水と言霊と

みぃうめ

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第255話    反省と外スラム

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 部屋に入り、あっくんと2人で話し合いをする。
 外の護衛に聴かれないように声を抑えて話しかけた。


 あっくんは自分の感情を抑えられなかった。
 辺境の人達の対応に腹を立てた。

 それだけのこと…

 でも、それだけのことがこんなにも大きい。



 やっぱりあっくんの怒りは計画的ではなく、話せば話すほど短絡的に自分の怒りに任せて怒鳴っていただけだったことがわかった。
 私の話を少しも聞いてくれなかった。
 それどころかあっくんの声はどんどん大きくなり怒りは膨れ上がる一方だった。

 私だって子供達が外から逃げてきたのを見た時は、子供達を危険に晒すなんてって許せない気持ちが込み上げてきた。
 でも、子供達が楽しそうにここで遊んでいたのも事実だ。
 食べる物も着る物も困ってる様子がない。
 大人と一緒に仕事をするよう労働力として扱き使われるでもなく、遊ぶことを許される環境。
 暮らしに余裕がなければ遊ぶ時間も気力もないはずなんだ。

 あっくんが言っていたのはたった1つ。
 “弱い者を守る”だった。
 只管ひたすらにそれだけを言っていた。

 ショックだった。
 私はずっと、あっくんと、残してきたみんなと、対等だと思ってた。
 外に出て魔物と戦うのも、残って研究してもらうのも、お互い足りない分を補って支え合おうってことだと思ってた。
 あっくんは違うの?
 あっくんはよく私を守りたいって言ってたけど、あれはお互いに守り合おうって意味じゃなく“守ってあげる”って意味だったの?
 どれだけあっくんより強くても、どこまでいっても私は守られる存在なの?

 一女だから一
 ただそれだけで対等に見てもらえない。
 これからも女というだけで何の考慮もされないまま理不尽に下に見続けられるのか…
 それは私の父親や元旦那と何が違うのか…
 そう考えたら瞬間的に大声が出てしまった。
 吐き捨てるように言いたいことを言って部屋を出てきたけど、今1人で冷静になって気がついた。
 私も感情で動いてしまったことを。

 あっくんのことあーだこーだ言える立場じゃない。
 あっくんにも冷静になる時間が必要なだけかもしれない。
 守るって言葉もただ力の無い弱い人のことを指していただけかもしれない。
 あっくんと同じように腹を立てていたら駄目なのに、少しも俯瞰で見ることができていなかった。

 辺境の現状を見極めて、短時間でより良くなる意見を出さないと私達の有益性を示せない。
 感情論は必要ない。
 ここに来た意味を思い出せ。

 あっくんのことは様子見するしかない。
 話ができるようになってくれれば意見を出し合える。
 でもこのままあっくんの怒りが収まらないなら私1人で動かないといけない。


 まずは情報収集しなくちゃ。
 俯瞰を忘れずに…
 感情に支配されないように…
 呼吸を整え、部屋の外にいるハンスに声をかける。
 外にはハンスとニルスがいた。
 頼んだ物の準備も整えられている。
 食事はどうするか聞かれ、食べる気がしなくて断りを入れ、ハンスを部屋に招き入れようとした。

「今から竹トンボ一緒に作って。作りながら辺境のこと聞かせてほしい。」
「それは構いませんが、部屋に2人きりは……よろしいのですか?」
「ハンスは下心ないでしょ?例えあったとしても私に勝てると思う?」
「ははっ!では失礼いたしますね。」
「邪魔だから前髪だけ先に切るね。」

 そう言い、ハンスと2人で部屋に入ってすぐに受け取った鋏で眉毛の上辺りで適当に前髪を切って終了。
 ハンスに鋏を返すと、何とも言えない顔をされた。

「どしたの?」
「あ、いいえ……随分大胆だなと思いまして。」
「いつもこんなもんだから。それより私の竹トンボ作りを見て覚えて真似して作ってみてくれる?」
「わからない所は質問をしても?」
「勿論。大事な部分は教えるから大丈夫。」
「畏まりました。」

 節を切り落とされた竹を1つ手に取り縦に立たせ、ナイフを食い込ませてから、薪割りの要領で床に竹の底を叩きつける。
 繊維に沿って簡単に割れるのでそれを繰り返して部品を作る。

