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第223話 side亜門と皇帝②
しおりを挟む「我等の国では宗教は深く根付いているのだ。どちらがより上かなどという安易な言葉ではくくれない。」
「根深いほどにそちらに傾倒していくからな。信仰が強い者達ほど神殿の方を尊重する。そんなとこか?」
「そうだ。私が危惧しているのは辺境よりも神殿だ。反乱を起こされれば共倒れは確実。それは神殿も理解しておる。だからこそ共存関係でいられるのだ。」
「皇帝とギュンターの宗教観はどうなんだ?」
「私とギュンターは神など信じてはおらん。口外はせぬように頼む。」
それを口にできるということは、本当に信仰心は無いとみていいな。
「俺だって馬鹿じゃねぇ。それをバラせばどうなるかくらいわかる。俺も神など信じていないしな。じゃあ神などいない前提で話せるな。皇帝は信仰を利用してんだろ?特に平民は力を持たない。救いがなければ踏ん張れない。どれくらい平民達から搾取しているのか知らねぇが、いくら力がなかろうと数で攻め入れられればそれもまた共倒れだ。現在皇帝は統率のため、神殿は主には金集めのため、お互いがお互いを利用して成り立ってる……合ってるか?」
どこの世界でも同じようなもんなんだな。
「そこまで理解しておるのか……ではわかるであろう?地球人達が神殿に連れて行かれれば、神殿は神を手にしたも同然と勘違いする。地球人は魔法の力も半端なものではない。神殿と我等の争いに発展するのは時間の問題だ。人と人とが争っている場合などではないというに…」
「まあ、当然そうなるわな。」
「川端殿、あの神を見たという報告は一体どうなっておるのだ?」
「護衛達は信仰が深い者もいるんだろう?アレを見た護衛が神だと言うのも仕方がないとは思う。人間は、およそ理解の及ばないモノは排除にかかるか神と崇めるかの2択だろう?」
「古角殿の剣幕が凄まじかったのでな、あの場であれ以上の追求はできなかったが……ではやはり、神ではない、と?」
幽霊という単語が通じるかわからないな。
わかりやすく説明するしかないか…
「少なくとも俺達は絶対に神ではないと思っている。そもそも神とは人間が作り出した思想の1つ。それだけのはずだ。これだけ根付くのはそれだけ救いを求める人間がいるから。仮に、実際に神が存在するとしようか?香織さんの言い回しを使うなら、天上の存在が個を贔屓するために態々姿を見せるかということだ。それはつまり、エゴだろう?エゴとは人間が持つ最も汚く傲慢な部分だ。人それぞれ想像する神は違うと思うが、そんな人間のようなエゴを持つ神がいたとして、神として本当に崇められるのか?地球人の意見はNO。つまり認めない。神ではない。そんな神がいてたまるか。人間の枠に当てはめ考えようなんざそれこそ傲慢。との判断だ。」
「なんという合理的な…」
合理的に話しているんだから当然だ。
「誰においても救いは必要だ。存在すると信じ救われると信じ、前へ進めるのならそれは必要だ。だがあれは思考が人間のそれだったように感じた。魔法具に姿を投影できるような物は現存しないのか?」
「こちらの誰かの仕業だと思っているのか!?」
立ち上がり、俺を非難するような視線を向けてくる皇帝。
「これだけ宗教が根付いてるんだ。皇帝もそれを利用している。ではそれを地球人にもしようとは思わないのか?地球人だって同じように信仰心を持っていると考えても何らおかしくはない。およそ信じられないような姿で現れたら地球人はアレを神だと思わないのか?もしも信仰心を持ち、アレを神だと思えば、後はもうその神の言いなりだろう?最高のコマの出来上がりだな。」
「川端様!ここにそのような魔法具は存在しません!」
ギュンターが力一杯否定をする。
が、その言葉を間に受けるほど愚かなつもりはない。
「違うな。現存しないだけで過去あったかもしれない。現存し、それを秘密裏に所有している者がいないとも限らない。お前らが、神殿が隠していてもわからない。」
「そんなっ!そんなことを仰られては証明する手立てがございません!!」
「何故、俺達だったんだ?」
「はい?」
「現在の日本は個人差はあれど信仰心が極めて薄い。どんな理由があっての俺達8人なんだ?」
「それは……不明、です。」
急激にそれまでの避難の色を失い、視線を落とすギュンター。
「お前らはいつもそれだ。都合が悪くなると全て“失われた技術だから不明”と言うのみ。俺は常々疑問だった。何故俺達8人が選ばれたのかと。地球には様々な国や人種がいた。だが俺達が暮らしていた小さな島国の日本という国から8人全員が呼ばれている。どう考えてもおかしいだろ?ここの世界の奴らは地球人をなんとかモノにして子を作らせようと血眼だ。それなら尚のこと人種は違った方が良いだろ?」
皇帝もギュンターも俯き、俺と目を合わせようとはしない。
だが俺は疑問を投げ続ける。
