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第20話 だってそれが私の
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ずっとずっと、好きだった。初めて会った時から、その魂の光に惹かれていた。初めて会ったあなたは、まっさらで自分がどんな色を持っているかすら知らず、わからず、赤子のように自分に手を伸ばした。
その手を喜びとともに取ったことも、記憶に新しい。エレオノーラは十年前、ユリウスと初めて会った時のことを思い返していた。肉体の構成はできるものの、それ以外はまるで生まれたての赤子のようだった。
当時のエレオノーラは五百九十歳、人間でおよそ十七の年頃だった。
「お前がユリウスを守ってあげるんだよ」
そう、父から言われ続けてきた。だから、この無垢な光を見た時、自分が守らなければと決意を固くしたのだ。
綺麗な光だと思ったから。美しい輝きだと感じたから。だから、ユリウスより大人の自分が守ってあげないといけない。
「エレオ、の、……ぁ?」
名前を呼ぶのもおぼつかないユリウスに言葉を教え、立ち振る舞いを教え、家の立場を教えた。部屋を出られないユリウスの代わりに、光を操る魔法で部屋を明るく空のように見せたら、とても喜んでくれた。
「すっごいね、エレオノーラの魔法! 俺も使ってみたい!」
「なら、教えて差し上げますわ。ユリウス様ならすぐに扱えますわ」
「ほんと!」
姿が大人でなければ誰もが子供だと思うだろう。だが、誰もユリウスが子供でいることを許さなかった。許してあげられなかった。
「ユリウス様、執務再開の件ですが」
「しつむ?」
「お仕事のことですよ。ユリウス様はルナサングィネアの次期当主ですから、大事なことを決めたり確認したりするお仕事があるんです」
エレオノーラがユリウスと出会い、五年経った頃の話だ。オルヴォが執務について説明する中、ユリウスは難しそうに首を傾げていた。
「オルヴォ、ユリウス様はまだ外に出られる状態ではないでしょう?」
「ええ。ですから当面の間は自室で執務に励んでいただこうと思いまして」
エレオノーラは表情を曇らせる。ユリウスはゆっくりと成長しているものの、まだ精神年齢は五、六歳程度の子供だ。厄災以前の状態ならともかく、もっと時間をかけるべきだとエレオノーラは思い、進言した。
「ですが、エレオノーラ様。これは旦那様の命でもあるのです。そしてルナサングィネアとルナスプレンディア両家の取り決めでもあります」
「お父様が……?」
オルヴォもあまり気が進まない様子だったが、両家の当主が決めたのであれば逆らうことはできない。それはエレオノーラも同じだった。
「おしごと、ってなにするの? 名前を書くだけでいいの?」
ユリウスは紅い瞳に純粋な疑問を浮かべ、二人を眺めている。だから、エレオノーラはせめて執務ができるようになるよう手伝いを申し出た。
部屋に運ばれてくる大量の書類の山。ライティングデスクでユリウスはエレオノーラに言われたとおりにサインをし、印を刻む。
「疲れたよー、休んでもいい?」
「ダメですよユリウス様。まだ半分も終わってません」
「だってぇ……」
渋る姿に心が痛む。本当は止めさせたかった。でも、これは当主である父からの命。ユリウスを助けるということは、つまりこういった内政の干渉も見越してのことなのだろう。
自分が駒のように動かされ、操られていることをエレオノーラは薄々感づいていた。それでも、エレオノーラはユリウスの側にいたかった。誰かの思惑に踊らされていようと構わない。そう思っていたのに。
あの日、婚約の儀で起きたことさえなければ。
あの色のない女にユリウスが引き寄せられさえしなかったなら。
「エレオノーラ様、お呼びでしょうか」
使用人に呼ばれたエレオノーラは、静かに拳を握りしめた。
その手を喜びとともに取ったことも、記憶に新しい。エレオノーラは十年前、ユリウスと初めて会った時のことを思い返していた。肉体の構成はできるものの、それ以外はまるで生まれたての赤子のようだった。
当時のエレオノーラは五百九十歳、人間でおよそ十七の年頃だった。
「お前がユリウスを守ってあげるんだよ」
そう、父から言われ続けてきた。だから、この無垢な光を見た時、自分が守らなければと決意を固くしたのだ。
綺麗な光だと思ったから。美しい輝きだと感じたから。だから、ユリウスより大人の自分が守ってあげないといけない。
「エレオ、の、……ぁ?」
名前を呼ぶのもおぼつかないユリウスに言葉を教え、立ち振る舞いを教え、家の立場を教えた。部屋を出られないユリウスの代わりに、光を操る魔法で部屋を明るく空のように見せたら、とても喜んでくれた。
「すっごいね、エレオノーラの魔法! 俺も使ってみたい!」
「なら、教えて差し上げますわ。ユリウス様ならすぐに扱えますわ」
「ほんと!」
姿が大人でなければ誰もが子供だと思うだろう。だが、誰もユリウスが子供でいることを許さなかった。許してあげられなかった。
「ユリウス様、執務再開の件ですが」
「しつむ?」
「お仕事のことですよ。ユリウス様はルナサングィネアの次期当主ですから、大事なことを決めたり確認したりするお仕事があるんです」
エレオノーラがユリウスと出会い、五年経った頃の話だ。オルヴォが執務について説明する中、ユリウスは難しそうに首を傾げていた。
「オルヴォ、ユリウス様はまだ外に出られる状態ではないでしょう?」
「ええ。ですから当面の間は自室で執務に励んでいただこうと思いまして」
エレオノーラは表情を曇らせる。ユリウスはゆっくりと成長しているものの、まだ精神年齢は五、六歳程度の子供だ。厄災以前の状態ならともかく、もっと時間をかけるべきだとエレオノーラは思い、進言した。
「ですが、エレオノーラ様。これは旦那様の命でもあるのです。そしてルナサングィネアとルナスプレンディア両家の取り決めでもあります」
「お父様が……?」
オルヴォもあまり気が進まない様子だったが、両家の当主が決めたのであれば逆らうことはできない。それはエレオノーラも同じだった。
「おしごと、ってなにするの? 名前を書くだけでいいの?」
ユリウスは紅い瞳に純粋な疑問を浮かべ、二人を眺めている。だから、エレオノーラはせめて執務ができるようになるよう手伝いを申し出た。
部屋に運ばれてくる大量の書類の山。ライティングデスクでユリウスはエレオノーラに言われたとおりにサインをし、印を刻む。
「疲れたよー、休んでもいい?」
「ダメですよユリウス様。まだ半分も終わってません」
「だってぇ……」
渋る姿に心が痛む。本当は止めさせたかった。でも、これは当主である父からの命。ユリウスを助けるということは、つまりこういった内政の干渉も見越してのことなのだろう。
自分が駒のように動かされ、操られていることをエレオノーラは薄々感づいていた。それでも、エレオノーラはユリウスの側にいたかった。誰かの思惑に踊らされていようと構わない。そう思っていたのに。
あの日、婚約の儀で起きたことさえなければ。
あの色のない女にユリウスが引き寄せられさえしなかったなら。
「エレオノーラ様、お呼びでしょうか」
使用人に呼ばれたエレオノーラは、静かに拳を握りしめた。
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