お前の夢はここで潰える

蒼井龍

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赤石炎火の夢はここで潰える(後編)

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「ねえ、そういえば、どうして銀河ぎんが赤石炎火あかいしえんかがここにいるって分かったの?」

 真夜中の工場を進みながら、星川宇宙ほしかわうちゅうは、 黒渦くろうず銀河に問いかける。

「そんなことを俺に聞くな。場所や名前を特定したのは組織の情報部だ。それに、今は任務中だ。敵がどこにいるか分からず、いつ襲ってくるか分からない状況で話しかけるな」

 銀河は質問に答えつつ、宇宙のことを嗜める。

「そうじゃなくて、ここに来たときに、『奴はここにいる』って言ってたでしょ?その根拠はどこにあるのかって聞いてるの」

「任務中に話しかけるなと言っているだろ」

 注意しても話し続ける宇宙のことを、銀河は再度注意するが、情報は共有しておいた方がいいと思ったのか、銀河は宇宙の質問に答える。

「ここの入り口のところに黒い枝が落ちてたんだ」

「黒い枝?」

「そう、そしてそれを調べてみたんだけど、その枝が炭化してたんだよ」

「炭化?」

「簡単に言うと、炭になることだな」

「それに何の関係性があるの?」

「木っていうのは、普通燃えるだろ?でも、普通に燃やしただけじゃ、炭にはならない。ということは、誰かが意図的に炭を作ったってことになる」

 工場内にある部屋を一つずつ調べながら会話を続ける。

「作らなくても、買いに行けば良いんじゃない?」

「買いに行くってどこに?」

 ここは郊外で、最寄りのスーパーまで、車で三十分かかる。
 ここに車は止まっていなかったから、買いに行くのは現実的ではない。

「電車で買い物に行ったとかはないの?」

「魔法使いは基本的に公共交通機関を使いたがらないんだよ」

「どうして?」

「万が一自分が魔法使いだって証拠が防犯カメラとかに映ったら、魔法の存在が晒されて問題になるだろ?」

「それは組織だけの考え方じゃないの?」

「当たり前だろ。魔法の存在が公になって困るのはお互い様だ」

「夜に生活するために、炎の魔法を利用して炭を作った?確かに、この辺りは木がたくさんはえてるから素材には困らないだろうけど………でも、 炎使いならそんなことしなくても、自分の炎で過ごせばいいだけじゃない?」

 部屋を全て調べ終わり、ニ階に続く階段の前に立つ宇宙と銀河。

「確かにその通りだ。でも、それが奴の魔法の『条件』や『制限』だとしたら、そんなに不思議のある話じゃない」

「なるほどね。ちなみに、銀河の推理が正しいとすると、具体的に『条件』や『制限』はどんなものだと思う?」

「そうだな、具体的に言うなら、『時間』による『制限』とかだと思うけど」

 それより、と銀河は続ける。
「この先に敵がいる。気を引き締めていけ」

 階段を登ると、目的の部屋はすぐに見つけられた。
 そもそも二階には部屋は二つしかなく、一つの部屋からは、明かりが漏れ出ていた。

「………」

「………」

 二人は無言で目配せしたあと、黙って頷き、その部屋の前に立つ。
 そして、銀河がドアノブに手をかける。

「魔法管理委員会だ!赤石炎火、お前を殺しに来た!大人しくしろ!」

 大きくドアを開け放つと同時に、銀河は大声を上げて相手を威嚇する。
 宇宙が銀河の後ろから部屋の中を覗き込むと、そこには焚き火を楽しむようにして、くつろいでいる女の姿があった。
 年齢は宇宙や銀河と同じくらいで、髪が短く、スポーツ少女といった雰囲気がある。
 そしてその少女、赤石炎火は首だけでこちらを向いた。
 そして、大きなため息をついたあと、口を開いた。

「やーっと来てくれたー、来るの遅いよ魔法使いさん。このまま一生来てくれないんじゃないかって心配してたとこなんだよ。なんで事件を起こしてから一ヶ月の間何もしなかったのー?」

