お前の夢はここで潰える

蒼井龍

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白昼夢幻夜の夢はここで潰える(後編)

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(親友として私がこいつを殺す)

 星川宇宙ほしかわうちゅうはそんな思いで目の前の相手と向かい合う。
 相手の名前は白昼夢幻夜はくちゅうむげんや
 宇宙は魔法管理委員会という組織に所属している魔法使いである。
 魔法管理委員会は、社会の混乱を防ぐために魔法の存在を隠蔽している組織である。
 主な活動は、魔法使いの討滅。
 組織に所属していない魔法使いを殺すことで魔法の存在を隠蔽している。
 宇宙は魔法使いに父親を殺されており、その復讐のために魔法使いになった。
 ちなみに、宇宙と幻夜は、小学校の頃からずっと一緒にいる親友だった。
 しかし、は宇宙の父親を殺した人物でもある。
 よって、今の宇宙にとっては復讐の対象で殺すべき相手だ。
 幻夜は親友であり、敵でもある。
 その葛藤からは完全に抜け出せていないが、昨日よりはいくらかマシだ。
 これ以上、幻夜に情が移る前に殺さなくてはならない。
 そして、宇宙の隣に立つ黒渦銀河くろうずぎんがも、宇宙と似たようなことを考えていた。

(これ以上、宇宙こいつの情が移る前になんとかしなきゃな………)

 今は落ち着いているようだが、長引けば何が起こるかは分からない。
 銀河は宇宙の先輩であり、パートナーでもある。
 ここ最近、宇宙と行動を共にしていた銀河は宇宙の行動を予測する。

(無関係な人間を一人殺したくらいで取り乱す奴だからな………情が移った相手を殺せばどんな風になるかは想像がつかない)

 そう、宇宙は前回の戦いで異常に取り乱してしまっていたのだ。
 だからこそ、宇宙のためにも早々に決着をつけなければならない。
 そんな銀河たちを見ながら幻夜は口を開く。

「さて、最後に言い残すことはない?ないんだったらもう殺しちゃうけど大丈夫?」

 話している内容はかなり異常とはいえ、穏やかに話す幻夜は、宇宙にとってはいつも通りの様子に見えた。
 本当に幻夜を殺さなくてはならないのだろうか?
 宇宙はほんの一瞬だけ迷った。

 迷ってしまった。
 

 戦闘に置いて、一瞬の迷いがどれほど危険かも知らないで………

「えっ…?何これ⁉」

 宇宙が驚いたのも無理はない。
 なぜなら、宇宙が迷いを断ち切ったときにはすでに、グラウンドは
 その炎が宇宙を襲う。
 迫る炎を『反重力』で受け流す。
 銀河の姿を探すも、どこにも銀河の姿はなかった。
 恐らく、炎で分断されてしまったのだろう。

「銀河!無事⁉」

 明らかに人の心配をしている場合ではなかったが、宇宙は銀河の安否を確認する。

「こっちは無事だ!そっちはどうだ⁉」

 銀河が無事なことに安堵する宇宙。
 しかし、まだ油断は出来ない。
 不安材料は主に三つ。
 一つ、銀河と分断されてしまったこと。
 しかし、これはあまり気にしなくていい。
 なぜなら、宇宙たちがその気になればすぐに合流することができるからだ。
 そうしないのは、相手の動きを探るため。
 下手に動けば隙を作ることになる。
 二つ目は、幻夜の姿が見えなくなっていること。
 炎を囮に逃げたと考えるのが普通だが、幻夜が最初に銀河たちを殺すと宣言したことから、逃げた可能性は低く、こちらの動きを探っているようにも思える。
 最後の一つは幻夜の魔法が分からないこと。
 魔法は一人に一つしか持てず、その全てには例外なく『能力』の他に『条件』と『制限』が、付随する。
 よって、相手の魔法を知ることは、戦闘を優位に進める上で非常に重要なポイントとなる。
 逆に言えば、ということにもなる。
 そこが一番の懸念だった。
 そしてもう一つ。
 魔法は本人の『認識』が重要なため、魔法は使い手の名前に関わりのあるものになりやすい傾向がある。
 しかし、幻夜の名前と、この炎の関連性はないように見える。
 銀河たちは、幻夜の名前からその魔法は『幻術』と予想した。
 『幻術』とは、その名の如く幻を操る魔法。
 しかし、この魔法は明らかに幻の域を逸脱している。
 幻は通常、『見る』あるいは『見せる』ことしかできない。
 しかし現在、この炎からはしっかりと熱を感じる。
 つまりこれは『幻術』ではないということになる。
 このことが銀河たちの頭を悩ませていたのだ。
 問題点はまだある。
 銀河たちを襲っている
 この魔法。
 これはまるで、

