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第265話 竹トンボで遊ぼう!
しおりを挟む子供達と遊ぶべく、大人達の仕事の邪魔にならないよう人気のない広場の端の方に来た。
遊ぶ前にルールを決めないと!
ハンスに持ってもらっていた竹トンボを1つ渡してもらい、子供達に見せる。
「お姉ちゃんみんなで遊べるように玩具作ってきたの!これは竹トンボって言うんだよ!とっても楽しいと思うんだけど、これで遊ぶには絶対守ってほしい約束があるの。守ってくれないと竹トンボで遊ぶのはできなくなるから、お姉ちゃんとの約束守れる?」
「やくそくってどんな?」
「竹トンボは、みんながここに避難してきた時、特別に塀の中だけで遊べる玩具。危ないから塀の外では絶対竹トンボで遊ばないって約束してほしいの。」
「それだけ?」
「どうしてあぶないの?」
「夢中になって遊んで、もし魔物に気がつくのが遅れちゃったら?逃げるのが遅れちゃったら?危なくない?」
「そんなにむちゅうになることなんてある?」
「そんなたのしいおもちゃなんてないよね?」
「ぼくたち外であそぶことなんてないよ?」
「そーそー!外であそぶのはあぶないから!やくそうとりに行くおてつだいも大人の人と行ってるんだよ!」
警戒は怠っていないよう。
それでも、楽しければ外でも遊びたくなってしまうかもしれない。子供の悪知恵は侮れないのだ。
「そっかぁ!じゃあお姉ちゃんと約束できる?」
「それだけなんでしょ?かんたんだよ!」
「早くあそぼーよー!」
「ちゃんと約束してくれないと遊べないなぁ。お姉ちゃんみんなに怪我してほしくないもん。」
「ぼくやくそくするよ!」
「ぼくだって!」
「ぼくも!」
「わたしもやくそくする!」
「やくそくしないなんて言ってないだろ!ぼくだってやくそくくらいまもれる!!」
「うん!みんな良い子だね!お姉ちゃんと約束だね!じゃあ早速竹トンボで遊ぼう!これはねぇ、空に飛ばして遊ぶんだよ!お姉ちゃんがお手本見せるからね!」
空に飛ばすという私の言葉に、子供達の表情は困惑。
何言ってんだコイツ、っていう馬鹿にしたような表情を浮かべる子もいた。
そりゃそうか。
竹トンボって見た目はただのTの文字に組んである竹の板と棒なんだから。
ハンスに見せた時のように、両手で竹トンボを挟み、軽く前に押し出すように手の平を擦り合わせる。
竹トンボは小さな風切り音を出しながら空へ飛んでいった。
「とんだ!!!」
「すっげー!!!」
「なんでとんだの!?」
子供達から口々に歓声が上がる。
竹トンボはそこまで遠くに飛んで行かず、近くに落下した。
「こうやって遊ぶんだよ!だけどね、これどこに飛んで行くかわからないんだよね……あはは!だから面白いんだけど!どうかな?遊べそう??」
「やりたいっ!やらせて!」
「ずるいぞ!ぼくがさきにやるんだ!」
「わたしもやりたい!」
「ぼくがさきだ!!」
「はいはい喧嘩しない!5個作ってきたからみんなで遊べるよ!でもさぁ、みんなで一斉に飛ばしたら誰がどこに飛ばしたかわからなくなるよ?まずはみんなで上手に飛ばせるように練習しない?」
「する!!」
「とばすのってむずかしいの?」
「ちょっと練習すれば誰にでもできるよ!」
「お姉ちゃんおしえて!」
「もちろん!みんなでやろうね!」
そうして子供達は竹トンボに夢中になった。
みんなすぐにコツを掴んで上手に飛ばせるようになり、順番に飛ばして竹トンボを追いかける。
途中まではとても楽しかったけど、大問題が起こってしまった。
そう、竹トンボはどこに飛んで行くかわからない。
子供が飛ばした竹トンボが大人が作業している所に飛び込んでいってしまい、大目玉を食らってしまったのだ。
「おいっ!お前ら何やってんだ!!!ちょっとここに来て座れっ!!!」
「すみません!」
謝りながら走り寄る。
子供達は無言で正座だ。
私もそれに倣い正座する。
「お前年上だろ!?お前が止めないで何やってんだ!?」
竹トンボで一緒に遊んでいた子供達はみんな10歳前後の見た目。
間違いなく私に向かって怒っている。
「邪魔してすみませんでした!」
正座のまま頭を下げて謝罪する。
「仕事の邪魔してんじゃねーぞ!!!その玩具で遊ぶのは禁止だっ!!!わかったな!?」
「……はい。」
「わかったなら行ってよし!!!」
素早く立ち上がり子供達と共に逃げる様にその場を立ち去った。
ネチネチ怒る人じゃなくて良かった!
