水と言霊と

みぃうめ

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第298話    ハンスの楽しみ

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 ハンスと竹馬製作後、部屋へと戻り昼食をとった。
 あっくんの部屋の前には相変わらずラルフがいて、部屋から出てきていないことが分かる。
 声はかけなかった。
 確約したのは夕食だけ。
 それに何より、辺境のことを話し合うのは躊躇われた。
 いつも辺境のことを話し合うと言い争いになってしまう。
 同じ事柄での意見の違いなら辺境のためになる意見も出てくるけれど、見ている方向が違うのだ。
 そのやり取りに少し、疲れてしまった。


 昼食はハンスと話しながらとることにした。
「そういえばラルフはまだいたね?
 もう騎士団はいいの?」
「私が此処に残れと指示を出しました。
 今後はラルフも此方におりますからご安心ください。」
「ニルスは休んでるんでしょ?
 ハンスはいつ休むの?」
「お気遣いをありがとうございます。
 ですが私は平気です。」
 その言い方…休まないつもり?
「ハンスも休みなさい。」
「いえ、私は「ハンス!」
「紫愛様のおそばを離れるわけには参りません。」
「明日はニルスについてもらうから平気。」
「嫌です。」
 子供のような台詞が意外だけど
「嫌って貴方……
 少しは自分以外の人間を信用しなさい!
 仕事をキッチリ割り振るのも上に立つ者の仕事でしょ?」
「信用はしております。
 ですが、私が紫愛様から離れたくないのです。」
「はあ?」

 意味不明である。

「紫愛様の発言に有益なモノがあったとしても、それを正しく拾えなければ意味がありません。
 ニルスを信用していないわけではありませんが、紫愛様と私のようなやり取りを出来るほど仲が深まっているとも思えません。」
「そりゃそうでしょ?
 ハンスが私から離れなかったらいつどこでどうやってニルスとの仲を深めろってのよ?
 明日はニルスについてもらう。」
「では夜の護衛はニルスと交代いたします。」
「却下。
 体調崩してからじゃ復帰に時間がかかる。
 迷惑。
 寝る時間すらないなんてどんなブラック会社も真っ青だっつーの!」
「譲れません!
 紫愛様の発言にどれ程の有益なモノが含まれているか、紫愛様ご自身もお気づきでしょう!?
 取りこぼしなどあってはならないのです!」
「ニルスにはそれが出来ないって?
 能力がないって?
 それは信用してないってことじゃないの?」
「ご理解ください。」
「無理。
 じゃあ私がほとんど寝ずに一週間も行動してたらハンスは心配しないの?
 休めって口酸っぱくして言うんじゃないの?
 それと同じだよ。
 私は譲らない。
 任せたら案外上手くやってくれるもんだよ。
 明日一日ニルスについてもらって、不足がないかどうかは私が判断する。」
「承服しかねます。」
「あのさぁ、こういうやり取り、あっくんとだけで十分なのよ。
 疲れる。
 私が言ってることってそんなに難しいこと?
 一日休めって言ってるだけでしょ?
 それに、下の者が育ってないのは上に立つハンスの手落ちでもあるよ?
 その皺寄せを私に引き受けろって?」
「申し訳ございません。
 明日1日休ませていただきます。」

 やっと引いてくれたよ!!!
 何で一日休むだけでこんな面倒なやり取りが必要なわけ!?
 休め、はい、これで終わりでしょうが!
 ハンスも思った以上に頑固だな。
 つい口調がキツくなっちゃったよ。
 ハンスっていつも仕事過多だよね。
 っていうより、それしかないって感じ?
 私にはたまに砕けた口調使うときもあるけど、それでも対応は徹底して丁寧だ。
 でも地球人以外には随分冷たい感じだし、周りもハンスに任せりゃなんとかしてくれるとか思ってんの?
 それとも仕事任せてもらえないって不満に思ってる?

「明日一日仕事しちゃ駄目だからね。」
 念には念を。
「それでは1日何をして過ごせばよろしいのでしょうか。」
「ゆっくり身体を休めてって言ったんだよ?
 休みの日いつも何してんの?
 ダラダラすりゃーいいんじゃないの?
 お酒でも飲む?
 それか、娼館にでも遊びに行く?
 …てかなんっっっで私がこんなこと言わなきゃいけないのよ!!!」
 休日の過ごし方なんて好きにしてくれよ!
「申し訳ありません。
 休日というものを過ごしたことがありませんので何をしたら良いか分かりませんでした。」
「え…騎士団てまさかのブラック顔負け!?
 休日返上サビ残当たり前なの!?」
「そのブラックというものが何かは分かりませんが、騎士団には休日はしっかりとありますよ。」
「じゃあ何で休日過ごしたことがないって言ったの!?」
「騎士の仕事がなければ…というより、騎士の仕事と並行して辺境のために動いておりますので、休日は比重が変化するだけでやることはあまり変わりません。」

 社畜だ。
 社畜が此処にいる。

「はぁぁぁぁー。
 ねぇ、もしかして辺境の人達ってみんなそうなの?」
「いいえ?恐らく私だけかと。」
「何で休まないの?」
「やることがありませんので。」
「ハンスって楽しいと思うこととかないの?」

 何よそのキョトンとした顔は!?
 まさか全くないの!?