(まるで赤石炎火あかいしえんかと戦っているようだ………)

 炎火は、宇宙の父が働いていた工場を燃やした魔法使いで、使用魔法は『炎』だった。
 幻夜も同じ『炎』に関係する魔法使いと考えれば話は簡単だが、恐らくそういうわけではないのだろう。
 何の証拠もないが、銀河はそう考える。
 当然、考えてる間にも攻撃が来る。
 銀河は己の『重力』の、魔法でグラウンドの砂をかき集め、それを壁として使うことで炎を防いでいた。
 しかし、防いでいるだけでは状況は変わらない。
 なんとかしてこの状況を打開しなければ。
 すると突然、グラウンドを覆っていた炎が全て消えたのだった。

「???」 

 混乱する銀河。
 銀河の横には宇宙が立っている。
 状況は変わったが、敵の意図が読めない。
 幻夜はあのまま銀河たちを殺せたはずだ。

「あいつの狙いは一体何だ?」

 幻夜の狙いを考察する銀河。
しかし、考えても結論は出せなかった。
 銀河が考えた時間、一瞬。
 銀河が止まった時間、一瞬。
 そして、勝負の勝ち負けを分ける時間、一瞬。 

「銀河!」

 宇宙は銀河を押し飛ばす。

「なっ⁉」
 
 驚く銀河。
 しかし、驚いたのは宇宙に押し飛ばされたせいではない。
 さっきまで銀河が立っていた位置にが生えてきたのが原因だ。

「何だこれは?」

 銀河は口に出して考えてみるが、これは考えるまでもないことだった。

「これは明らかにかいの魔法………」

 銀河の考えを代弁する宇宙。
 本名、死滅しめつ壊。
 魔法使いであり現代忍者であった彼の使っていた魔法は『形状変化』
 触れたものの形を変える魔法だった。
 銀河と宇宙は、その後も繰り返される攻撃を避けた。
 避けながら思案していた。
 そもそも、魔法は基本的には不便なものだ。
 なぜなら、魔法は一人につき一つしか持てず、魔法の『能力』には例外なく『条件』と『制限』が付随するからだ。
壊も魔法を使い分けてはいたが、使い方が違うだけ。
 壊の魔法はあくまで『形状変化』だ。
 ならば当然、幻夜も魔法の使い方を変えているだけと考えるところだが、炎魔法と形状変化魔法の共通点が分からない。
 それだけでなく、幻夜が消えている理由も分からない。

(いや、分からないこともないんだけどな。炎火と壊の魔法が使える奴が、他の奴魔法も使えると考えても不思議はない)

 宇宙が銀河と出会う前、当然だが、銀河は一人で任務に行っていた。
 そして、そのときに殺した魔法使いの中に『透明化』の魔法使いがいたのだ。
 名前は覚えていないが、厄介な魔法使いであったのは間違いない。
 幻夜はその魔法を使ってるのでないか?
 銀河は漠然とそう考えた。
 この考えは、幻夜が『他人の魔法を使える』魔法だった場合にのみ成立する。

(とはいえ、本当にそんな無茶苦茶な話があるか?)

