君に恋を

河嶋 亜津希

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「へーじゃあなづくんは春とずっと一緒なんだね!なんかいいなぁ~」

「はい、まぁ…」

リビングはちょっとしたホームパーティーのようになっていた。國彦が注文したピザがテーブルにいっぱい並んでいて奈津希が追加で作った料理も何品か置いてある。奈津希を含めて9人がテーブルを囲んで座っていた。みんな春のバイト先の人らしい。

「梓!あんま奈津に絡むな!奈津も全部答えなくていいから。」

「んもぉ~春は過保護だなぁ~」

春は奈津希を守るように隣に座っている。奈津希を気に入った様子の梓が近づいてこようとするのを春は必死に防いでいた。奈津希はそれを見てくすっと笑う。

「俺、なんか作ってくるね。」

「お、なづなづは気がきくねぇ~」

國彦がちゃかすと部屋はどっと笑いに包まれる。奈津希は春の肩をぽんと叩いてキッチンへ向かった。春くん、気が気じゃないって感じだ。なんだかいっぱいいっぱいの春が奈津希は面白かった。そういえば春の友達?に会ったのはこれが初めてだ。いつも春といるときは三つ子と四人だったし春が家に友達を連れてきている様子もなかった。春は奈津希たちに気を使ってくれていたのかもしれない。奈津希は短く息を吐いて料理を始めた。野菜を切る音が軽やかに響く。とりあえずサラダと、唐揚げでもしようかなぁ。頭の中で構想を練っていく。作っているときは無心になれるのだ。手際よくサラダの野菜を切っていく。

「器用だなぁ、なづなづ」

「わぁっ!」

いきなり聞こえた声に驚いて包丁を落としそうになる。奈津希は慌てて振り向いた。

「危ない、危ない!」

「びっくりしたぁ…驚かさないでくださいよ、中野さん!」

悪戯っ子のように國彦が笑う。奈津希ははぁと息をついた。

「どうしました?」

「なづなづ見にきただけ~てか中野さんってなんか嫌だから國彦でいいよ?春もそう呼んでるし」

さらりと流れる茶髪に少しタレ目が艶っぽい。男の奈津希が見ても格好いいと思う。性格も社交的だしきっと女の子にはモテモテなんだろう。奈津希にはないものを國彦は持っている感じがした。いわゆるチャラ男だ。

「じゃあ…國彦さん、見てても何も面白くないですよ?向こうでみんなと話してればいいのに」

國彦はじっと奈津希の顔を眺めていた。こんなに見つめられたら困ってしまう。

「なづなづ春のこと好き?」

「え、」

そういう意味ではないことぐらいわかっているが動揺を隠せない。思わず声が詰まってしまった。慌てて取り繕うように返事をする。

「えっと、好きですよ?昔からずっと面倒見てくれてるし、」

そう、奈津希は春が好きなのだ。

「ふーん…」

國彦は考えるように上を向く。しばらく沈黙が続いた後國彦はそっと奈津希の手を握った。

「叶わないのって辛くない?」

「え?」

残酷な言葉なのに國彦の表情は優しかった。國彦は奈津希の好きがそういう意味だということを見抜いたのだ。心臓が痛いぐらいに締め付けられる。

「お前になにがわかるって顔だ。でもさ、追いかける恋って辛いでしょ?ならさ追いかけられるほうが楽じゃない?」

國彦の目に捕らえられそうになる。体が固まって手を振りほどけない。じわじわと追い詰められて國彦に後ろから抱きしめられる。

「な、に…言って、」

数時間前に会ったこの男に全て見透かされているようだった。

「國彦?」

春の声が聞こえて國彦は奈津希から軽やかに体を離した。奈津希は慌てて包丁を握り直す。

「買い出し行くか?バイク回すけど。」

「お、行こー。安全運転でお願いね?ダーリン♡」

「きもいこと言うな。あほ。」

春にばれていないことに奈津希はほっとしていた。春と國彦のやりとりを聞きながら奈津希は包丁を握りしめる。

「奈津?行ってくるけど大丈夫か?」

春が俯く奈津希の顔を除きこむ。奈津希はなるべく春に目を合わせずに頷いた。國彦はいつのまにかいなくなっている。

「大丈夫、行ってらっしゃい。」

「疲れたならベッド行って休んでろよ。」

春の優しさが奈津希の罪悪感をより深く突き刺した。春がキッチンから出ていくと奈津希はずるずると床に座り込んだ。まだ心臓が痛い。奈津希は自分の体をぎゅっと抱きしめた。春に迫らせたときには感じなかった恐怖が奈津希をすっぽりと覆いつくした。
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