龍の王国

蒼井龍

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王家

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「そうなんだ……もうそんなに時間が経つんだね……」

 ヴァルカンはしみじみとそう呟いた。
 再び気まずい沈黙が場を支配した。

「ごめんなさい……辛い出来事を思い出させて……」

 テティスはすぐに謝罪するが、ヴァルカンに気にした様子はなかった。

「いや、いいよ。あの事は確かに辛かったけど、忘れたい記憶でもないし。あの子の事は忘れたくない……まあ、名前はもう忘れちゃったんだけどね……テティスは覚えてる?」

「もちろん。ずっと一緒に勉強して遊んでたから……名前は確かフローラ…?」

 実は、テティスと一番仲の良かった仲間はそのフローラだった。
 だから、ヴァルカンがここであまり気にしていないような事を言うのは当然なのだ。
 何故なら、この話がより辛く感じるのは、テティスの方だから。
 親友の死は、子供にとってはとてつもなく重い。
 まあ、親友でなくとも、誰かの死の瞬間を見るのは、あまり気分の良いものではないのだが……

「私達は大丈夫だよ。あの時の事は、仕方のない事だって、もう割り切ってるたから」

 その言葉には、中身とは裏腹に、猛烈な悲しみが込められていた。

「もしかしたら、三年前の事を無意識に思い出したせいでそういう夢を見たんじゃない?あの時はみんな泣いてたし…」

 テティスは場の雰囲気をなんとかしようとするが、喋れば喋るほどに逆効果になっていた。

「ほら、最近だと『反逆軍レジスタンス』の動きも結構激しくなってるみたいだし……」
 
「そうだね……」

 ヴァルカンには適当な相槌を打つ事しか出来なかった。
 二人共が、なんとか話題をずらしたいと考えているが、それは中々難しい。
 すると、テティスが大きなあくびをした。
 やはり、相当疲れているのだろう。

「テティスも疲れてるでしょ?もう寝た方がいいよ。僕はもう大丈夫だから」

 ヴァルカンはそれとなく話を打ち切った。

「うん、分かった。おやすみなさい」

 テティスは何故かヴァルカンのベッドで横になると、そのまま寝てしまった。

「………」

 ヴァルカンは言葉を失った。
 部屋に戻るように促したつもりだったが、逆効果になってしまったらしい。
 
「よく人のベッドで寝れるなあ……」

 皮肉でもなんでもなくそう思った。
 昔から、ヴァルカンにはテティスの行動がよく分かっていない。
 普段はきちんとしている少女なのだが、自分と一緒にいる時だけ、よく分からない行動を取るのだ。
 他の人に聞いても、ヴァルカンが見ているような行動は確認されていないため、ヴァルカンはなんとなく自分が嫌われているのだと思っている。
 しかし、そう考えても辻褄が合わない事が多いので、ここ最近はテティスの謎の行動については考えないようにしている。

「まあいいや…僕ももう寝……」

 そう言ってベッドに寝転がろうとするが、よく考えてみれば、そこには一人の少女が眠っている。
 さて、ここで寝ても良いのだろうか?
 何故かは分からないが、物凄く不安な気分になる。
 かといって、他にすることもないし、寝る場所もないので、仕方なくテティスの横に寝転がる。
 最初は変な緊張で眠れなかったのだが、すぐに寝付く事が出来た。
 夢のせいで寝れないとも思ったが、テティスが一緒のおかげか、案外すんなりと眠れた。
 今度は変な夢を見ずに、ぐっすりと眠れた。
 その翌日、目を覚ましたテティスが、顔を真っ赤にして、朝から大騒ぎをしていた事までは言う必要はないだろう。

 
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