 自分で考えたことなのにどうにもしっくりこない。
 もし、この考えが正しいとするならば、『条件』と『制限』もかなり厳しいものになるはずだ。
 魔法の強さはそれらの強さに比例するからだ。
 そして、もし幻夜の魔法がそういうものであったならば、もう一つの懸念材料がある。

(炎火の魔法の条件は『自分の周りに光源がないこと』だったはずだ。日中に使える魔法ではなかった)

 それを含めて考えると、幻夜は他人の魔法を使用する場合、少なくとも『条件』は無視でき、『制限』も無視できる可能性があるということになる。

「そんな万能な魔法があるか!」

 銀河の混乱が極致に達した。
 考えすぎたせいで今の銀河は普段の冷静さを失っていた。
 ここまで色々な魔法を使用できる以上、最悪の場合を想定して、あらゆる魔法を使えると考えるべきだ。
 姿が見えず、あらゆる魔法を駆使する相手を倒す方法。
 何か手はないか?
 何か相手を崩す方法は?
 必死に考える銀河に、突然宇宙が話しかけてきた。

「銀河!何かおかしい!今まで戦ってきた相手と何かが違う!」

 何だ?
 宇宙は何を言ってる?
 銀河は少しだけ冷静さを取り戻す。
 普通なら、幻夜が複数の魔法を使用していることを指摘していると考えるところだ。
 しかし、そんなことは言われるまでもないことだし、今更何を言っているのかとも言いたくなる。
 しかし、今までの宇宙の頭の良さを考慮すれば、そんな当たり前のことを言っているわけもない。
 何だ?
 何がおかしい?
 今までの相手との違いを考えろ。
 それが勝利への道となる。
 一方、幻夜は内心で焦っていた。

(何とかして早急に片をつけなきゃ。宇宙たちが)

 もし、この場に観客がいるのならば、誰もが幻夜が優勢であると判断するだろう。
 しかし、ことはそう単純ではない。
 幻夜も魔法を使用していて、当然、魔法には弱点がある。
 幻夜は、、では無敵であると自負しているが、ではそうではないと理解している。
 だからこそ、宇宙たちが気付く前に片をつけなければならないのだ。
仕方ない。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だ。
 ある程度のリスクは覚悟しよう。
 いつまでも終わらないことを続けていても仕方ない。
 幻夜はそう考えた。

(私は『幸せ』になるためなら何だってする!)

 幻夜の中にあるのはそれだけだ。
 宇宙が先日言っていたように、幻夜は両親からの虐待を受けていた。
 殴る、蹴るなどの暴力は日常的。
 幻夜が何か両親に気の触ることをしたのなら、一日は家に入れてもらえなかった。
 幻夜はそんな劣悪な環境で育ったのだ。
 しかし、幻夜は自分の境遇を嘆いてはいなかった。
 なぜなら、それが普通だと思っていたから。

「これが普通」

 幻夜の両親の口癖がこれだ。
 幻夜の家にはテレビもラジオもなく、あらゆる情報から隔絶されていた。
 そのため、幻夜は自分の環境を受け入れてしまっていたのだ。
 そんな環境が変わったのは、幻夜が六歳のときだった。
 幻夜が小学校に入ると、当然友達ができ、友達に自分の話をする。
 幻夜が友達の話を聞いたときの感想は決まっていた。
 即ち、

「変わってるね」

 というものだった。
そして、幻夜の家の方に話題が移った。
 最初は五人くらいの人がいたが、最後まで話を聞いてくれたのは一人だった。
 他の四人は話の途中でどこかに行ってしまった。

「幻夜ちゃんの家はおかしい。全然普通じゃない。だから、何とかしなきゃいけない。先生に相談しに行こう」

 最後の一人はそう言った。
 これが、星川宇宙と白昼夢幻夜の馴れ初めだった。
 その後、幻夜はすぐに保護され、親戚に預けられた。
 しかし、そこでの扱いもあまり良いものではなく、その親戚は常に、