 笑顔でフレンドリーに話しかけてくる少女。
 こいつは本当に魔法使いなのか?
 宇宙は魔法使いになってから日が浅く、銀河以外の魔法使いとは接触がなかったため、どうしても常識でものを考えてしまうが、それは完全に間違った考えだ。
 何故なら、魔法使いとは精神的にどこかがおかしくなっているものが多く、常識に当てはめることができないため、宇宙の考えとズレてしまうのは仕方ない。
 とはいえ、それは宇宙や銀河も決して例外ではない。
 宇宙が考え事をしてる間にも、銀河と炎火の会話は続く。

「確認だが、お前が赤石炎火か?」

「そうだよ。私が赤石炎火、炎の魔法使いだよ。君の名前は?」

「魔法管理委員会所属の魔法使いだ」

「私は名前を聞いてるんだよ?」

「これから殺す相手に名乗る名前などない」

「えーいいじゃん、どうせ死ぬのはあなた達で、もう二度と名乗ることはできないんだよ?」

 フレンドリーに明るく喋る炎火と、それとは真逆に、冷たく突き放すように会話を続ける銀河。
 そんな様子をどこか面白そうに宇宙は見ていたが、お互いから相手を殺す意思が見えたところで気を引き締め直す。
 にしても、さっき炎火はなんと言った?

死ぬのはあなた達。

あなた

 私も殺される⁉︎
 宇宙がそう思ったとき、炎火は足元に置いてあったバケツをひっくり返して、火を消した。

「⁉︎」

「⁉︎」

 予想外の出来事に驚く銀河と宇宙。
 月明かりだけが室内を照らす部屋の中で、炎火はゆっくりと立ち上がり、ついに、体ごと銀河達の方を向いた。

「本当はもうちょっと話してたかったけど、そっちはそうでもないみたいだから、もう始めちゃうね」

 あくまで気さくに話しかけてくる炎火。
 しかし、先ほどと違って、その表情からは明確な殺意が読み取れる。

「宇宙!」

銀河が宇宙の名前を呼び、手を掴んで引き寄せた。 

「⁉︎」

 何が起こったか分からず混乱する宇宙。
 そしてその直後、宇宙の背後で火の手が上がる。
 そして気がつくと、いつの間にか炎火を中心に円を描くようにして部屋の床が燃えていた。

「あらら、残念。今のでそっちの女の子はれたと思ったんだけどなあ。でも、これで逃げ道は塞いだよ。ここからどうする?」

 突然のバトル展開に宇宙は完全に戸惑っていた。
 殺し合いになることは最初から分かっていた(つもりだった)が、この速度と勢いで激化するとは思ってもいなかった。
 対して銀河は、冷静に現在の状況と、炎火の魔法について考えていた。
 炎火の炎は明らかに強力で、直接当たってしまえば、間違いなく即死だろう。
 直接当たらなくても、普通なら死ぬ。銀河達が来ているコート、対魔法用装備たいまほうようそうびが、魔法を防いでくれているから、死なずに済んでいるだけだ。
 するといきなり銀河の目の前から炎の塊が迫ってきていた。

「しまった!」

そして、炎が銀河を飲み込もうとしたそのとき、宇宙が銀河の前に出てきた。

「⁉︎」

 銀河は宇宙の行動に驚いていた。
 そもそも、今回銀河が宇宙を連れてきたのは、新人研修の意味合いが強く、戦力としては数えていなかった。
 だから、銀河は宇宙が前に出てきたとき、宇宙は死ぬと思った。
 しかし、宇宙は死ななかった。
 少し前に手に入れたばかりの『反重力』の魔法をコントロールし、炎をさばいていた。
 一つ言っておくが、これは別に宇宙が戦闘の才能を開花させたわけではない。
 宇宙は自分の目の前で、父親を殺されていて、大事な人が目の前で死ぬ辛さを知っている。
 銀河は宇宙に情報を提供した。
 銀河は宇宙に魔法を教えた。
 銀河は宇宙が復讐できるように環境を整えてくれた。
 銀河は宇宙にとって恩人だ。
 だから宇宙は、あってからまだ一ヶ月もたっていない銀河のことを、は信用し、守ろうとしている。
 大事な人を守る。宇宙にあるのはそれだけだ。