「更に疑問なのは人数だ。沢山呼べば呼ぶほどに可能性は高くなる。個で動くやつも出てくる。敬われ媚を売られチヤホヤされるのが好きな人間だっている。贅沢な暮らしを好む者もな。たったの8人では俺達のように力を持ち徒党を組まれたら終わりだろう?少数を力でねじ伏せようとでもしていたか?それにしたってシューさんのような人生を半分以上生きた子を作る機能が残るかも不明な人間が選ばれるのはおかしい。子を作る為なら全員が若い男の方が都合が良いだろう?それなのに女も混じっている。一体何がしたい?」
暫く待っても答えは返ってこない。
「黙りか?なら質問を変える。ここに俺達を呼ぶために少なくない犠牲を払ったと言っていたな。どれ程の被害を出した?」
「……………………112人です。」
長い沈黙の末に出てきた数字に戸惑った。
「は?ちょっと待て……それはなんの人数だ?」
「……魔法陣を起動させるために、犠牲になった人数です。」
呆気に取られた。
その後襲いくる激しい怒り。
「……たったの8人を呼び出すために……何もわかんねぇ魔法陣を使うためにそんな大勢を生贄にしたっていうのか!!!」
怒りで握りこんだ拳がワナワナと震える。
「私共でもそこまでの被害が出るとは思っていなかったのです!」
「死ぬのがわかってはいたんだろうが!本人達も犠牲を覚悟してのことなんだろうな!?」
「本人達は何も知らぬ。年老いたり怪我をし戦闘に赴けなくなった下位貴族達だ。」
下位貴族なら犠牲にしても良いような言い草に益々怒りのボルテージが上がっていく。
「ふざけんじゃねーぞ!!!!」
「では川端殿ならどうする?貴族達は有事の際、国や民の為に犠牲になる盾であるからこそ貴族であるのだ。」
「だから事情も何も説明せずに犠牲にしても良いって言うのか!?」
「説明したところで要らぬ混乱を生むだけだろう。背に腹はかえられぬ。」
「じゃあ上位の貴族達はどうなんだ!?何の犠牲も払ってねぇじゃねぇか!!」
「上位はいなくては困るのだ。魔物を倒す力が無くなれば国そのものを失ってしまう。」
「どこまでも上位に有利になってんだな!!」
反吐が出る!
しーちゃんが言った通りだ!
こんな国は足掻きながら勝手に滅びろ!
俺達を巻き込みやがって!
……だがこのまま怒り狂っていても死んだ人間は返ってこない。
俺達が地球に帰れるわけでもない。
それに質問の答えを聞いていない。
怒りを抑え落ち着くように深呼吸をする。
「それで?そこまでの犠牲を払った価値はあったか?」
「あった。成さなければならないことであったのだ。」
「たったの8人を呼ぶことがそんなにしなければならないことか?」
「そうだ。」
「何故だ?」
「地球人の皆の魔力量は一目瞭然であろう。そんな魔力量を持つ人間はここには誰1人おらぬ。」
「理由になってねぇな。今現在魔物に逼迫していないんだ。俺を馬鹿にしてんのか?」
語尾を強めて言った俺の言葉に
...…なんだ?
一瞬皇帝の目が泳いだような…
まさか俺達を呼び出したのは失敗だった?
失敗したから8人しか来なかった?
もしそうだとしたら失敗だったなんて俺達に言える訳がない。
もっと大人数を呼び出そうとしての失敗ならこっちの世界で犠牲が多いのも筋は通る。
もし……失敗だとしたら…
俺達8人以外の呼び出しに失敗された地球人達は?
あの呼び出した魔法陣……あの中に俺達8人以外の地球人達はいたのか?
いたとして、死んでいなかったか?
いなかったとしたら地球で無事に生きているのか?
……記憶がねぇぞチキショー!!
こんなことに巻き込まれてこっちでは100人以上が死んでるんだ、生きている可能性なんてほぼない!
どうやって皇帝の口を割らせる!?
皇帝はもう以前の皇帝ではない。
腹を決めたんだ。
それに前の皇帝だったとしてもやるべきことはやっていた。だからこそ苦しみ抜いたとしても苦渋の決断も実行したんだろう。
……待てよ。失敗なら呼び出した価値があったと言うか?
やらなければならなかったのは何故だ?
地球人を呼び出した価値は?
皇帝達の負担ばかりで今の俺達の価値なんてないだろう?
これからの行動で返してもらえると皮算用してのことか?
いいや、そこまで考えが足りないとはとても思えない。
……もし俺達が何の力も手にしていなかったらこの状況はなかったはず。
魔法をモノにできなかったとしても種馬、孕み腹としては使える。
有用性があるから殺さずに生かした。
ただそれだけのことだ。
血を薄めるなんてのは一過性のことに過ぎないだろう?
それだけのことに大勢を犠牲にする価値なんて本当にあるのか?
それだけのために俺達はここに連れ去られたのか?
それだけのため、に…………
それだけ…
それだけ?
それだけ??
地球人はそれだけ?
そうだ、それだけだ!
優位に立っているせいで気が付かなかったが、俺達に暴れられたら困るのはコイツらだ。
どう足掻いても皇帝達には勝ち目がない。
そうでなければ四肢でも何でも切り落として子を作る道具扱いされてお終いだ。
だからこそ必死に機嫌をとり、取り引きを成功させ、優位に立たせた気にさせてなんとか抑えている状況。
俺達はただの副産物で魔法陣の起動は本来別の意図があって使われた?
それとも俺達が主産物で副産物の別物は既に手にしているのか?
魔法陣起動の狙いが俺達だけではないならば、全ての事に納得がいく。
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