「早く一人暮らしをしろ」

 と幻夜に話をしていた。
 幻夜は学校に通う内に『普通』や『幸せ』について考えるようになった。
 今まで『普通』だと思っていたのが『普通』ではなく、自分にとっての『異常』が周りにとっての『普通』で、周りから見た自分は『不幸』だった。
 しかし、幻夜は自分のことを『幸せ』とは思っていなかったが、自分のことを『不幸』だとも思っていなかった。
 そのため、学校ですれ違う価値観は幻夜を苦しめた。
 そして、幻夜は『幸せ』を求めるようになった。

(私は『幸せ』じゃない。みんなは『幸せ』を望む。なら私も『幸せ』を目指さなきゃいけない)

 そう考えた始めた日から幻夜は『幸せ』になる方法を考えた。
 そして、幻夜はたどり着いた。
『幸せ』なる方法に。

(そっか、私が『不幸』でみんなが『幸せ』だから、私が『幸せ』になれないんだ。じゃあ、みんなが『不幸』になれば私は『幸せ』になれる!) 

 こんな考えは誰もが一度は抱く発想だ。
 しかし、幻夜が恐ろしいのは、この考えを実践したことにある。
 その日以来、幻夜はとにかく周りの人を不幸にした。
 最初はちょっとした悪戯程度だったが、幻夜の行動はエスカレートしていき、最終的に殺人にまでおよんだ。
 そんな幻夜だからこそ、壊にとき、何の迷いもせずに頷いた。
 宇宙を『不幸』にしたかったからだ。
断っておくが、幻夜は、宇宙の親友である。
 心の底から宇宙のことが好きだったし、自分を救ってくれた恩人だということも理解している。
 しかし、自分が『幸せ』になるためには、やむを得ないことだった。
 幻夜はそう考え、悩みながらも、壊に協力した。
 『幸せ』になりたい。
 それが白昼夢幻夜の夢だった。

(私は絶対に『幸せ』になってみせる!)

 幻夜は最後の攻撃を開始した。
 銀河たちは、今起きてる現象に戸惑っていた。

「何だ?いきなり攻撃が止んだぞ」

「確かに。どうしたんだろ?」

 銀河たちが戸惑っている理由は一つ。
攻撃が止まったのだ。
 これをラッキーと思うなら、まだまだ二流、どころか三流で、銀河たちがその程度なら、今頃死んでいる。
 幻夜は、自分が優位な状況にありながら攻撃を中止した。
 それはつまり、そうせざるを得ない状況になったと考えるのが自然である。
 魔法の『制限』によるものか?
 それとも、いつまで経っても殺せないことに業を煮やした幻夜が作戦を変更したのか?
 辺りを警戒しながら銀河は考える。
 銀河の考えは的を射ていた。

「!」

 宇宙はいきなり飛んできたものを視認し、ギリギリでそれを避ける。
耳元で風を切る音がする。
 グラウンドに落ちたものはだった。
 宇宙たちがナイフの飛んできた方を見ると、そこには幻夜が立っていた。

(あれは無名むめいが使っていたナイフ?)

 銀河は冷静に状況を分析する。
 幻夜の投擲した武器は『委員会殺し』の異名を持つ狂戦士、白零はくれい無名の使用していた投げナイフだ。
 無名の使っていたナイフには魔法の影響を受けないという特徴がある。
 そのため、無名と戦った魔法使いは苦戦を強いられることになる。
 しかし、なぜ幻夜がそのナイフを持っている?
 あのナイフはかなり特殊で、魔法管理  
委員会でも、その仕組みは最後まで分かっていないのだ。
 銀河たちが無名を殺したときに無名の持っていたナイフは全て回収した。
 幻夜が持っているわけがないのだ。

