君に心を

河嶋 亜津希

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甘いプリンが口に広がる。心が温かい感じがした。ちらっとソファの隣に座る凪都を盗み見た。

「美味しい?」

志津希は慌てて声を出さずに頷く。見つめていることがばれたんじゃないかと心臓がばくばしている。志津希は誤魔化すようにプリンを頬張った。プリンは柔らかくて甘い、だけどカラメルが程よく苦くてとても美味しい。

「…今日ね、父さんに会ったよ。」

ぽつんと凪都が呟いた。志津希は体の動きが止まる。

「いつも仕事でいないから会う、つもりなかったんだけどたまたま帰ってきてたみたいでさ。ちょっと、きつかった…」

凪都が自ら切り替えた空気はまた元どおりになってしまう。俯いた凪都の表情が見えなくて志津希は不安になった。志津希は戸惑いながら凪都の手に触れる。凪都が遠くに行ってしまいそうだった。触れていないと小さくなって消えてしまうかもしれない。志津希は本気でそう思う。

「しづ、き」

志津希の名前を呼んで凪都は俯いた顔を上げた。まっすぐ志津希を見る。少し茶色い目が志津希を捕らえた。凪都は志津希に飛びついた。どさっと志津希はソファに体が沈む。抵抗する間もなかった。凪都は志津希の胸に顔を埋める。ぎゅっと抱きしめた。

「凪都、本当にごめんね。」

顔の見えない凪都に向かって呟いた。優しく凪都の頭を撫でる。

「なんで志津希が謝るの…」

「あの日本当に酷いこと言ったから。最低だった…凪都の気持ち知らずにずけずけ好きなこと言って。自分勝手だったよね。」

ぱっと凪都が顔を上げる。あの日のことを志津希はずっと後悔していた。凪都の事情を知らないにしても最低だった。凪都は辛い思いをしてきたのに志津希は凪都を責めてしまった。いつも自分に自信があってしゃんとしている凪都がこんなに弱っている。よっぽど父親の存在が凪都には負担なんだろうと思う。

「志津希、聞いてもいい?」

小さく凪都は言葉を発する。伺うように志津希を見ていた。志津希は小さく頷く。

「なに?」

「志津希のお父さんやお母さんのこと。」

少しだけ心臓が痛くなる。だけど志津希は凪都から目を離さなかった。今まで春の家以外他人に深く両親の話をしたことがない。学校では噂話やなんやらで瞬く間に広がったけど三つ子は誰にもなにも話さなかった。聞いたって気持ちのいい話ではない。なにより憔悴しきった三人に周りは腫れ物を触るように接してきた。もともと親密に関わっていたわけではないが志津希の人嫌いがより強くなったのはこの頃だ。ぐっと志津希は身構えた。凪都はなにも言わない。

「…死んだんだ。六年前に、事故で。」

案外自分の声は淡々としていた。感情を出せば泣いてしまいそうだった。大切な人をなくした。怖さが襲ってくる。

「優しくて強くて僕らを守ってくれた…」

だけど居なくなってしまった。もう二度と会えない。天井を見つめる。

「志津希。」

抱きしめたまま凪都は体を起こした。ぎゅっと凪都に抱きつく。温かい体温とゆっくり聞こえてくる鼓動が落ち着いた。本当に泣いてしまいそうだった。家族以外の他人でこんなに落ち着いたことはなかった。

「春くんと僕らは生まれたときから一緒で春くんの家族はお父さんやお母さんが亡くなったとき僕らをずっと助けてくれた、」

「大切な人なんだね…」

凪都の返事に志津希は黙って頷いた。春や春の両親に志津希たちは感謝してもしきれない。まだまだ子供だった志津希たちと祖母を支えてくれた。

「俺もごめんね。志津希に辛いこと言わせたのにちゃんと謝ってなかった。」

志津希は首を振る。ふたりはまだお互いを知らない間に近くなりすぎたのだ。凪都から志津希を陥れようなんて気がないのはわかっている。そしてふたりは確実にもっと近づこうとしている。まだ出会って一か月も経っていない。だけど抱きしめることもキスも志津希は許している。少し怖かった。このまま凪都に全てを許していいんだろうか。志津希は迷っている。ただ確実に言えることは志津希はもう引き返せないところまで来てしまっている。
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