「辺境のために動いてる時はどうなの?」
「日常です。」

 だぁかぁらぁー!そうじゃないって!

「つまらないってこと?」
「まぁ、はい。」
「何でつまらないか考えたことある?」
「ないです。
 紫愛様に指摘されるまで、自分がつまらないと思っていることすら気がついていませんでしたから。」
「重症じゃん!」
「せめて報告書の作成だけでもお許しいただけると助かります。」

 いやだからそれ休日返上!!!

「分かった。
 ハンスには明日、重要な任務を命ずる。」
 キリリと表情を引き締めハンスを射抜くように見つめると、ハンスも同じ表情を浮かべて見つめ返してきた。
「はい!何でしょうか!?」
「楽しいと思うことを見つけなさい!」

 何でまたキョトンとした顔すんのよ!!

「だから!楽しいと思えることがないか探すのよ!
 新しく見つけてもいいし!
 昔を思い返してもいいし!」

 それでもハンスは表情を変えない。
 ………まさか、楽しいと思ったことがない?

「ハンスさんや、楽しいと思ったことはあるのかね?」
「紫愛様の仰ることがよく分かりません。」
「ないんじゃないか!!!」

 とても信じられない。
 これじゃあ何のために生きてるか分からない!
 頑張る意味も意義も、本当の意味では無いってことじゃない!
 ……だからいつ死んでもいいくらいに思ってるってこと?
 だからこんなにも生に執着がないの?
 そうするのが当たり前だから?
 ハンスに強要されてる雰囲気はない。
 でもそれが当たり前として育てられたんだとしたら?
 ハンスの能力が高いが故に周りからの期待にも容易に応えられてしまう。
 そうなると、段々とそれが普通になってゆく。出来て当たり前だと。
 このままではいけない。
 少なくとも、生に執着がない状態は生物として反する。

「ハンスは大切だと思う事や人はいる?」
「辺境です。」
「違う、そうじゃなくて、ハンスの気持ちを聞いてるの。」
「辺境以外に、と言うことでしたらありません。」
 駄目か…
「えーーーと、う~~んと………
 ハンスが
 この時間が続けば良いのに、とか
 ずっと一緒にいたいな、とか
 離れたくないな、とか、そう思えるような事や人を見つけてほしいの。
 明日一日ゆっくり考えてみて。」
「畏まりました。」
「そういえばハンスも結婚してるよね?
 奥さんはどうしてるの?」
「皇帝陛下に事情をご説明の上、承認を得て極秘で離縁しております。」
「は?」
「あまりにも目に余りましたので。
 もう生きてはいないでしょう。」
「でも、じゃあハンスの子供は?」
「3人おりますよ。
 ですが確実だと思えるのは恐らく1番上の娘だけでしょうね。」
「それって…下の子二人は違うかもってこと?」
「そうでしょうね。」
「そんな淡々と言うこと!?」
「中央から来た馬鹿だったのですよ。
 元よりあまり期待はしておりませんでしたし、せめて子くらいは成してほしかったですが致し方ないでしょう。」
「でもそれじゃあハンスの子供は一人だけ?」
「他にも作れと言われております。
 ですが中央で色々と動き回っていて少々時間が足りませんでしたので、辺境へ戻ってからになるでしょうね。
 対外的には離縁は公表されておりませんから側室という形にはなりますが、あと3人はもうけないとなりませんので。」
「どうして?」
「ご存知ありませんか?
 貴族の結婚には4人の子の下限人数が設けられております。」
「はあ!!??知らないよそんなこと!!
 政略結婚なんだから子供が必要なのは分かるよ!
 だからと言って出来るかどうかも分からないのに四人!?」
「魔法が使えなければ国がなくなりますから。」
「ハンスは何とも思わないの?」
「はい。
 政略結婚とはそういうものでしょう?」

 あ、駄目だこれ。
 ハンスに聞いた私がバカだった。

「何でハンスは離縁出来たの?」
「皇帝と辺境伯家当主は対等だからですよ。
 あ、これは内密でお願いしますね?」
「じゃあラルフがあれだけ苦労したのは?」
「決まってるじゃありませんかぁ!」
「……次期当主じゃ、ない、から?」
「御名答!流石紫愛様ですね!」
 ニッコリ作り笑いをするハンス。


 ハンスが楽しい時って悪巧みしている時なんじゃないのかと、密かにそう思った。














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