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しおりを挟むベッドに座りながら凪都は志津希の肩を抱く。志津希も凪都に体を預けぴったりとくっついた。凪都の香りに心が落ち着いた。
「…志津希。」
「んー?なぁに…」
穏やかすぎる時間に志津希の頭はふやけている。凪都が隣にいれば気が抜けてしまうらしい。ちらりと凪都の顔を盗み見ると眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
「俺は絶対に全てを解決する。志津希と離れないためにあらゆる手を使う。」
根拠はない。子供の妄言と大人は笑うだろうか。あんなにも大きな存在にちっぽけな自分の声は聞いてもらえるのだろうか。思い浮かぶ不安は尽きない。志津希は凪都の指に自分の指を絡ませた。
「僕…あの日凪都が影山くんを選んでからずっと、凪都は最後に影山くんを選ぶんじゃないかって…思ってる。」
「志津希、!俺はっ、」
慌てる凪都を志津希は目線だけで制した。本気で凪都は暁美を選んでしまうのではないかと志津希は考えている。そしてその方が凪都にとっては幸せなんじゃないかとも思っている。
「でも…ごめんね。僕凪都を諦められない。」
志津希のエゴだ。凪都の存在は志津希に自分中心の考え方や欲求を最優先にさせてしまうほど大きい。暁美の友達と話してこれを口に出してしまってからより自覚させられてしまった。だからこそ実家に帰って戻ってから少し乱暴に志津希を求める凪都に安心していた。凪都は志津希のものだという事実が嬉しかった。
「昔から何もかも諦めれば上手くいった。欲しかったゲームも友達と遊ぶ時間も。諦めれば大人は褒めてくれたし認めてくれた。」
稲瀬やアルバートの言う昔の凪都。志津希は知らない凪都。
「中等部に上がったとき、体育の授業中に事故があって足の骨を折ったことがあるんだ。しばらく入院になって俺はその病院に通院していた子を好きになったんだ。もちろん男。」
凪都は思い出すように言葉を噛み締めた。
「暇で暇で仕方なくて病院内を松葉杖で歩き回ったとき同い年ぐらいのその子に出会って。待合で話すだけの関係で名前も知らなかった。でもその子といれば楽しくて笑ってもらうと嬉しかった。でも突然その子は病院に来なくなって通院が終わったのかとか、何か傷付けることをしてしまったかもしれないってずっとモヤモヤして」
凪都の手の力が強くなる。志津希は凪都を安心させるようにそっと寄り添った。凪都も志津希も苦しみを抱えている。
「家に帰ったら俺の部屋は無くなってた。」
「え?、」
「前に行ったホテルは本当の実家じゃないんだよ。本邸は別にあって子供の頃は両親と弟と住んでた。志津希にあげた中庭の薔薇は本邸の温室から持ってきたんだよ?」
冗談ぽく少し微笑んだ凪都に志津希はほっとした。確かに凪都から中庭をプレゼントされたとき温室の話をされた。本邸、温室、ホテル。つくづく凪都の話のスケールは志津希の想像を超えてくる。
「珍しく父親が帰ってきてると思ったら自分の部屋は無くなってるし訳が分からなかったけど夕食の席で父さんに余計な性的趣向は捨てろってはっきり言われたよ。…父さんには俺があの子に恋をしていたのが分かったみたいでそこからは全てがなし崩し。学園に通うことはおろか、本邸に帰ることも禁止されて俺はそこから丸3年あのホテルでほぼ監禁状態。家庭教師に勉強を教わって、父さんの息がかかった社員に会社の全てを教わった。」
淡々とでもどこか悲しみが滲み出る。心臓が苦しい。凪都の求めたものは全て凪都が素直にそれを求める前に大人に排除されてしまった。志津希は繋いでいた手を引っ張り凪都を引き寄せた。志津希に体を預けた凪都をぎゅっと抱きしめる。凪都の腕も志津希の腰に周りふたりの間に隙間がなくなった。髪を優しく撫でると志津希の胸にそっと凪都の頭が寄り添った。
「あの子が急に来なくなったのも父さんが息子に近づくなと迫ったからだった…。父さんは俺のためといつも俺が嫌がることを仕掛けてくる…でもそれは全て伊勢山を守るため。伊勢山の名前は俺を不幸にしかしない。」
子供のように頬を寄せて甘える凪都。なにもかも諦めれば上手くいく。凪都に刷り込まれた、凪都が自分を守るために作った檻。
「…好きだよ。凪都。」
「志津希…」
「絶対に凪都を諦めない。」
抱きしめて離さなかったらいつかどろどろに溶けてひとつに繋がれるんじゃないかと馬鹿な考えが頭をよぎる。全部全部志津希の全てが凪都の一部になればいい。
「俺、志津希だけなんだよ。諦められないって思ったの。だから俺が暁美を選ぶなんて思わないで…」
凪都が消え入る声で志津希につぶやいた。志津希は答えるように凪都の頭を撫で続けた。凪都が志津希を好きになって執着しているのは寂しかった凪都にたまたま志津希が出会ってしまったからかもしれない。でもそれでもいい。ただ目の前の凪都を志津希は信じていたい。
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