でも、折角楽しく遊んでたのに最悪な気分で遊びに幕を閉じる展開になってしまい、子供達に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
竹トンボではもう遊べないし…
私は子供達にどう謝ればいいのかと考えていると
「あーあ、おこられちゃったね。」
「きんしにすることないのに!」
「そうだよ!今までこんなにたのしいおもちゃなかったのに!」
「もう竹とんぼであそべないのかぁー。」
「もっとあそびたかったね。」
と、子供達同士で話し始めた。
私に対する恨み言は1つも出てこない。
「みんなごめんね。」
「お姉ちゃんのせいじゃないよ!」
「竹とんぼとってもたのしかった!」
「もっとあそびたかったね!」
「ほかのことしてあそぼうよ!」
みんな、本当に良い子達だ。
「いつも何して遊んでるの?」
「おいかけっこ、かな。かくれんぼもやってたけど、ここだとじゃまだっておこられたから…」
そうだよね、初めて会った時も追いかけっこして遊んでたもん。
邪魔にならないで遊べるものかぁー。
氷鬼?だるまさんがころんだ?
2つとも追いかけっこには違いないよね…
ベーゴマ、は、駒がないし、木で駒を作るのは時間がかかる。個数も用意するのに時間がかかる。一緒に遊ぼうと思ってるのに時間がかかるのはちがう。
おままごとなんて男の子は楽しくないだろう。
今まで遊んだことのない新しい遊びの提案がないと喜んではくれないよね?
うーん………
あっ!竹馬は!?
竹馬ならすぐ作れるし危なくもない!
それに何より目新しいだろう!
「お姉ちゃん明日また新しい玩具作ってくるよ!」
「ぼくたち明日あさごはんたべたら家にかえるよ?」
「えっ!?もう!?」
「そうだよー!お姉ちゃんはいつまでここにいるの?」
「お姉ちゃんは2週間くらい、かなぁ。」
「またまものくると思うし、そしたらぼくたちもここにひなんするからさ。そのときまたあそんでよ!」
「わかった。それまでに作っておくから!楽しみにしててね!」
「やったー!!つぎはどんなおもちゃだろーね?」
「たのしみだねぇ!」
「紫愛様、1度お部屋に戻りませんか?」
「そうだね。あっくん置いてきたし、そろそろ戻った方が良いかも。」
私を探しに外に出てこられてまた雰囲気が悪くなるのは嫌だ。
「じゃあまたね!」
「お姉ちゃん!こんどまたあそんでよ!ぜったいだからね!」
「うん!約束ね!」
「「「「「「やくそくぅ!!」」」」」
そう言って子供達と別れた。
※
子達と一緒になって遊ぶ紫愛様を少し距離をとりながら見守る。
紫愛様は辺境の忌憚のない現状の意見とその把握に努めていらっしゃる。
女子が強いのは何処へ行っても変わらない。
紫愛様は子の扱いがお上手だ。
子と仲良くなれば必然的に母親とも打ち解けられる。それも目論見のうちなのだろう。
そうなれば紫愛様が知りたいことを聞けるきっかけになる。
子達と一緒に叱られ謝罪をするその姿勢に感服した。
自身の見た目の幼ささえ利用し、すっかり馴染んでいる。
どれだけ考え動いていらっしゃるのか、どれほど頭が良いのか…
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