君に心を

河嶋 亜津希

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凪都は志津希の呼吸が整うまで根気強く背中をさすり続けた。志津希が落ち着くともう一度水を飲ませて肩を抱く。

「志津希、もう少しだけ頑張れる?」

志津希は凪都を気遣うように優しく声を出して頭を撫でる。凪都のおかげで気持ちが楽になった志津希は凪都の目を見てこくんと頷いた。

「俺がそばにいるから安心して。」

はっきりと言い切って凪都は志津希から離れ部屋の外へと出ていく。少し頭はぼーっとしているが志津希は落ち着いていた。しばらくすると部屋の外が騒がしくなってがちゃりとドアが開いた。

「河嶋、!よかった…。」

まず部屋に飛び込んできたのは稲瀬で志津希のベッドに駆け寄るとほっと息をついて志津希の肩に触れた。稲瀬に返事をしようと声を出そうとして志津希の体は固まる。次に部屋へ入ってきたのは凪都と志津希を取り囲んでいた一年生数名、そして強化授業の日に凪都に声をかけたクラスメイトだった。教師に連れられて全員バツの悪そうな顔を浮かべている。無意識に志津希は自分の肩が震えるのが分かった。凪都は素早く志津希の元へ駆け寄ってベッドに腰をかけた。固まる志津希をそっと守るように引き寄せ、肩を抱く。人前だからとか教師の前だからなんか気にする余裕もなく志津希は凪都の腕にしがみついた。

「ここにきたと言うことは河嶋の教科書や私物、徽章まで盗んで隠したもしくは捨てたのは事実だと認めたんですね?」

凪都の冷静な声が場を制する。怖くてたまらない。凪都の服をぎゅっと握った。

「ここにいる全員、認めたよ。河嶋くんの私物の窃盗、机・ロッカーへの嫌がらせ。ただ、徽章は一年生全員自分ではないと言っている。そして伊勢山のクラスのゴミ箱からこれが見つかった。」

志津希の担任教師の手のひらの上には星型の徽章。キラキラと輝いていた青い石に志津希の距離から見ても分かるほど大きな傷が付いていた。視線は一気に凪都のクラスメイトへと注がれる。自分に偏見なく接してくれるいい奴だといつか凪都は言っていた。あんなに嬉しそうだったのに、。ちらりと凪都の表情を見ると眉を歪め苦しそうだ。志津希は思わず凪都の腕を慰めるようにそっとなでた。凪都が驚いたように志津希に目線を向ける。志津希は黙って凪都に頷いた。それで少しでも凪都の気持ちが軽くなればいい。

「な、んでこんなことしたんですか。」

震える喉で志津希は声を押し出した。クラスメイトは目を合わせることなく項垂れている。

「…だって、意味が分からないだろ、大した努力もしてない変人のお前が!学年一位?たまたま伊勢山と同室になれただけの癖に、伊勢山に取り入ってヘラヘラ笑って。伊勢山から徽章まで受け取って…今度は自分自身も人気者気取り、俺はお前みたいな奴が一番気に入らないんだよ!」

本当に志津希には1ミリも理解ができない。妬み嫉みはこの学園には付き物で今まで“一番”だった者が上には上があることを嫌でも学ばされる。そんなものもう一年の頃に充分理解できるはずなのに。志津希は少しだけ残っていた怒りの火がスッとなくなったのが分かった。志津希を見下していてその相手に負けたことがこの人は耐えられないのだろう。

「だから!ここにいる馬鹿な一年焚きつけて大事な物を奪った!でもこんなこと大したことないだろう!ここじゃもっとひどいいじめも嫌がらせもはびこってる!、なぁそうだろ?伊勢山?」

大演説を繰り広げる本人以外はみな冷ややかな視線を送っていた。凪都は不快感を隠さず眉を歪めてしまっている。最初に口を開いたのは意外にも稲瀬だった。

「君はこれの認識を誤っているんじゃないか?」

教師の手のひらから徽章を奪い取って目の前に差し出す。場にいる半数以上が意味を分かっていなかった。

「君が意気揚々と傷つけたこの真ん中の青い石、Sランクのタンザナイト約5.0ct。立派な鑑定書付き。まぁダイヤモンドなんかとは比べものにはならないが、立派な宝石なのは間違いない。在学中は学園の物だが卒業後取得した生徒に所有権が渡る。…盗った物の大きさで判断したくはないがこれはご立派な犯罪です。そうでしょう?先生方。」

志津希は稲瀬のスラスラと出てくる言葉にめまいを感じていた。数時間前まで志津希はなんて物を首にぶら下げていたのか、考えるだけで吐き気を催す。つくづくこの学園の趣味は最悪最低である。高校生にこんなもの寄贈する馬鹿がどこにいる!志津希は心の中で叫んだ。

「これは、寮代表として発言しますが…。」

黙って事の成り行きを見ていた凪都は視線を下げながら声を出す。

「平気で人の物を盗む倫理観のある者は、次はもっと大きなものを盗る事になります。実際、文房具ほどの小さな物をから始まった今回の件も結局は徽章を盗むまでに発展した…寮生活という小さな檻の中で暮らす僕たちにとって見過ごされては困る案件です。一度だからと簡単に許すのではなく、正当な処分を求めます。」

淡々とした口調の中に凪都の確かな怒りがあった。クラスメイトの顔色はみるみるうちに悪くなりもう立っているのもやっとのようだった。共犯の一年生たちもことが大きくなっているのを感じているのか呆然としている。

「分かった。多畑くんと伊勢山の主張は正当な物だ。こちらでしっかりと対応を検討し、最終的な判断は河嶋くんが納得した上の処分を下す。どうだろうか、河嶋くん。」

真っ直ぐとしっかりした口調で教師は志津希に問いかけた。志津希はすぐにスラスラと言葉を紡ぐことが出来ず口ごもってしまう。凪都は焦らなくていいと語りかけるように志津希の手を取った。

「…僕は、僕はもう二度と僕に関わることがないと確約されればそれで、構いません。謝罪も必要ありません。」

担任は志津希の言葉を受け取り強く頷いた。とにかくもう一秒でも早く凪都との日常を取り戻したい。志津希の強い願いだった。それからは担任が主導で他の教師数名と共に話が進み、処分の内容は持ち越されることになった。加害者生徒は教師に連れられ、志津希たちの部屋から出ていく。志津希はぎゅっと拳を握り最後にドアに向かう凪都にクラスメイトの背中に言葉を投げる。

「凪都は、!君の話をしてくれた時、分け隔てなく仲良くしてくれるからいい奴だって教えてくれた、だから人の努力の形を偏見で見ないでください…君はきっとそれができる人だから、」

聞こえたのかは分からない。だけど部屋を出ていくクラスメイトの背中は小さく震えていた。
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