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第334話 そぼろ丼
しおりを挟む4人で調理場へと訪れ、あっくんは染色作業に入る。
鍋にお湯を沸かしながら
「しーちゃんて赤紫が好き?青紫が好き?」
と、あっくんが聞いてきた。
私、紫が好きって言ったことあったっけ?
確かに名前は“紫を愛する”だし、私にとって紫は特別な色だけど…
「え……うーーーん……桔梗の色ってどっち?」
「しーちゃんは桔梗が好きなの?」
「うん。」
「中間か青が少し強めの印象だったと思うけど。」
「じゃあ中間で。」
「わかった。うまく色が入らなかったらごめんね。」
「私は何色でも良いよ?」
「やるだけやってみるよ。」
「じゃあ私はお米炊くね。」
「お願い。」
この前よりかなりお米を炊く水を少なめにして、目指すは丼物。
問題は丼の具材。
調味料がないと本当に難しい。
「ニルス、悪いんだけどちょっと薬草貰ってきてくれない?」
「どういった薬草をどれくらいの量お持ちしましょうか?」
「何が使えるかわからないから片手で握れるくらいの量で、種類はあるだけ欲しい。」
「畏まりました。」
ニルスが調理場を出て行く。
お米を火にかけながら隣でお湯を沸かし、今度はハンスにお願い事をする。
「ハンス、野菜の屑とか切れ端ってある?あと、鳥の骨。」
「そんな物を一体どうするのですか?」
「勿論料理に使うの。」
「野菜屑はこちらに。ですが骨は屠畜場にしかございません。」
「貰えない?」
「メイドに向かわせます。」
「両手で抱えられるくらいの量をお願い。」
「はい。」
ハンスは調理場の外でメイドに声を掛ける。
「しーちゃん、何か手伝うことある?」
「染色作業はもういいの?」
「放っておくだけだから大丈夫。」
「じゃあ豚肉をミンチにしてほしいんだけどできる?」
「細かくすればいいってこと?」
「うん。美味しくできるかわからないけど、そぼろ丼にしようかなと思って。」
「わかった。」
あっくんはブロックの豚肉を風魔法で浮かせ、空中に浮いているブロック肉にシュパンッと風魔法を当てたと思ったら
「できたよ。」
と1言。
「早すぎやしませんか!?」
一瞬じゃないか!
「これくらいならすぐだよ。これどこに置けばいい?」
「フライパンの中にお願い。」
米の様子を見守らねばならない段階になり
「あっくん、野菜の中で葱っぽいのがないか見てきてくれない?私はお米の火加減見てるから。」
「OK.」
薪の量の調整が終わると
「しーちゃん、葱と玉ねぎが合体したようなのがあったよ。これ使える?」
「……これは玉ねぎから芽が出ただけなのでは?」
「えっ!?そうなの!?」
「こりゃまた立派にお育ちで。」
「使えない?」
「使える使える!玉ねぎの芽に毒はないから大丈夫だよ。でも実の方は駄目かな。」
「これだけ成長してたらね…」
「これってここではどっち食べてるんだろ?ハンスは知ってる?」
「上に生えている方を食しています。」
「うん、じゃあ実は破棄しよう。」
コンコン
「失礼いたします。鳥の骨をお持ちしました…」
メイドが顔を引き攣らせながら大量に骨を持ってきた。
「ありがとう!」
「いえ……あの、これは本当に必要ヒィッ!しっ失礼いたしましたっ!!!」
メイドは何かに怯え一目散に退散。
メイドが見ていた方に目をやると、睨みを利かせたハンスが。
そんなハンスとバチって目が合い、ハンスは私ににっこり。
いやいや遅いから!今更だから!
「紫愛様、その骨はどうお使いですか?」
誤魔化してもバレてるからね!!
「出汁をとろうと思って。」
「ダシとは何ですか?」
「出汁っていうのは旨味成分が出た煮汁。みたいなものかな?私達がこの国のご飯が美味しくないって感じるのは絶対的に旨味が不足してるからだと思うんだよね。旨味に塩味があるだけでも十分満足できる味になると思うの。それにさ、この国の人ってハンスに限らず生きていければ何でも構わないって思ってる人が多いんじゃないかな?それはやっぱり悲しい。美味しい物を食べると笑顔になれる。その機会がないって人生の半分くらい損してると思う。」
「そこまでのことでしょうか?」
ピンときていないハンスにあっくんが続く。
「俺はしーちゃんの意見に賛成だ。美味いと幸せは同義だとすら思うね。」
食いしん坊あっくんは健在。
私は肉が主食のこの国で骨の処理をどうしているのかが気になった。
「普段骨ってどう処理してるの?」
「燃やすか砕いて流すかの2通りです。」
「燃やすと凄く臭くない?」
「はい、とても。それに燃やすには薪が必要になります。ですから殆どが砕いて流しています。」
「流すってどこに??」
「排水と共に流しています。」
「はあ?そんなことしたらすぐ詰まるだろ?」
あっくんは呆れ返っている。
「魔力口と同じで全てが中央の地下に集められ、魔法陣によって浄化されています。」
「また魔法陣なの!?いくら有機物とはいえ浄化って!!意味がわからない!!!」
またこれだ!都合が悪いことが全て魔法陣の1言で片付けられてしまう。
「ハンスはそれを見たことがあるのか?」
「いえ、ただ情報として知っているだけです。」
「それ見に行きたい!お城に戻ったら連れてって!」
「申し訳ありませんが極秘情報ですので場所の特定までには至っておりません。」
「じゃあ探して!」
私達が地球に戻るヒントがあるかもしれない!
