君に恋を

河嶋 亜津希

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家の玄関を開ける。なんだか随分と久しぶりに感じた。少し緊張した。

「、ただいまー…」

返事はない。薄暗い玄関の電気を付けて奈津希は靴を脱いだ。どうやら祖母は買い物に行っているらしい。いないのか…会いたかったな。奈津希はいつものように階段を上がって自分の部屋に向かった。二階は三つ子の部屋が三つ並んでいる。三つ子がまだ母のお腹にいるときに父が建てた家。二階の部屋割を子供部屋三室と決めたのは母だった。三人一緒の部屋ではなくきちんと別々に作ってくれた。廊下を通り抜けて一番奥にある自分の部屋に入る。当たり前だが部屋の光景はいつもとなんら変わりなかった。

「…はぁ」

ほっとしたように息を吐く。奈津希は内心、葉津希がいたらどうしようと思っていた。自分の家に帰ってきただけなのに疲れ果てていた。奈津希は気分を変えようとベッドの横の窓を開ける。冷たい冬の風が吹き込んでくる。だけど今の奈津希にはそれぐらいがちょうど良かった。すぐ外には春の部屋に繋がる窓がある。この窓からすぐに春とお互いの部屋を行き来していた。夕食を食べ終わって暇なとき、勉強を教えてもらうとき、そして両親が亡くなって春のベッドに潜り込んだとき。奈津希の春との繋がりはいつもこの窓からだ。この窓があったから奈津希は春の場所に行けた。奈津希はベッドの上に座ってぼーっと窓の外を眺める。春が大学に上がって明かりが付かなくなってから奈津希はなんとなく必要以上に窓を開けなくなった。真っ暗で静かな春の部屋を見るのが嫌だった。

「奈津希~」

いきなり名前を呼ばれてはっとする。下を見ると買い物袋を持った祖母が手を振っていた。奈津希は驚いて祖母に手を振り返す。祖母はそれを見て柔らかく笑うと玄関に入っていった。奈津希は手早く鞄の中に服を詰め込む。勉強机に立てかけられた教科書を何冊か選んで学校鞄に入れた。

「奈津希、入ってもいい?」

控えめな声が扉の向こうから聞こえてくる。奈津希は慌てて扉を開けた。

「そんなに慌てなくてもいいよ。葉津希は友達の家にいるみたいだから」

奈津希がバタバタしているのに気づいて祖母はふんわり笑った。

「ごめんね、心配かけて…」

眉を下げる奈津希になにも言わないで優しく肩を叩く。昔は頭を優しく撫でてくれていたけれどいつのまにか奈津希が祖母の身長を追い越して祖母の癖は頭から肩になった。

「春くんのところにいるんでしょう?おかず、何品か持って行きなさい。詰めてくるからゆっくり準備しておいで。」

そう言うと祖母は奈津希の部屋から静かに出て行った。祖母には感謝してもしきれない。両親が亡くなってからずっと三つ子の世話をしてくれている。奈津希たちが今日まで生きてこれたのは祖母のおかげだ。だからこそ葉津希に中途半端な気持ちでいて欲しくない。奈津希は息を吐き出してもう一度鞄の中を整理した。
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