好きと言ってもわからない~精神年齢10歳の次期当主に求婚された件~

ことのはじめ

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第13話 貴族令嬢エレオノーラ

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 上質なシルクのブラウスに、編み上げのジャンパースカート。テグスのような白い髪は軽くまとめてリボンで結い上げる。ルナサングィネアの用意した服の中で、これがアイリにとって一番動きやすい服だった。装飾としてブラウスには大きなリボンがあしらわれているが、動き回るのにはさほど影響しない。
 一週間屋敷で過ごした結果、ユリウスのやんちゃに付き合うのはこれが最適解とアイリは考えたからだ。
「使用人の服って綺麗で丈夫なんだよ、エプロン、おしゃれでしょ」
 メイド用のエプロンドレスを着てみせ、マリアも一人前に働きに出たみたいだとにこにこしている。アイリは一緒に来てもらえってよかったと思う反面、無理に連れてきてしまったことに後ろめたい気持ちを抱いていた。
 ユリウスはといえば、あの手この手を使って執務室から抜け出てはアイリの元へと通っていた。それでも毎回オルヴォやマリアによって連れ戻されるから慌ただしいことこの上なかったのだが。
 アイリはといえば淑女としての振る舞いやテーブルマナー、教養の授業などを家庭教師に教えられていた。婚約した以上いずれ社交界デビューすることも考えれば、その場にあった振る舞いや言葉遣いをできるようにするのは当然のことである。
 元から手習いは得意だったアイリはすらすらと貴族たちの名前や関係を覚えていった。
 日当たりのいい勉強用の部屋で、アイリは机に着いて家庭教師の話を聞く。
「ルナサングィネア家とルナスプレンディア家はルネ大公を支持する二大派閥と呼ばれております。明のルナスプレンディア、暗のルナサングィネア、両者をして明暗を束ねるのがルネ大公というわけですね。両家は常に対立することでお互いを監視し均衡を保っていたのですが……」
 少し気まずくする家庭教師に、アイリは婚約の儀のことを口にする。
「私が、婚約者に選ばれたことで両家の対立が深まってしまったのですか」
「それは……アイリ様のせいではございません。そもそも今回の婚約の儀自体が」
 家庭教師の声を遮る様にドアがノックされる。どうやら来客らしい。勉強部屋に訪れた来客は、使用人にドアを開けられることでその姿を露わにした。
「ごきげんよう」
「あなたは」
 しっとりと落ち着き払った声音の主にアイリは見覚えがあった。日の光のようにきらめく金髪に、空を切り取ったかのような青い瞳。デコルテを大胆に見せるドレス姿の女性は、あの日婚約できなかったルナスプレンディア家の令嬢、エレオノーラである。
「ユリウス様のご様子を伺いに来たのですけれど」
 アイリは席を立ちエレオノーラに覚えたてのカーテシーをする。
「初めまして、ユリウス・ルナサングィネア様の婚約者、アイリ・フィルップラと申します」
 エレオノーラは一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに貼り付けたような笑顔でアイリに挨拶を返す。
「初めまして。ルナスプレンディア家長女、エレオノーラですわ。アイリさん、といったかしら。今回はご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます。不肖の身ではございますが、これからユリウス様に見合うよう、励みたいと思っております」
「……ユリウス様は」
 家庭教師がヒヤヒヤと二人を見やる中、エレオノーラは勝ち誇ったように言った。
「ユリウス様とは付き合いが長いんですの。もう十年になるかしら。あなたはユリウス様のことをどの程度わかっていらっしゃるのかしら」
「それは、まだ一週間しか経っておりませんので、まだ」
「一週間も過ごされているのにお人柄の一つも理解できておりませんの?」
 そうエレオノーラに問われる。横で家庭教師が冷や汗を流しているが、アイリは表情を変えない。
「お人柄は、これから知っていければと思います。エレオノーラ様は十年お付き合いがあると仰いましたが、それで何をお伝えしたかったのでしょうか」
「な……」
 まさか言葉が返ってくるとは思わずエレオノーラは言葉を詰まらせる。家庭教師は胃がキリキリしている。
「わ、私の方がユリウス様と一緒の時間は多かったんですから! っ、町娘はこれだから礼儀がなってなくて困りますわね」
「礼儀の問題ではないと思いますが」
 アイリの言葉は続く。
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