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第一章 帝都の賢者
第79話 ぱよぱよマルス
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「街に出てからずっと尾行られているにゃ…。勘違いかと思ったけど、同じ魔力の気配の奴がずっと一定の距離を保ったまま着いてくるにゃ」
マルス「…気付かれましたか、さすが、獣人の賢者様。凄いですね。彼らは隠密活動のプロ、帝国一の気配隠蔽技術を持っているのですが…」
「…護衛にゃ? そりゃそうか。皇太子殿下が一人で街を歩いてちゃまずいよにゃ」
マルス「もともと私は王になるとは思っていませんでしたので、幼い頃から割と自由に街を出歩いていまして。王太子になった後はさすがに止められたのですが、皇帝陛下が『皇宮に閉じこもっていて良い王になどなれるか』とおっしゃって下さり…」
「そう言えば、この国の皇帝は若い頃は冒険者としてメイヴィスと旅していたと言ってたにゃ」
マルス「はい。皇帝陛下と賢者メイヴィスの冒険譚は、街で大人気の絵本や児童文学になっていて人気なのですよ?」
「へぇ」
護衛は気にしなくていいというので、俺達はそのまま観光を続けた。実際、気配に敏感な俺だから気がついたが、おそらく人間では気付かないほど護衛たちは巧妙に姿を隠しているので、気にしなければ別に邪魔になる事はなかった。
マルスとは街を散策しながら、時々はマルスおすすめの庶民の店に入って食事をしながら、色々な話をした。
話してみたところ、マルスは皇族だからと言って威張ったところは皆無で、思いのほか純真で人懐っこい人物であった。
これならまぁ、それほど不愉快な思いはしなくて済みそうだ……。
いや、日本でも見た目や上っ面に騙された事は何度もあった。警戒は必要だろう。
それに、マルスについて、少し話しただけで少し問題も見えてきた。
マルスは次期皇帝らしくガレリア帝国の未来への豊富についてよく語った。別に俺はそんな事興味なかったのだが、喜々として熱く理想を語るマルスに付き合う形だ。
身分がバレている相手なので、マルスも遠慮なく語ったようだ。立場的な事もあり、対等に政治的な話をできる相手はあまり居ないのかも知れないな…。
若い王(の後継者)が輝かしい未来の希望について語る様は微笑ましくはあった。
それは良いのだが……
理想を語るのは立派なのだが、なんというか、内容が子供っぽく、目線が為政者のそれではない気がするのだ…。
マルスは、自分が皇帝になったら帝国に暮らす人々を幸せにしたいと言う。
と言っても帝国は今、かなり栄えているそうで。他の貧しい国に比べれば帝国民は十分幸せと言える状態らしいのだが。
だが、どうしても行き届かない面がある、苦しんでいる人も居るはずだ。そういう人達にも救いの手を差し伸べて行きたいと言う。
それに、今幸せな人も、もっともっと幸せにしたいと。そのために、具体的には、税金を減らして人々の暮らしを楽にしてあげたいと言う。
だが……
貴族や王族のムダや贅沢をやめさせ税金を安くすると言うなら、それはまぁ立派な話なのだが。なんと、マルスはまず国の軍隊に割く予算を削ればいいと言い出したのだ。
人は争う必要はない、仲良く幸せに暮せばいい。人はもっと話し合うべきだ、そうすれば分かりあえる、などと言う。
さらには、武器があるから人は不幸になる。武器などなくてもいいくらいだと言う。
「もし他の国が攻めてきたらどうするにゃ?」
マルス「その時は、敵の軍に乗り込んでいって、酒を酌み交わして語り合います! 腹を割って話せばきっと分かりあえますよ!」
そして、そうは思いますよね? と俺に同意を求めて来る。どうやらメイヴィスは同意してくれないので、俺に同意してほしかったらしい。
もちろん、俺も同意はしなかったが。
…これは、頭の中はお花畑か?