「重要なのはこっちの羽になる方。とりあえず1つ作るから見てて。」
「はい。」
「作りながら辺境の話を聞きたいの。」
「何でもお答えします。」

 私は竹トンボの羽になる部分を削いでいきながら質問をする。

「外に住んでる人達は、強制されてあそこに住んでるわけじゃないんだよね?」
「はい。辺境では何かを強制されることはありません。皆、選択肢がある中で外に住むことを選んだ者達です。」

 やっぱり、何か理由があるんだ…

「外に住むことの有益性は?」
「外に繋がる門は各辺境に1箇所のみです。どこから魔物が来るか不明なのです。外に人間がいなければ魔物は塀に向かって一直線に進んで来ます。広大なこの国を囲む塀を、東西南北の各門1つで守ることを可能にしているのが外に住んでいる者達の存在なのです。」
「つまり、囮?」
「そうなります。」
「じゃあ門の隣に小さな扉が左右にあるのは、魔物がどっちから来るかの確認のためってことだよね?住んでる場所は門に対して左右対称に2箇所にあるってこと?」
「そうです。」
「その暮らしを、強制ではなく、選ぶの?命の危険があるのに?」
「外に住む者達の益も勿論あります。税金の免除、食料や衣類の配布、加えて外で採取される物も高額で買い取りされます。」
「私が気になってるのは外で暮らしてる人達の死亡率。どうなってるの?」
「年に、3人いるかどうかですね。」

 それを聞き、驚きで竹を削いでいる手が止まった。
 いつ魔物の襲撃があるかわからないのにいくらなんでも少な過ぎると思う。
 顔を上げハンスの目を見る。

「そんなに少ないの?」
「はい。辺境では外に住む者達はとても重要です。紫愛様もご覧になったと思いますが、より門に近い方に子達が住んでいます。森からの合図があれば、それを聞いた身軽な子達は1番初めにこちらに走って逃げてきます。塀の上からも常に監視しておりますので、その姿を確認したら塀の上からもこちらに合図がなされます。塀の内側でも常に出陣できるよう待機しておりますので、塀の上からの合図を受け、辺境の騎士達はすぐさま出て行けるよう騎乗します。子達が森から聞いた合図が魔物なのかただの動物なのかは、笛で判断しております。子達がここに到着し、笛を吹けば魔物です。」

 だから子供達は笛を吹いてたんだ。
 そんなに死亡率が少ないなら、かなり考えて徹底して外の人達を守っているということ。

「辺境を守るための要なのね。」
「はい。」
「魔物が出たら全員がここに避難してくるの?」
「いいえ。足が不自由な者や年嵩の者もおります。そのような者達は外の敷地の中央に頑丈な建物がありますので、そこに逃げ込みます。」
「その自力で逃げられない人達は危険じゃないの?」
「それも覚悟の上で外で暮らしているのです。危険な時に敢えて外に残り、自分達が1箇所に集まり囮になることで動ける者達を逃がすのです。」

 なんという覚悟なのか…
 自らの犠牲も厭わず他者を助けるなんて…

「その人達が中で暮らしたいって言ったら中に入れてもらえるの?」
「勿論です。ですが、殆どの者は中で暮らすことを嫌がりますし、例え中で暮らすことを選択しても結局外に戻る者達が圧倒的に多いです。」
「それはどうしてかわかる?」
「はい。外の者達は、自分達が辺境を守っているんだという自負がとても強いのです。当然、子にもその教えを説きます。加えて税金や仕事の心配もなく、それぞれができることをして支え合って暮らしています。そのような者達が中で暮らすことを望み、中に入ったらどうなると思いますか?自らに合った仕事が見つかれば良いですが、そうでない者は?外では仕事という仕事はないのですよ?言うなれば、外で暮らすことが仕事になっているのです。仕事にありつくことができなければ生活はできません。仕事がない、税が払えない、家賃が払えない、食べる物がない……そうなれば行き着く先はスラムなのです。外の者達が1番嫌がるスラムで生活することになるのです。」

 スラム!?

「ちょっと待って!スラムがあるっていうのは聞いてたけど、それって外のことじゃなかったの!?」

 まさかの展開だ。













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