「何がどうなっている?お前の魔法は一体何だ?」

 銀河は幻夜に問い詰めるが当然、幻夜はその質問には答えない。
 再び幻夜による一方的な攻撃が開始される。
 幻夜が使用するのは無名のナイフ。
防御はできないため、できる行動は回避に限られる。
 相変わらず状況は変わっていなかったが、銀河たちは全く諦めてはいなかった。
 鍵になるのは宇宙の感じた違和感。
 宇宙の感覚はあてになる。
 そこから勝つための道筋を見つける。
実を言うと、宇宙の言っていた違和感には銀河も気が付いてはいた。
 しかし、それはほんのわずかなものだったため、それを考慮することはしなかった。
 だが、今になってはその違和感が勝利の鍵だ。
 何がおかしいのかを考える。
 今まで戦ってきた相手と違う点を探し出す。
 幻夜のメチャクチャな魔法は確かに強力だが、絶対に何かしらの弱点があるはず。
 その弱点を見つけ出す。

 違和感の正体は?

 幻夜の魔法の弱点は?

 銀河は自分の感覚だけを頼る。
 今までの戦闘において、相手を考察し、考えることで勝ちを収めてきた銀河にとって、感覚を頼るというのは初めてのことだった。
 そして気付いた。

 宇宙が感じた違和感に。

 銀河が感じた違和感に。


「そうか………俺たちは勘違いをしていたようだな」

 銀河がそう呟くと、幻夜の動きが止まった。

「あれ?もしかして気付いちゃった?」

「当たりはついた。あとはどう抜け出すかだな」

 銀河は自信満々に答える。
 そして、宇宙の方に向き直る。

「手を出せ」

「えっ…?」

 混乱しながらも銀河の言葉に従う宇宙。
そして銀河は

「?????????」

 宇宙は驚いていた。
 それはそうだ。
 いきなりパートナーに手を刺されば誰だって驚く。
 そして、手を刺された後に、パートナーとかつての親友である敵が倒れているのを見れば尚更である。

「痛っ!」

 痛みを感じて手を見ると、そこには銀河に刺されたと思われる傷があった。

「どういうこと?」

 宇宙は一人呟く。
 間違いなくさっきまで宇宙は銀河と共に幻夜と戦っていた。
 さっきまでの状況と現在の状況が繋がらない。

「大丈夫か?」

 いつの間にか銀河が起き、宇宙に声をかけてきた。
 よく見ると、銀河の手にも傷がついていた。

「私は大丈夫、それより、今はどういう状況?」

 宇宙は銀河に質問するが、銀河は答えなかった。
 銀河の視線の先には幻夜が立っていた。

「私の負け………かな?」

 幻夜は大きなため息を吐く。

「勝てると思ったんだけどなあ………」

「一応聞いておく。お前の魔法は『夢』か?」

「そうだよ」

 幻夜は明るい声で答える。
 その顔に笑顔を浮かべて。

「私の魔法はね、『条件』が『昼であること』で『能力』が『相手に夢を見させて、夢での出来事を現実に還元させる』で『制限』が『自分も相手の夢に入らなきゃいけない』っていう魔法なんだよね」

