君に心を

河嶋 亜津希

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新しいクラスになったからと言って志津希にはなんの心の変化もない。クラスメイトたちはそわそわと周りを伺っているが興味がなかった。名前順に並べられた志津希の席は窓側の一番後ろ。ひとりになるには最高だった。志津希は頬杖をついて窓の外を眺めていた。不意に朝のことが頭によぎって険しい表情になる。まだ凪都と出会って一日しか経ってない。なのに志津希は気づけば自分からベラベラ喋ってしまっていた。最悪だ。凪都は志津希に嫌われる理由がなかった。志津希の嫌なことはしないし聞いてこない。なのに志津希を自分から喋らせる。それを意図していることを志津希にすら気づかせない。末恐ろしい…。志津希は心の中で呟いた。

「どうしたの?険しい顔して。」

後ろから声が聞こえて志津希はどきっとした。振り返ると稲瀬が楽器のケースを持って立っていた。

「あ、いや…なんで多畑くん、」

志津希は思わず口ごもってしまった。なんとなく凪都のことが頭にあって気まずい。稲瀬はなにも知らないけど。

「なんでって僕もこのクラス。」

稲瀬はきょとんとしながら志津希の隣の席に荷物を置く。目を見開いた志津希はそのまま固まってしまう。多畑くんと同じクラス…。凪都の影が教室にもあることになる。志津希は頭を抱えたい気分だった。しかもよりにもよって隣の席なんて嫌がらせだ。

「河嶋、ちょっと聞きたいんだけど。」

「え?」

席に座った稲瀬は教科書を机に突っ込みながら志津希に話しかけてくる。志津希の心臓はずっと脈を打っていた。学園内で誰かと話すことなんてないから余計なことを口走ってしまいそうだった。

「凪都とどういう関係なの?」

志津希は稲瀬の言葉がすぐに理解できなくて何回も頭で反芻した。どういう関係?どういう?考えてもいい言葉は見つからない。

「別になんの関係もないよ、昨日初めて会ったし、…」

結局志津希はありのままを話した。本当に凪都と志津希はなんの関係もなんの接点もないのだ。強いて言うなら昨日からルームメイトになった。ただそれだけだ。

「ふーん…そっか。あ、これこっちに置いてていい?」

自分で聞いたくせに稲瀬はあまり興味がないらしい。志津希はなんだよと少しむっとする。稲瀬はそんなの気にしない様子で楽器ケースを志津希との間に置く。

「ヴァイオリン?」

「ううん、ヴィオラ。」

「へ~…」

音楽の知識はあまりない。志津希は隣に置かれた楽器ケースをまじまじと見た。楽器が弾けない志津希としたら弾けるだけで凄いと思う。そんな志津希を見て稲瀬はぷっと吹き出した。

「河嶋って本当になにも知らないんだな。」

「え?」

確かに志津希は知らないことが多い。凪都のこともまだ知らないことだらけだ。いや、志津希は学園内のことに関して興味がないといったほうが正しいのかもしれない。

「僕が寮生の理由はこれ。家族で音楽をやってるんだ、一応。」

ぴっと稲瀬が名刺サイズの紙を志津希に渡す。受け取った紙にはcampoの文字と様々な弦楽器が描かれていた。寮生の理由ということはきっと稲瀬は全国レベルということだ。

「なんて読むの?」

楽団の名前は英語ではないらしい。キャンポ?志津希は不思議そうに紙を見つめる。

「イタリア語で畑って意味。ダサいでしょ?」

「畑?…あ。」

「そ、多畑だから畑。本当、うちの父親のネーミングセンスはないね。皆無だ。」

呆れた顔で言い切った稲瀬がおかしくて志津希は笑ってしまう。確かに多畑で畑は安直すぎかもしれない。そういえば凪都の寮生の理由はなんなんだろうか。稲瀬になにも知らないと言われたけど確かに志津希には知らなすぎる。

「ねぇ、」

志津希が口を開くとがらっと教室のドアが開く。つかつかと担任の教師であろう男が入ってきた。稲瀬は気にしていないのか志津希にん?と顔を向ける。志津希は少し戸惑いながら小声で話を続けた。

「凪都は、なにで寮生になったの?」

少し稲瀬は固まっている。なにかおかしなことを言っただろうか。志津希は少し不安になった。

「河嶋。昼、一緒に食おうな。」

「え、?」

「な。河嶋。」

志津希の肩をガッと掴んだ稲瀬は美しいスマイルを崩さずに言う。志津希は悪い予感がしてならない。志津希は一応苦笑いを稲瀬に返す。
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