お説はご立派ではある、のかも知れんが…
…無理だろ。
人は争うものだ。
特に、平和な日本でだって争いは絶えなかった。ましてやこのような世界では…。
俺はこの世界の全てを見てきたわけではない。むしろ知らない事の方が多いが、ちょっと見ただけで分かる、文化レベルはそれほど高くない、どちらかと言えば野蛮な世界である。人から奪い、殺しても自分が幸せならそれでいい、そんな奴がごろごろ居る世界だろう。悪い事を考える奴はいくらでもいるはずだ。
それに、この国は古い時代から他国を侵略併合してきた覇権国家であるとメイヴィスに聞いた。そういう歴史があるので敵も多いのだそうだ。敵が多いなら国を守るために武力は絶対に必要だろう。
武力を無くすのはさすがに無理にゃろ? と俺ははっきりと言ってやった。
反論されるかと思ったが、意外にも『そうですよね』と素直にマルスは聞く。
なんだ、話せば分かってくるのかと思う。
ならちゃんと教えればなんとかなるか?
だが、マルスは続けて、『今は』と言った。
「ん?」
マルス「人は、本当は、争いなどしたくないはずです。悪い事をしたいと思って生まれてきた人間は居ないと思うのです。人は神の子、生まながらにして善なる者だと思うのです。悪い事をしてしまった者は、そうさせてしまった社会が悪いんじゃないかと思うんです…」
ん~これは、どしようか。
と考えてもしょうがない。直球勝負だ。思った事は何でも言ってしまおう。
俺は誰に忖度する必要もない立場だ。なんならこの国の皇帝にだって好きな事を言うつもりでいるのだ。無礼だの不敬罪だのと言い出すなら、さっさと逃げ出して森に帰ればいいだけの事なのだから。
「次の皇帝が…この考え方で大丈夫にゃのか…?」
マルス「何か間違っていますか?」
「思い切り間違えてるにゃ。為政者は、“性悪説”に立って物事を考えなければならないにゃろ?」
マルス「え?」
「大部分の人間は善であるかも知れないが、それを信じて政を行えば、一握りの悪に社会がひっくり返される事ににゃるだろ。そもそも俺は、人の本性は善ではないと思っているしにゃ」
マルス「それじゃぁ! カイトさんは! 人は生まれながらに悪だとおっしゃるのですか?」
マルス「…気付かれましたか、さすが、獣人の賢者様。凄いですね。彼らは隠密活動のプロ、帝国一の気配隠蔽技術を持っているのですが…」
「…護衛にゃ? そりゃそうか。皇太子殿下が一人で街を歩いてちゃまずいよにゃ」
マルス「もともと私は王になるとは思っていませんでしたので、幼い頃から割と自由に街を出歩いていまして。王太子になった後はさすがに止められたのですが、皇帝陛下が『皇宮に閉じこもっていて良い王になどなれるか』とおっしゃって下さり…」
「そう言えば、この国の皇帝は若い頃は冒険者としてメイヴィスと旅していたと言ってたにゃ」
マルス「はい。皇帝陛下と賢者メイヴィスの冒険譚は、街で大人気の絵本や児童文学になっていて人気なのですよ?」
「へぇ」
護衛は気にしなくていいというので、俺達はそのまま観光を続けた。実際、気配に敏感な俺だから気がついたが、おそらく人間では気付かないほど護衛たちは巧妙に姿を隠しているので、気にしなければ別に邪魔になる事はなかった。
マルスとは街を散策しながら、時々はマルスおすすめの庶民の店に入って食事をしながら、色々な話をした。
話してみたところ、マルスは皇族だからと言って威張ったところは皆無で、思いのほか純真で人懐っこい人物であった。
これならまぁ、それほど不愉快な思いはしなくて済みそうだ……。
いや、日本でも見た目や上っ面に騙された事は何度もあった。警戒は必要だろう。
それに、マルスについて、少し話しただけで少し問題も見えてきた。
マルスは次期皇帝らしくガレリア帝国の未来への豊富についてよく語った。別に俺はそんな事興味なかったのだが、喜々として熱く理想を語るマルスに付き合う形だ。
身分がバレている相手なので、マルスも遠慮なく語ったようだ。立場的な事もあり、対等に政治的な話をできる相手はあまり居ないのかも知れないな…。
