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しおりを挟む『志津希…お前大丈夫か?』
低い疑うような葉津希の声が響いた。志津希はベッドの上で足をばたつかせる。
「ん~!!」
志津希は枕に向かって唸った。土曜日の夕方。凪都は外出している。赤い日が差し込む部屋で志津希は悶々としていた。
『やっぱり共同生活は辛いか?』
本当に心配そうな声。志津希は見えないとわかっていてもぶんぶんと首を振った。
「ううん。大丈夫!、だよ?」
『そうか?』
薔薇の中庭が出来て一週間と少し。凪都とルームメイトになって三週間が経った。もう少しで大型連休に差し掛かる。今年は十日も休みがあるらしい。葉津希の電話はそのことについてだった。だけど志津希の少しの変化に葉津希は感づいてしまったのだ。
『俺らは志津希を信じるしかないんだぞ。』
葉津希の言葉に志津希はうっと息を詰まらせる。葉津希は志津希が嘘をついていることをとっくにわかっていた。正確に言えば凪都との共同生活は辛くない。凪都は志津希のリズムをわかってくれているし志津希に無駄な干渉をしてこない。非常に快適だ。
「はぁちゃん…僕もうわかんない…」
『志津希にわからないことなんかあるのか』
葉津希の優しい声が心地いい。わからないことだらけだ。ただはっきりわかるのは凪都の気持ちだけ。志津希はまた枕に向かって唸った。
『で?帰ってくるのか?』
切り替えるように葉津希は息をついた。志津希は正直迷っている。絶対に春はかえってくるだろうと思う。あの電話以来春と連絡は取っていないのだ。会うのが怖い。
「んーどうしよう…」
『無理して帰ってくることはないんだぞ?俺と奈津希は待ってるけど…』
「もうちょっと考えようかな…僕もはぁちゃんとなぁちゃんに会いたいし」
『あぁ。二、三日帰ってくるだけでもいいし』
志津希はその手があったかとぴんとくる。春が帰ってこない日に帰ればいい。いい案だ!と思った瞬間、志津希は思い直った。春が帰ってくる日をわざわざ誰に聞く。聞くのもおかしいしずらして帰るのもおかしいんじゃないか。志津希はぴたりと体の動きが止まった。また始めからになってしまったと肩を落とした。
『志津希?』
心配そうな葉津希の声が志津希の思考を引き戻す。はっとして慌てて返事を返した。
「ごめん、」
『あんまり俺たちに気を使うな。』
柔らかい葉津希の表情が浮かぶ。志津希はへにゃへにゃと体の力が抜けた。
「うん…ごめん、」
『謝らなくていい。また決まったら連絡してこい。じゃあ、』
「うん。また連絡するね!」
志津希はほっと息をついて電話を切った。凪都は実家に帰るんだろうか。いつか実家が苦手だと言った凪都。いつも無理にあの笑顔を浮かべて帰っているのかもしれない。志津希は心臓がぎゅっと痛んだ。ごろんと体を回す。視界に凪都のベッドが入った。凪都の前で春と電話をしてからなんとなく気まずい。いや、凪都はなんら違和感を感じないぐらい志津希に対応してくる。だけど志津希の心は複雑だった。
「はぁ…」
志津希は凪都の悲しそうな目を思い出してため息をはく。好きな人が目の前で好意を持ってる相手と電話してるなんてありえない。凪都を傷つけてしまった。馬鹿だと自分を呪う。志津希はふらふらと立ち上がって凪都のベッドに倒れこんだ。ふわりとあの日のカーディガンと同じ香りが漂う。今だけ、今だけだ。凪都がいない今だけ。痛い胸を押さえながら志津希はぎゅっと目を閉じた。
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