水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
265 / 346

第265話    竹トンボで遊ぼう!

しおりを挟む



 子供達と遊ぶべく、大人達の仕事の邪魔にならないよう人気のない広場の端の方に来た。

 遊ぶ前にルールを決めないと!
 ハンスに持ってもらっていた竹トンボを1つ渡してもらい、子供達に見せる。

「お姉ちゃんみんなで遊べるように玩具作ってきたの!これは竹トンボって言うんだよ!とっても楽しいと思うんだけど、これで遊ぶには絶対守ってほしい約束があるの。守ってくれないと竹トンボで遊ぶのはできなくなるから、お姉ちゃんとの約束守れる?」
「やくそくってどんな?」
「竹トンボは、みんながここに避難してきた時、特別に塀の中だけで遊べる玩具。危ないから塀の外では絶対竹トンボで遊ばないって約束してほしいの。」
「それだけ?」
「どうしてあぶないの?」
「夢中になって遊んで、もし魔物に気がつくのが遅れちゃったら?逃げるのが遅れちゃったら?危なくない?」
「そんなにむちゅうになることなんてある?」
「そんなたのしいおもちゃなんてないよね?」
「ぼくたち外であそぶことなんてないよ?」
「そーそー!外であそぶのはあぶないから!やくそうとりに行くおてつだいも大人の人と行ってるんだよ!」

 警戒は怠っていないよう。
 それでも、楽しければ外でも遊びたくなってしまうかもしれない。子供の悪知恵は侮れないのだ。

「そっかぁ!じゃあお姉ちゃんと約束できる?」
「それだけなんでしょ?かんたんだよ!」
「早くあそぼーよー!」
「ちゃんと約束してくれないと遊べないなぁ。お姉ちゃんみんなに怪我してほしくないもん。」
「ぼくやくそくするよ!」
「ぼくだって!」
「ぼくも!」
「わたしもやくそくする!」
「やくそくしないなんて言ってないだろ!ぼくだってやくそくくらいまもれる!!」
「うん!みんな良い子だね!お姉ちゃんと約束だね!じゃあ早速竹トンボで遊ぼう!これはねぇ、空に飛ばして遊ぶんだよ!お姉ちゃんがお手本見せるからね!」

 空に飛ばすという私の言葉に、子供達の表情は困惑。
 何言ってんだコイツ、っていう馬鹿にしたような表情を浮かべる子もいた。
 そりゃそうか。
 竹トンボって見た目はただのTの文字に組んである竹の板と棒なんだから。
 ハンスに見せた時のように、両手で竹トンボを挟み、軽く前に押し出すように手の平を擦り合わせる。
 竹トンボは小さな風切り音を出しながら空へ飛んでいった。

「とんだ!!!」
「すっげー!!!」
「なんでとんだの!?」

 子供達から口々に歓声が上がる。
 竹トンボはそこまで遠くに飛んで行かず、近くに落下した。

「こうやって遊ぶんだよ!だけどね、これどこに飛んで行くかわからないんだよね……あはは!だから面白いんだけど!どうかな?遊べそう??」
「やりたいっ!やらせて!」
「ずるいぞ!ぼくがさきにやるんだ!」
「わたしもやりたい!」
「ぼくがさきだ!!」
「はいはい喧嘩しない!5個作ってきたからみんなで遊べるよ!でもさぁ、みんなで一斉に飛ばしたら誰がどこに飛ばしたかわからなくなるよ?まずはみんなで上手に飛ばせるように練習しない?」
「する!!」
「とばすのってむずかしいの?」
「ちょっと練習すれば誰にでもできるよ!」
「お姉ちゃんおしえて!」
「もちろん!みんなでやろうね!」

 そうして子供達は竹トンボに夢中になった。
 みんなすぐにコツを掴んで上手に飛ばせるようになり、順番に飛ばして竹トンボを追いかける。
 途中まではとても楽しかったけど、大問題が起こってしまった。