「『夢での魔法を現実』に?それってどういう………」

 宇宙が幻夜の言葉の意味を理解できずにいると、横から銀河が説明してくれた。

「要するに、夢で負ったダメージは夢から覚めても残るってことだ。だからお前の手には俺が夢で刺した傷が残ってる。極論、夢で死んだら実際に死ぬって魔法だ」

 宇宙は反射的に自分の手を見る。
そこで宇宙は納得いった。

「なるほど、銀河が私の手を刺したことで、夢での痛みが実際の痛みに変換された。その刺激で夢から覚めることができたってわけね」 

 そう、夢から覚めるために必要な条件は『痛み』である。

しかし、幻夜にはどうしても聞きたいことがあった。

「どうして気付いたの?何かきっかけはあったんでしょ」

「答える必要があるか?」

「私はこれから殺されるんでしょ?私にとって最後の会話なんだよ?それくらいは教えてくれてもいいんじゃない?」

「『魔力の欠片』の漂い方がおかしかった」

 意外にも、銀河が幻夜の質問に答える。
 『魔力の欠片』とは、魔法を使用した際に残る魔力の霧のようなものである。
 そもそも、魔法には種類が二種類存在しており、魔法の種類によって『魔力の欠片』の漂い方が変わる。
 魔法を使用したとき、それが外側に出るタイプの魔法、例えば炎火の『炎』などは、『炎』が顕現した場所を中心として、『魔力の欠片』が漂う。
 そして、もう一つ。
魔法を対象に直接使用する魔法、例えば幻夜の『夢』などの場合は、魔法発動対象を中心として、『魔力の欠片』が漂う。

「夢は記憶と同義だ。お前は夢の中で魔法を使っているのではなく、俺たちの記憶を呼び起こしているに過ぎない。だから俺たちは『魔力の欠片』に違和感を感じた」

 そして銀河はこれが夢だと気づいた。
もし、幻夜が『夢』の中で魔法を使っていれば、『魔力の欠片』は『夢』の中で漂うため、銀河達が気付くことはなかった。

「さて………話は終わりだ」

 そう言って銀河は幻夜に近づく。
 その手にナイフを持って。 

「お前の夢はここで潰える」

 そう言ってナイフを振り下ろす。
 「待って!」
 銀河の手が止まる。
 幻夜の首に触れる寸前でナイフは止まった。

「私にやらせて」

 宇宙はそう言った。

「できるのか?」

宇宙は間髪入れずに言う。

「できる」

「なら、好きにしろ」 

 銀河はナイフをしまうとどこかへ行ってしまった。
 宇宙は懐から投げナイフを取り出した、
 これは無名が使っていた投げナイフで、無名に勝利したときに回収したものだ。

「幻夜………」

 宇宙は静かに親友の名前を呼ぶ。
幻夜はどこか安心したような表情を浮かべて言う。

「宇宙………ありがとう。どうせ死ぬなら友達に殺された方がいいもんね」

 幻夜も宇宙もそれ以上何も言わなかった。
 宇宙が静かに幻夜に歩み寄る。
 そして、宇宙は遂に幻夜にトドメを刺す。
「             」
 幻夜は最後に声にならない声で何かを告げ、息絶えた。

「幻夜………さすがだね。ちゃんと分かってたんだ」

 幻夜のお陰で迷いは吹っ切れた。
 父を殺そうとしたことは許さないが、それでも幻夜のことは大好きだ。

「幻夜の死を無駄にしないためにも、

 宇宙は一人でそう呟き、帰路に着く。
 校門まで歩くと、そこに銀河が待っていた。

「終わったか?」 

「うん、終わった」

「そうか…」 

 二人は事後処理班を手配した後は、しばらくの間何も喋らなかった。
 やがて銀河が口を開いた。

「そういえば、これでお前の復讐は達成されたわけだが、この先はどうする?魔法使いを続けるのか?」

 銀河のその言葉を聞いた途端、宇宙は足を止めた。

「どうした?」

 銀河も足を止め、宇宙と向き合う。
 そんな状態がしばらく続いた。
 やがて宇宙が口を開く。

「私はお前を許さない」

 宇宙は攻撃的な口調で銀河に話しかける。
「………」

 銀河は何も答えない。
 宇宙がさらに畳み掛ける。

「私のお父さんを殺したのは………」

 宇宙の声にはこれ以上ないくらいの憎悪がこもっていた。

「銀河だよね?」

 宇宙からの極めて重要な質問に、銀河は簡潔に、なおかつ、事実をありのままに伝える。

「そうだ」





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