「何ボーッとしてんの!私が守って銀河が攻める!そういう作戦だったでしょ!早く動いて!」

 その言葉を受けて銀河はすぐさま動く。
 走って炎火のそばまで行くと、部屋の端っこに積み上げられていた瓦礫を重力の魔法で引き寄せ、自分の手にくっつけた。 

「死ね!赤石炎火!」

 そう言って巨大化した腕を振り下ろそうとした。
 だがその瞬間、再び銀河の目の前から炎の塊が迫ってきていた。

「なっ!」

 驚きの声を上げる銀河。
 しかし、銀河も歴戦の魔法使い。咄嗟に瓦礫で炎をガードし、一旦退き、宇宙のそばまで戻る。

「銀河大丈夫?」 

「ああ、問題ない。しかし、お前を相手にしながらこっちにも攻撃してくるとはな………」

「だーって、そっちの女の子は防御しかしてないから、あんまり気にする必要はないでしょ?だったら攻撃に入った君をカウンターで倒す方がいいでしょ?敵の目の前で作戦を言わない方がいいと思うよ」

「………一つだけ聞かせろ。なぜこんなことをしている?お前の目的はなんだ?」

「私の目的?私の目的は、私以外の魔法使いを排除して、私の魔法で世界を支配する。それが私の目的だよ」

「そんなこと本当にできると思っているのか?」

「できると思ってるからやってるんだよ」

 銀河は大きく嘆息しながら考える。
 ここら辺が限界か。火の手もすぐそばまで迫っている。ここでこのまま戦い続けても、徐々に追い込まれていくだけだ。
 なら、やることは一つだけ。

「宇宙」

「何?」

「逃げるぞ」

 銀河がそう言った途端、床が抜けて、二人は一階に落ちていった。

「あー、その手があったか。逃げ道は塞いだつもりだったんだけどな。あの人、物体操作の魔法使いだと思ってたけど、違ったみたいだね」

 一人残された炎火はこれからどうするかを考える。

「まあ、とりあえず追ってみようかな」

 ちなみに言っておくが、炎火も最初は世界を支配するなんてことは考えていなかった。
 そんな子供じみた考えをしていたのは炎火の姉だった。
 炎火は姉から魔法を教わった。最初は魔法がかっこよくて、使ってみたいという好奇心からだった。
 しかし、その考えはすぐに捨てることになる。
 魔法の不便さを思い知ったからだ。
 しかし、炎火の姉はそうではなかった。
 魔法は万能であると思い込み、世界を支配して、王になれる。
 そう思っていた。
 しかし、その身勝手な思いが、魔法に伝わり、魔法が暴発して死に至った。
 そんな姉を炎火は軽蔑していた。
 しかし、それは魔法に関してのことだけであって、それ以外の面では完璧な姉で、尊敬していた。
 だから姉に代わって姉の夢を叶えようとしている。
 こんなのはただのエゴだということは、炎火も承知している。
 しかし、それでも姉のために何かしたいと思えるくらいに、炎火は姉のことが好きだった。
 姉に成り代わって、姉の続きをしてあげられるくらいには、姉のことが好きだった。
 姉のためならなんだってできる。
 その信念のみが、赤石炎火を突き動かしていた。
 それが炎火の夢だった。
 炎火は全ての魔法使いを殺すにあたって、最初に目をつけたのが魔法管理委員会だった。
 魔法管理委員会は、炎火が魔法を使うだけで、場所を特定し、殺しに来る。
そこを返り討ちにすれば、また新手が来る。
 新手が来れば、また返り討ちにする。
 そうやって炎火は魔法使いを殺し続けていた。
 今回も、魔法で工場を焼いた以上、委員会が動くのは分かっていた。
 だから、あえて見つかりやすい場所に潜伏し、魔法使いが来るのを待っていたのだ。
 そして、実際に魔法使いが来た。
 そんな経緯があり、現在に至る。
 炎火は一階に降りてきた。しかし、そこには誰もいなかった。