若い王(の後継者)が輝かしい未来の希望について語る様は微笑ましくはあった。
それは良いのだが……
理想を語るのは立派なのだが、なんというか、内容が子供っぽく、目線が為政者のそれではない気がするのだ…。
マルスは、自分が皇帝になったら帝国に暮らす人々を幸せにしたいと言う。
と言っても帝国は今、かなり栄えているそうで。他の貧しい国に比べれば帝国民は十分幸せと言える状態らしいのだが。
だが、どうしても行き届かない面がある、苦しんでいる人も居るはずだ。そういう人達にも救いの手を差し伸べて行きたいと言う。
それに、今幸せな人も、もっともっと幸せにしたいと。そのために、具体的には、税金を減らして人々の暮らしを楽にしてあげたいと言う。
だが……
貴族や王族のムダや贅沢をやめさせ税金を安くすると言うなら、それはまぁ立派な話なのだが。なんと、マルスはまず国の軍隊に割く予算を削ればいいと言い出したのだ。
人は争う必要はない、仲良く幸せに暮せばいい。人はもっと話し合うべきだ、そうすれば分かりあえる、などと言う。
さらには、武器があるから人は不幸になる。武器などなくてもいいくらいだと言う。
「もし他の国が攻めてきたらどうするにゃ?」
マルス「その時は、敵の軍に乗り込んでいって、酒を酌み交わして語り合います! 腹を割って話せばきっと分かりあえますよ!」
そして、そうは思いますよね? と俺に同意を求めて来る。どうやらメイヴィスは同意してくれないので、俺に同意してほしかったらしい。
もちろん、俺も同意はしなかったが。
…これは、頭の中はお花畑か?
お説はご立派ではある、のかも知れんが…
…無理だろ。
人は争うものだ。
特に、平和な日本でだって争いは絶えなかった。ましてやこのような世界では…。
俺はこの世界の全てを見てきたわけではない。むしろ知らない事の方が多いが、ちょっと見ただけで分かる、文化レベルはそれほど高くない、どちらかと言えば野蛮な世界である。人から奪い、殺しても自分が幸せならそれでいい、そんな奴がごろごろ居る世界だろう。悪い事を考える奴はいくらでもいるはずだ。
それに、この国は古い時代から他国を侵略併合してきた覇権国家であるとメイヴィスに聞いた。そういう歴史があるので敵も多いのだそうだ。敵が多いなら国を守るために武力は絶対に必要だろう。
武力を無くすのはさすがに無理にゃろ? と俺ははっきりと言ってやった。
反論されるかと思ったが、意外にも『そうですよね』と素直にマルスは聞く。
なんだ、話せば分かってくるのかと思う。
ならちゃんと教えればなんとかなるか?
だが、マルスは続けて、『今は』と言った。
「ん?」
マルス「人は、本当は、争いなどしたくないはずです。悪い事をしたいと思って生まれてきた人間は居ないと思うのです。人は神の子、生まながらにして善なる者だと思うのです。悪い事をしてしまった者は、そうさせてしまった社会が悪いんじゃないかと思うんです…」
ん~これは、どしようか。
と考えてもしょうがない。直球勝負だ。思った事は何でも言ってしまおう。
俺は誰に忖度する必要もない立場だ。なんならこの国の皇帝にだって好きな事を言うつもりでいるのだ。無礼だの不敬罪だのと言い出すなら、さっさと逃げ出して森に帰ればいいだけの事なのだから。
「次の皇帝が…この考え方で大丈夫にゃのか…?」
マルス「何か間違っていますか?」
「思い切り間違えてるにゃ。為政者は、“性悪説”に立って物事を考えなければならないにゃろ?」
マルス「え?」
「大部分の人間は善であるかも知れないが、それを信じて政を行えば、一握りの悪に社会がひっくり返される事ににゃるだろ。そもそも俺は、人の本性は善ではないと思っているしにゃ」
マルス「それじゃぁ! カイトさんは! 人は生まれながらに悪だとおっしゃるのですか?」
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