そうにしていた。

「絢音、部屋に戻って寝ようね。」

 無言で頷く絢音の手を引き部屋に誘導する。
 絢音の寝室に辿り着き、シャワーはどうするか聞くけど、眠いの1言。
 ならば寝た方が良い。
 ベッドに入らせて、お互いにお休みのキスをする。
 歌を歌う前に絢音は夢の中へ。
 よっぽど疲れていたんだろう。
 そっと部屋を後にする。

 絢音の部屋を出ると、あっくんが自分の部屋の扉の前で私が出てくるのを待っていた。

「どうしたの?」
「お休みを言ってなかったから待ってた。」
「寝る前にちょっと話があるんだけど、大丈夫?」
「いいよ。じゃあ入って。」

 あっくんはそう言い部屋に招き入れられた。

「大したことじゃないんだけど、そろそろ手合わせしたくて。明日の練習場で相手してくれない?」
「俺がしーちゃんの相手するの!?」
「そう。あっくんしか私の相手ができそうな人居ないから。」
「でもしーちゃんに掴みかかりにいくなんてそんなのできないよ!」
「ただの訓練だから。戦場行く前に調子取り戻したいだけだよ。あっくんだって勘は取り戻した方が良いんじゃない?」
「そんなのやらなくても俺がずっと一緒に居るよ!」
「いやいや!ずっと一緒はどう考えても無理でしょ?いざと言う時に備えておきたい。」
「でも危ないよ!」
「あっくんは私の相手がしたくないってこと?」
「しーちゃんに向かっていくなんて…」

 まさか断られると思わなかった。

「わかった。じゃあお休み。」
「ちょっ!待って!しーちゃんどうする気!?」
「あっくんは相手したくないんでしょ?ハンスに頼むから大丈夫だよ?」
「っっ!………………俺がやるよ!」
「でも今相手したくないって言「俺のがハンスより強い!そうでしょ!?ハンスに頼んだってしーちゃんのためにならないから俺がやる!」

 どう見ても無理してやろうとしてるよね?

「無理にやらなくてもいいよ?別の人に頼むだけだから。」
「俺がやる!!!俺のためにもなるし!!」
「うん……じゃあよろしくね。」

 私のこと考えてくれたのかな?
 確かにハンスと手合わせしたって勘が戻るとは思えないし。

「じゃあまた明日ね。お休み。」
「うん。お休み。」

 そう言い合い部屋に戻った。
 手早くシャワーを浴びすぐにベッドに潜り込むと睡魔が襲ってきた。



 翌朝、気持ち良く目が覚め、準備を整えロビーへ向かうとあっくんと絢音はもう席に着いていた。
 おはようの挨拶を交わしたあと、すぐに他のみんなも部屋から出てくる。

 それを見ていた絢音は

「やっとおねぇちゃんのおかおみれた。」

 と1言。

 絢音の言葉を受け、全員の視線が麗に注がれる。よく見れば確かに麗から魔力漏れがなくなっている。

「麗!おめでとう!」

 頑張っていたのは知っている。
 麗が制御をモノにして嬉しくなった。

「やったな!おめでとう!」

 あっくんも拍手を送る。

「おめでとう!やったじゃーん!」

 優汰も素直に喜びを顕にする。
 金谷さんとカオリンは知っている表情。
 昨日の夜にできるようになったんだろう。

「やっとみんなに少し追いついた。」

 麗は安堵の表情を浮かべていた。

「操作の方はどう?」
「……多分イケると思う。練習場でやってみる。」
「凄いっ!じゃあ実践あるのみだね!」
「ふふっ。麗ちゃんは昨日の夜にできるようになったの!それからは本よりも風魔法について語ってしまったから解読は進まなかったわ。」
「いいのいいの!そりゃー話したくなるよ!」
「香織さん、自衛が何より大事だから何も間違っていませんよ。」
「金谷さんもありがとう!」
「俺はやれることやっただけ。」
「いいや、金谷さんにも感謝だ。間に合いそうで良かった。練習場でやってみよう。」

 あっくんも安堵を見せる。
 戦場に行くまでに少しでも不安材料は減らしたいもんね。



 みんなで手早く朝食を済ませ、各々できることをやっているとあっという間に昼食だ。
 練習場に向かうためにロビーを出ると

「皆様制御ができるようになったのですね。おめでとうございます。」

 と、ラルフに声をかけられた。

「ああ。その件で皇帝に確認したいこともある。明日、皇帝を呼び出してくれ。それと、練習場の使用が終わったら全員で優汰の畑を見に行くからそのつもりでいてくれ。」
「畏まりました。」

 そういえば皇帝はランダムにここに来るっていう話だったけど、1回しか来てないよね?
 それとも私が知らないだけで来てんの?
 あっくんが気にしてる様子もないから秘密裏にでも来てるんだろう。


 いつも通りに練習場へ向かい、到着すると早速麗に魔法を使ってもらうことになった。
 カオリンという見本がいるおかげか、カオリンほどではなくても麗も同じようなことはできた。
 ただし、まだかなり集中しないとすぐに風は止んでしまうみたいだった。
 操作はみんな毎日やってくれているから、麗もこれから操作を頑張ればカオリンと同じように使えるはず。
 どれだけできるかの確認をした後は反復練習。
 その後、みんなから許可をもらいあっくんと手合わせを行う。

 が、全く意味のない手合わせだ。
 肝心のあっくんが手加減なんて軽いものではないくらいのヘナチョコで相手をしてきたから。

 










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...