「まあ、もうすぐ焼け落ちるって場所で待ち伏せはないか。外に出たのは間違い無さそうだけど、逃げたのかな?それとも、まだ戦うつもりなのかな?」

 炎火としては、仕切り直してくれた方がありがたいが、待ち伏せしている可能性の方が高いように思える。
 炎火が外に出ると、そこには炎火の予想通り、銀河と宇宙の二人が立っていた。
 お互いの間に長い沈黙が訪れる。

「一つ聞かせて。あなたがこの工場を燃やしたの?」

 長い沈黙の末、口を開いたのは宇宙だった。

「そうだよ」

「なんでそんなことしたの?」

「ここに魔法使いがいるって聞いたからね。あのときは燃やしたと思うけど、誰が魔法使いかは分からないね」

「その情報はどこで手に入れた?」

 会話に割って入ってきたのは銀河だった。

「あー、それは言えないかな。その情報をくれた人との約束だから」

 言葉を濁す炎火に、宇宙がさらに質問を続ける。

「あなたが…あなたが私のお父さんを殺したの⁉︎」

 大きな声で怒鳴るような形で宇宙は問い詰める。

「私がここを燃やしたときに、ここに残ってた人はみんな死んじゃったと思うけど、あなたのお父さんってあのときここにいたの?」

「ええ、その通りよ。私はその復讐をするためにここにいる。だから、あなたはここで死んでもらうわよ」 

 宇宙は炎火に殺意を向けるが、炎火は少し困ったような顔をした。
「それは無理だと思うよ」

「なぜそう思う?」

 問い詰めたのは銀河だ。

「あなた達は私の魔法の『条件』と『制限』はどんなものだと思ってる?」

 話題を逸らすようなことを言ってくる炎火。
「そんな話が何か関係してるのか?」

 さらに問い詰める銀河。
 炎火と銀河による言葉の応酬はまだ続く。

「関係は大有りだよ。だからちょっと答えてみてよ」

「そうだな………『条件』については具体的な予測は立てられていない。だが、お前は魔法を使う前に炭火を消していたな。だから、それが『条件』に関係していると思っている」

「なるほどね、『制限』については分かってるの?」

「『時間』による『制限』だと予測している」

「やっぱりさすがだね。その通りだよ」

 炎火はそこで言葉を区切り、己の魔法について語り始めた。

「私の魔法は『条件』が『自分の周りに光源がないこと』で、『能力』が『炎を操る』で、『制限』が『一日に一時間しか使用できない』なんだよね」

「それになんの関係がある?」

「だから関係は大有りなんだって」

 同じ質問をする銀河に、同じ答えを返す炎火。

「私の魔法ってさ、使い勝手が悪いと思わない?少なくとも日中には使えないし、長い時間戦い続けることも出来ない。しかも、能力がシンプルだから、出来ることも限られてる。それってだいぶ不利だと思わない?」

「それがどうした?お前の魔法の使い勝手が悪かったところで、俺たちが有利になるだけだろ」

 銀河の返答に困惑の表情を浮かべる炎火。
「あれ?もしかして知らない?そっちの女の子は新人さんみたいだから知らなくて当然だと思うんだけど、エリートっぽい君も知らないの?」

「何をだ?」

「魔法の強さは『条件』と『制限』の強さに比例するってこと」

「………聞いたことはある。実際に会ったことはないが………」

「そうなんだ。ちなみに、ここまでの話の流れで分かったと思うけど、私がそういうタイプの魔法使いだから」

 そして、自信に満ちたように言葉を続ける。

「私は、長い間戦い続けることが出来ないかわりに、短期決戦なら絶対に負けないよ」

 炎火がそう言った瞬間、近くにある木が一斉に燃えた。

「ちなみに、私の魔法が使えなくなるまでまだ三十分はあるから、時間を稼ごうなんて考えない方がいいと思うよ」

 直接銀河達を攻撃しないで、周りの木を燃やしたのは、宇宙の魔法で防がれるからか。
 しかもこれなら逃げることも出来ない。
これなら、炎火はもう何もしなくても、銀河達を殺すことが出来る。
 恐らく、燃えて死ぬ前に、二酸化炭素中毒で死ぬだろう。
 炎火は『炎』の魔法使いだから、その辺のコントロールもできるはず。
 となれば、このままいけば、死ぬのは自分たちだけだ。
 あくまで、、だが。
 銀河は冷静に状況を分析する。
 しかし、分析したところで状況は変わらない。
 状況が変わらないということは、、ということだ。