 そう、竹トンボはどこに飛んで行くかわからない。
 子供が飛ばした竹トンボが大人が作業している所に飛び込んでいってしまい、大目玉を食らってしまったのだ。

「おいっ!お前ら何やってんだ!!!ちょっとここに来て座れっ!!!」
「すみません!」

 謝りながら走り寄る。
 子供達は無言で正座だ。
 私もそれに倣い正座する。

「お前年上だろ!?お前が止めないで何やってんだ!?」

 竹トンボで一緒に遊んでいた子供達はみんな10歳前後の見た目。
 間違いなく私に向かって怒っている。

「邪魔してすみませんでした!」

 正座のまま頭を下げて謝罪する。

「仕事の邪魔してんじゃねーぞ!!!その玩具で遊ぶのは禁止だっ!!!わかったな!?」
「……はい。」
「わかったなら行ってよし!!!」

 素早く立ち上がり子供達と共に逃げる様にその場を立ち去った。

 ネチネチ怒る人じゃなくて良かった!
 でも、折角楽しく遊んでたのに最悪な気分で遊びに幕を閉じる展開になってしまい、子供達に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 竹トンボではもう遊べないし…
 私は子供達にどう謝ればいいのかと考えていると

「あーあ、おこられちゃったね。」
「きんしにすることないのに!」
「そうだよ!今までこんなにたのしいおもちゃなかったのに!」
「もう竹とんぼであそべないのかぁー。」
「もっとあそびたかったね。」

 と、子供達同士で話し始めた。
 私に対する恨み言は1つも出てこない。

「みんなごめんね。」
「お姉ちゃんのせいじゃないよ!」
「竹とんぼとってもたのしかった!」
「もっとあそびたかったね!」
「ほかのことしてあそぼうよ!」

 みんな、本当に良い子達だ。

「いつも何して遊んでるの?」
「おいかけっこ、かな。かくれんぼもやってたけど、ここだとじゃまだっておこられたから…」

 そうだよね、初めて会った時も追いかけっこして遊んでたもん。
 邪魔にならないで遊べるものかぁー。
 氷鬼?だるまさんがころんだ?
 2つとも追いかけっこには違いないよね…
 ベーゴマ、は、駒がないし、木で駒を作るのは時間がかかる。個数も用意するのに時間がかかる。一緒に遊ぼうと思ってるのに時間がかかるのはちがう。
 おままごとなんて男の子は楽しくないだろう。
 今まで遊んだことのない新しい遊びの提案がないと喜んではくれないよね?
 うーん………

 あっ!竹馬は!?
 竹馬ならすぐ作れるし危なくもない!
 それに何より目新しいだろう!

「お姉ちゃん明日また新しい玩具作ってくるよ!」
「ぼくたち明日あさごはんたべたら家にかえるよ?」
「えっ!?もう!?」
「そうだよー!お姉ちゃんはいつまでここにいるの?」
「お姉ちゃんは2週間くらい、かなぁ。」
「またまものくると思うし、そしたらぼくたちもここにひなんするからさ。そのときまたあそんでよ!」
「わかった。それまでに作っておくから!楽しみにしててね!」
「やったー!!つぎはどんなおもちゃだろーね?」
「たのしみだねぇ!」
「紫愛様、1度お部屋に戻りませんか?」
「そうだね。あっくん置いてきたし、そろそろ戻った方が良いかも。」

 私を探しに外に出てこられてまた雰囲気が悪くなるのは嫌だ。

「じゃあまたね!」
「お姉ちゃん!こんどまたあそんでよ!ぜったいだからね!」
「うん!約束ね!」
「「「「「「やくそくぅ!!」」」」」

 そう言って子供達と別れた。



 ※

 子達と一緒になって遊ぶ紫愛様を少し距離をとりながら見守る。
 紫愛様は辺境の忌憚のない現状の意見とその把握に努めていらっしゃる。
 女子が強いのは何処へ行っても変わらない。
 紫愛様は子の扱いがお上手だ。
 子と仲良くなれば必然的に母親とも打ち解けられる。それも目論見のうちなのだろう。
 そうなれば紫愛様が知りたいことを聞けるきっかけになる。

 子達と一緒に叱られ謝罪をするその姿勢に感服した。
 自身の見た目の幼ささえ利用し、すっかり馴染んでいる。
 どれだけ考え動いていらっしゃるのか、どれほど頭が良いのか…
 こんな御方は初めてだ。
 俺の簡潔な説明にもすぐ理解を示し、己の利益度外視で先を見据え行動する。
 より良い意見を出そうと努める辺境の者達でも、目先の利益には抗えない。
 紫愛様達にとっては魔物と戦ってくださるだけで十分に地球人の利になるはずなのに、それで満足なされない。
 何より、気にかけるのはいつも子達。
 それは遥か先の未来を見据える行為だ。
 俺のように何十年もの先の未来を、自身が死んだ後の夢想をする人間などいないと思っていた。
 慈愛を持つ紫愛様だからこそ可能なのかもしれない。
 現状を正しく認識した後、紫愛様が何を提案してくださるのか楽しみで仕方がない。














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...