「全力で事に当たります。」
「あっ!!!ご飯の鍋!!!あっくん火から下ろして!」
弱火にしてからすっかり忘れていた炊飯中の鍋のそばにいたあっくんに思わず指示を飛ばす。
「Gotcha!!!」
風魔法で素早く火から下ろしてくれたあっくんに感謝!
「しーちゃん、この米食べられる?」
「ギリ焦げてないと……思う!まだそぼろできてないから蓋取らないで。」
「わかったよ。」
コンコン
「お待たせいたしました。こちらが薬草になります。」
ニルスが薬草を持って戻ってきた。
ナイスタイミング!
「ありがとう!」
渡された薬草は束で括られて分けられて20束ほど箱に入っている。
1束1束見た目と匂いを確認していく。
「あっくんはハーブの知識ある?」
「有名どころしか知らないなぁ。」
「これ、ローズマリーじゃない?あとこっちはタイム。」
「ローズマリーって見た目がほぼ地球と変わらないね?」
「うん。バジルとかミントがあるといいなと思ったんだけど、匂い的にこの中には無さそう。」
「ローズマリーがあるだけでだいぶ臭み誤魔化せない?」
「うん!好みはあると思うけどあった方が良いよね!ローズマリーとタイムでハーブティーも作れそう!ミントがあったらなぁー…」
「ククッしーちゃんはミントが好きなんだね?」
私が思い描いたのはチョコミントアイスだけどね!
「好き!爽やかで良いよね!ミントはもっと好き嫌いが別れるけど。」
「俺も好きだよ。」
「いつかミントティー飲めたらいいね!」
「そうだね。探してみよう。」
「よし!材料も揃ったし夕飯作りだ!!」
「俺は何すれば良い?」
「フライパンのお肉を炒めて!」
「任せて。」
私は骨を湯引きしてから水洗い……魔法でやろう。
骨に熱湯をかけた後、魔法で出した水の中にどんどん骨を入れていき洗濯機のようにぐるんぐるん回して湯の中へ。
野菜屑と玉ねぎの芽(もはや葱)を大量に入れグツグツ煮ながらひたすら灰汁を取る。
「この肉炒め終わったらどうするの?」
「このスープをそこに足してローズマリーと一緒に煮て水分飛ばして味調整したいの。」
「じゃあ一旦火から下ろすね。」
「お願い!」
戦場さながらである。
あまり灰汁が出なくなったらあとは煮込み。
あとは蓋をして30分。
小休止。
「しーちゃん、お腹空いたね。」
「本当は3時間くらい煮たいんだけど、強火で30分煮れば味は出ると思うからもう少し我慢してね。」
「いい匂いがする。なんか安心するね。」
「匂いだけで味はわからないよ?」
「お菓子以外で美味しそうな匂いは初めてだよ!これは絶対美味しい匂いだ!」
「ハードル上げられると辛いからそこまでにして!」
「ははっ!ごめんごめん!」
「待ってる間にローズマリーとタイムでティータイムにする?」
「飲みたいけど……しーちゃんのご飯食べてからにしたいから我慢する!」
「そうだね、ハーブティーは匂いが強いからやめとこうか。」
そうしてスープを煮込み終わり、あっくんに濾すのを手伝ってもらいスープを炒めたお肉に足し、再び煮込む。
お肉を煮込んでいる間、器にお塩をほんの少し入れそこにスープを入れて味見。
「美味しいっ!!」
自画自賛である。
「しーちゃん!俺も味見したい!」
「はいどうぞ!」
私が飲んでいたスープを渡す。
あっくんはそれを飲み
「美味っっっ!」
「ありがとう!お肉のスープもだいぶ煮詰まってきたから味調整したらご飯にかけて食べよう!」
「俺ご飯よそうよ!」
すかさずハンスが器を2つあっくんへと差し出す。
「ハンス、あと器2つ出して。」
「スープの皿はそちらにご用意してあります。」
「違うよ、ハンスとニルスの分!」
「ですが「みんなで食べた方が美味しいの!お腹空いてるんだから早く早く!」
「はい!」
そして調理場での夕飯になった。
ニルスが慌てて人数分の椅子を運び込む。
部屋まで持って行くなんて冷めるだけ!
みんなで座って
「「いただきます!」」
そぼろ丼ツユダクver.と具なしスープ。
見た目は貧相。
でも味は白い箱から出て初めて文句なく美味しいと思える味だった。
「しーちゃんまじで美味いっ!お代わり!」
「はっやいから!」
そう言いながらも嬉しく思う。
「ニルスとハンスは味どう?」
「ほひひひれふ!」
「ニルスさんや、それは美味しいですと言ったんですかい??」
ぶんぶん頷くニルス。
口いっぱいに頬張って子供みたいだ。
「ハンスはどう?」
「こんな食事は初めてです。以前紫愛様がお作りくださった物も美味しかったですが、これはそれ以上です…」
「良かった!そんな放心してないで、美味しい時は笑顔だよ!これから自然と笑顔が出るといいね。」
「しーちゃんお代わり!」
「だから早いって!!ほら!2人ともお代わりするなら早くしないとあっくんが全部食べちゃうよ!」
「私もお代わりしてよろしいですか!?」
「ニルス君は素直でよろしい!あるだけで終わりだからね!どんどん食べて!」
1人噛み締めて食べるハンスを他所に、あっくんとニルスは猛烈な勢いで食べ進め、ご飯とお肉はほぼ無くなってしまった。
スープは明日また使いたいと取っておいてもらうことにした。
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