「敵ながら天晴れだよ、本当に。でもな、赤石炎火、勝つのは俺たちだ」

 そして、銀河の次の言葉が、炎火が死ぬ前に聞いた、最後の言葉になった。

「お前の夢はここで潰える」

 銀河がそう言った瞬間、周りにあった木が、炎火を目掛けて飛んでいった。
 その様子を呆然と見つめる宇宙は銀河に問いかけた。

「何をしたの?」

しかし、銀河はその質問には答えなかった。

「その質問に答えるのはあとだ。ゆっくりしてると、本当に焼け死ぬぞ。質問はアパートに戻ったときにしてくれ」

 言うが早いが、銀河はすぐに体の向きを変えて、歩いていった。
 宇宙も慌てて後を追う。
 ところ変わって銀河の(現在の)家。
 銀河の作った夕食を二人で食べながら、今日の出来事を整理する。

「で、さっきも聞いたけど、あのとき銀河はどうやって炎火を殺したの?」

「簡単だよ。炎火の足元の重力を強くして、木を引き寄せただけ。重力を強くするのも上限があるから、普通の状態の木を引き寄せることは強度的に無理だけど、焼けた木なら強度も弱まってるからあれくらいのことは出来る」

「生物には効かないんじゃないの?」

「生物には効かないってそういう意味じゃないぞ」

「じゃあどういう意味?」

 銀河はしばらく考え込むようにしたあと口を開いた。

「魔法自体は生物には効かないけど、魔法によって発生した現象は関係ない。例えば、今回は炎火の足下の重力を強くしただけであって、炎火の持つ重力を直接強くしたわけじゃない」

 その説明を受けて宇宙は納得した。
 思い出してみれば、銀河の魔法は『自分以外の生命体の持つ重力は増加させることができない』というもの。
 なのに、宇宙が初めて銀河にあったとき、銀河の魔法で身動きが取れなくなってしまった。
 あとに聞いた話と噛み合わないとも思ったが、そう考えると辻褄が合う。
 しかし、他にも聞きたいことはたくさんある。

「炎火は外に出たとき、周囲を燃やしていたけど、直接私たちを燃やしていればよかったんじゃないの?」

「魔法はそんなに便利じゃないよ。恐らく、あの工場とあたりの木に細工をしていたんだろう。魔法は発動さえしなければ、溜めることは出来るし、それだけなら『条件』や『制限』もかからない」

「発動?溜める?」

「時限爆弾みたいなもんだよ」

 正直よく分からなかったが、まぁいいだろう。
 それより、宇宙にはもう一つ聞きたい事がある。

「どうして炎火はああもあっさり魔法を教えてくれたんだろう?隠してた方が絶対有利だったはずなのに」

「魔法は本人の『認識』が重要だ。だから、己の魔法を口に出して『認識』する。そうすることによって、魔法は暴発しにくくなり、戦いが安定する」

 それが銀河の説明だった
 宇宙はその話を夢現に聞いていた。
 とにかく今日はもう疲れた。
 飯も食べ終わってお腹も膨れたし、眠気もそろそろ限界だ。
 食器を片付けて、布団を敷いて、寝ようとしたときに、今度は銀河が質問してきた。

「そういえば、結局お前の父親を殺したのは赤石炎火でよかったのか?」

 銀河の中でそこだけが気になっていた。
 宇宙の復讐は達成されたのかどうか。
 宇宙は今日、炎火と話した内容を思い出しながら考える。

「多分違うと思う。炎火はあのとき、工場にいた人達を全員燃やしたって言ってた。でも、工場が燃やされる前にお父さんが床に倒れたのは私がこの目で見てる。だから、殺したのはそのときにいた二人で、炎火があのタイミングで工場を燃やしたのはただの偶然だと思う」

 それが宇宙の出した結論だった。
 それを聞いた銀河は、一言だけ、
「そうか」
 とだけ呟いた。
 そして電気を消して眠りについた。
 それを受けて宇宙も眠りにつく。
 こうして、長い夜は終わり、また殺し合いの日々が続く。










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